↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生した世界は女神様に支配された世界だった  作者: 忘れな草


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/13

第5話 壁際の男子首席と、聖女のお迎え

「では、昨日のお話の続きをいたしましょうか」


 リリアナはそう言うと、何事もなかったように研究室の中央へ戻った。


 俺の背後では重い扉が閉じられ、普通の錠前だけでなく紫色の封印術式まで淡く光っている。窓にも同じような術式が張られていた。


 逃がす気がない。


 ものすごく分かりやすい。


「話し合いっていうなら、まず扉を開けろ」


「逃げないと約束してくださるなら」


「逃げるに決まってるだろ」


「でしたら、開けられませんわね」


「それを話し合いとは言わない!」


 俺が抗議する横で、ミナが肩を回していた。


「リリアナ様。もう帰っていい?」


「ええ。ご苦労さまでした」


「じゃあね、ユーリ」


 ミナは俺へ手を振る。


「次はもう少し頑張ってね」


「次がある前提で話すな!」


「でも、三人とも結構強かったよ」


「男子としては、だろ?」


「うん」


「最後まで言わなくていい!」


 ミナは楽しそうに笑い、そのまま研究室を出ていった。


 扉が開く。


「今だ!」


 俺も同時に走る。


「あ」


 ミナの横を抜ける。


 あと一歩。


 外だ。


 ばたん。


 目の前で扉が閉じた。


「危ない危ない」


 外側からミナの声が聞こえる。


「逃げるところだったよ」


「開けろ!」


「仕事は終わったから、あとはリリアナ様と話してね」


「仕事の最後に閉じ込めるな!」


 足音が遠ざかっていく。


 俺はゆっくり振り返った。


 リリアナが椅子へ腰を下ろし、優雅に紅茶を飲んでいた。


「さて」


「さて、じゃない!」


「これで静かになりましたわ」


「僕の答えは昨日から変わってないぞ」


「まだ何も条件を提示しておりませんのに?」


「どんな条件でも断る」


「本当に?」


 リリアナが立ち上がる。


 壁際へ歩き、大きな本棚を指した。


「この研究室の蔵書を自由に使わせて差し上げます」


「……」


 少しだけ目がそちらへ行った。


 分厚い魔導書。


 古い術式書。


 男子向けの図書室には置かれていないような本も混じっている。


「火と風の高級触媒も提供いたしましょう」


「……」


「男子では閲覧許可が下りにくい古代魔法の資料もありますわ」


「……」


「中級魔法を使用したあとの魔力回路の管理も、わたくしがして差し上げます」


「…………」


「随分と静かになりましたわね?」


「ちょっと魅力的な条件を並べるな!」


 危なかった。


 普通に聞き入ってしまった。


 リリアナは楽しそうに微笑む。


「悪いお話ではないでしょう?」


「条件だけ聞けばな!」


「では」


「でも断る!」


「なぜですの?」


「自由がないからだよ!」


 俺は扉を指差した。


「外から鍵をかけて、魔法で封印して、人を無理やり連れてきておいて何が共同研究だ!」


「監禁ではありません」


「まだ言うか」


「保護ですわ」


「封印された部屋から出られない保護なんかあるか!」


「あなたが無茶をしなければ、閉じ込める必要もありません」


「順番が逆だ!」


 駄目だ。


 話していても埒が明かない。


 なら。


 自分で出る。


 俺は研究室を見回した。


 扉は正面。


 封印術式はかなり複雑だ。


 リリアナがいる状態で解析する余裕はない。


 なら窓。


 窓にも封印はあるが、扉より簡単に見える。


「ユーリ?」


「《追い風》!」


 背中へ風をぶつける。


 一気に加速。


「あら」


 机の横を抜け、本棚の間を走る。


 窓へ到達。


「これなら!」


 窓枠へ手をついた。


 術式が光る。


 完全に壊す必要はない。


 ほんの一瞬、乱せればいい。


「《風圧》!」


 至近距離から封印へ風を叩き込んだ。


 ガラスが激しく震える。


 紫色の光が揺れた。


「弱くなった!」


 今なら。


 窓を開けて。


 風で隣の窓か下の庇へ。


「惜しかったですわね」


「え?」


 手首をつかまれた。


「いつの間に!」


 振り返る。


 リリアナがすぐ後ろに立っていた。


 手首を軽く引かれる。


 それだけで身体が窓から離された。


「離せ!」


「危険でしょう?」


「閉じ込められてるから脱出してるんだ!」


 だったら。


 俺は空いている手を上げる。


「《火炎弾》!」


「あら?」


 狙いはリリアナじゃない。


 天井。


 火球をぶつけ、爆発と煙を起こす。


 その隙に扉へ。


 そう考えた。


「甘いですわ」


 額へ指が触れた。


「え?」


 組み上げた術式が。


 崩れた。


 火炎弾が火の粉となって消える。


「なっ……!」


「昨日、十分に見せていただきましたもの」


 リリアナが俺の額から指を離す。


「あなたの火魔法も、風魔法も。術式の組み方はほぼ把握しましたわ」


「一日で解析するな!」


「〈賢者〉ですもの」


「便利すぎるだろ、その職業!」


 俺は手首をひねった。


 一瞬だけ拘束が緩む。


「今だ!」


 振りほどく。


 窓は駄目。


 今度は扉。


 走る。


 十歩。


 八歩。


 五歩。


 三歩。


「あと少し!」


 取っ手へ手を伸ばす。


 その直前。


 金色の髪が視界へ入った。


「うわっ!」


 リリアナ。


 いつの間にか、扉の前にいる。


「どけ!」


「嫌です」


 俺が右へ動く。


 リリアナも右へ。


 左。


 左へ。


「通せ!」


「通しません」


「僕は帰るんだ!」


「わたくしは帰しません」


「堂々と言うな!」


 なら。


 脇を抜ける。


 俺は姿勢を低くした。


 リリアナの右側。


 壁との僅かな隙間へ。


「そこだ!」


 踏み込んだ瞬間。


 ばんっ!


