物語の始まりの合図
昼休み前
仕事の最中にふとあの店の事を思い出した。
(この店は、特別な人にしか来れないんですよ……例えで言えばあなたみたいな自分の事を憎んでいたりとか……)
「特別な人しか来れない店、なぁ」
ほんまあいつら不思議やったな。特にあの村井って言うやつは……
小さく呟きながらそんな事を思っていると昼休みを告げるチャイムが鳴って、そのチャイムの音で我に返った。
あーあかん、仕事中やのに手止まってもうてた
自分に少し苛立ちを覚えながらも食堂に向かおうと廊下に出ようとして立ち上がれば、廊下のある光景が目に入った。
「あいつ何してんねん……」
怪訝な表情をおもわず浮かべて見てみれば、そこには伊川が誰かと電話していて、しかし穏やかな様子では決してなかった。
しばらくガラス越しで眺めていれば、電話が終わったのか携帯を懐に入れて歩き出そうとした伊川と目が合った。
目が合ってしまい、お互いに動きが一瞬止まってしまったが、すぐ我に返って伊野部が廊下に出ると
「もしかして兄さん見てました今の?」
「何を?俺は、ただちょうど立ち上がったらお前と目合っただけや」
わざと惚けるような仕草を見せて聞き返してみれば、いや見てないんやったら良いんです。ごまかすように答えると伊川はどっかに歩き去っていった。
「ほんまなんやねんあいつ……」
明らかに様子が変だと分かったが、なぜか呼び止めようと思わなかった。
この感じどっかで感じた事があるような気がすんねんなぁ……そんな事を思っているとふとまたあの言葉を思い出した。
(この店は、特別な人にしか来れないんですよ……例えで言えばあなたみたいな自分の事を憎んでいたりとか……)
「……あいつらやったらなんか分かるんかな……」
村井の顔がまた思い浮かび、今日の帰り久し振りにあの通り歩いて帰ろうかな。開いてるか分からんけど……
そう考えながら食堂に向かった。
「もうほんまに全く違う道を歩み始めてるんやな俺達……」
伊野部と別れた後に近くの廊下の角で壁に寄り掛かりながら携帯を握り締めて小さく呟く伊川がいた。




