新たな決意を胸に
「……今日はありがとな」
身体を向き直して、伊野部に感謝の言葉を述べると伊野部は照れたような反応を見せる
「なんやねん、改めて」
「いや、なんか今言うとかなあかんような気してな」
「まぁ今度来るん一年後やしな」
「……せやな」
「なんか言いたい事あるんやったらはっきり言うてええで、何言いたいかは多少予想付いてるけど」
「じゃあ言わせて貰うけど……もう変な事考えんなよ?それ以上傷増えたらまた成仏出来なくなってまう」
「もうせえへんわ」
手首の包帯に目線をやりながら答えるとまだ心配なのかほんまか?と聞き返してきた。
「ほんまや、信用せえ」
「今までの行いのせいで人格自体に信用出来へんのやけど……」
「なんやねんそれ」
「んーでも、今の見て心配ないって分かったわ」
ほんまにせえへんからと力強く宣言すると藤崎も安心したように微笑むと夕日を眺めた。
夕日の光に当たると身体が少し透けてきているのが分かった。
「……じゃあほんま日も暮れてきたし帰るわ」
「おん……」
「またな」
「おん……元気でな」
沈みかけている夕日を眺めたまま告げる藤崎に笑みを浮かべてお前もなと告げて背中を向けた。
背中を向けた瞬間
「また一年後な」
「一年後いや、毎年来るのを楽しみやわ」
「……せやな」
そう頷くと夕日が地平線に完全に沈むと同時に藤崎の姿も木に吸い込まれるように消え去った。
気配が消えるのを背中で感じながらゆっくり歩き出した。
すっかり暗くなってしまった丘から歩みを進めた伊野部は、新たな気持ちを胸に抱くような気がした。
歩みながら、小瓶を懐に納めてふと足を止めると右手首の包帯に手をかけた。
そして伊野部は、ずっと巻いていた包帯を解いて傷をさらけ出した。
手から離された包帯は、急に吹き込んできた風に乗って飛んでいった。
その時
懐から一枚の写真がひらりと落ちた。
急いで落ちた写真を拾い上げて写真が目に入るとおもわず笑みがこぼれた。
その写真は、あの時日記の一番最後のページの封筒に入っていた二人で撮った写真で……あっこれ忘れとったわと一言呟いたが、また来年でもええかと言い直して写真を懐に入れた。
写真を懐に入れた後にもう一度振り返って傷跡の残る右手を拳にして墓に向かってまっすぐ突き出すと叫んだ。
「来年また来るからな!いや、来年も再来年もずっと何年経っても墓参り来たるからな!どんなにお前が木の下で嫌がっても、な。だってお前との約束やから」
だからずっと忘れへんよどんな時間が経っても……今回体験した事は
風に乗って飛んでいった包帯は、木の枝に引っ掛かり、その引っ掛かった包帯を再び姿を現わして嬉しそうに微笑みながら拾い上げる藤崎の姿は、包帯を手にしながらまた木に吸い込まれるように静かに薄れていき、やがて消えていった。
そして姿が消えた事で、また風に乗って飛んでいった包帯は、墓に引っ掛かり置かれた小瓶の上に被るように舞い落ちた。
第一章 ―完―