「っ!?」


 俺の顔の横。


 壁へリリアナの手がつかれた。


 逃げ道が消えた。


「なら反対」


 ばんっ。


 反対側にも手。


「…………」


 後ろ。


 壁。


 右。


 リリアナの腕。


 左。


 リリアナの腕。


 正面。


 リリアナ本人。


「捕まえましたわ」


「これは捕まえたんじゃなくて、追い詰めただけだ!」


「同じことでしょう?」


「違う!」


 リリアナが少し身体を屈めた。


 金色の髪が左右から垂れ、視界へ入る。


「近い!」


「昨日より、随分と抵抗が激しいですわね」


「当然だ! 昨日より状況が悪い!」


「ですが」


 リリアナは楽しそうだ。


「わたくしは嬉しいですわ」


「何がだよ」


「あなたが逃げようとするたび、新しい魔法の使い方を見せてくださることが」


「やっぱり研究対象じゃないか!」


「だから興味深いと申し上げていますでしょう?」


「褒められてる気がしない!」


 下。


 腕の下なら。


 俺は腰を落とす。


「ここ!」


「あら」


 潜ろうとした瞬間。


 リリアナの膝が壁へつかれた。


「え?」


 下の隙間まで消えた。


「これで逃げられませんわ」


「まだだ!」


 壁。


 俺の背後。


 だったら。


「《反動風》!」


 背中側へ風を撃った。


「っ!?」


 壁へぶつかった風が跳ね返る。


 反動で俺の身体が前へ押し出された。


 さすがのリリアナも、僅かに目を見開いた。


「今だ!」


 肩へぶつかる。


 横を抜ける。


 抜けた。


 そう思った。


「本当に」


 腰へ腕が回る。


「次々と思いつきますのね」


「うわっ!」


 身体が浮いた。


「また持ち上げるな!」


 そのままリリアナの胸元へ引き寄せられる。


「あと少しでしたわね」


「感想を言うな! 下ろせ!」


「このまま長椅子へ戻りましょう」


「戻らない!」


「でしたら」


 腕がしっかり回る。


「このままお話しいたしましょうか?」


「もっと悪い!」


 俺は両手で押す。


 当然。


 動かない。


「くそっ……!」


「諦めなさい」


「嫌だ!」


「本当に諦めませんのね」


「昨日から何回言わせるんだ!」


 俺が必死にもがいた。


 そのとき。


 研究室の扉が。


 白く光った。


「……?」


 リリアナが振り返る。


 扉の封印術式へ。


 外側から別の光が入り込んでいる。


 一つ。


 消える。


 二つ。


 また一つ。


「まさか」


 リリアナの表情が変わった。


「この解除の仕方……!」


「もしかして」


 俺は扉を見る。


 最後の封印が消える。


 重い扉が。


 ゆっくりと開いた。


「やはり、ここでしたか」


 銀色の長い髪。


 白を基調とした制服。


 腰には細身の聖剣。


「ルーチェ!」


「迎えに来ました、ユーリ」


「助かった!」


 その後ろには。


「よう」


 ダン。


 そして。


「悪い。遅くなった」


 ルウまでいる。


「二人とも!」


「目が覚めてから、すぐ学園へ戻った」


 ダンが言う。


「それでルーチェを探した」


「神殿から戻ったところだったから助かった」


 ルウが俺を見る。


 そして。


 リリアナに抱えられている現在の状態を見る。


「……見事に捕獲されてるな」


「笑ってないで助けろ!」


「想像以上だった」


「感想はいらない!」


 ルーチェの視線が。


 俺。


 そして。


 俺を抱えているリリアナへ向く。


「リリアナ」


「何でしょう?」


「ユーリを離してください」


「お断りします」


「本人が嫌がっています」


「今から考えを変えていただくところですわ」


「その方法で変わるとは思えません」


「試してみなければ分かりません」


「僕が断ってるだろ!」


 リリアナの周囲へ光が浮かぶ。


 魔法陣。


 一つではない。


 火。


 水。


 風。


 土。


 雷。


 光。


 複数属性の術式が、研究室へ広がった。


「おい!」


 俺はリリアナを見る。


「室内だぞ!」


「当然理解していますわ」


 リリアナは俺を抱えたまま、ルーチェを見る。


「大魔法を使えば、ユーリも巻き込まれる」


 ルーチェが言う。


「ですから」


 リリアナが微笑む。


「あなたは攻撃できませんわ」


「…………」


「どうなさいます?」


「そうですね」


 ルーチェは少しだけ考えた。


「では」


 姿が。


 消えた。


「え?」


 次の瞬間。


 身体が軽くなった。


 いや。


 違う。


 リリアナの腕から。


 俺が消えた。


「なっ!?」


 リリアナが振り返る。


 その頃には。


 俺は。


「大丈夫ですか?」


 ルーチェの腕の中にいた。


 背中。


 膝裏。


 完全なお姫様抱っこ。


「……助かった」


「はい」


「でも」


「駄目です」


「まだ何も言ってない!」


「下ろしてほしいのでしょう?」


「分かってるなら下ろしてくれ!」


「今日は駄目です」


「どうして!」


「昨日はリリアナに連れ去られかけました」


「うん」


「今日はミナに連行されました」


「うん……」


「そのまま研究室へ閉じ込められました」


「僕のせいじゃない!」


「分かっています」


 ルーチェは真顔で答えた。


「だからこそ、今日は男子寮まで私が運びます」


「歩ける!」


「先ほど逃げるために魔法を何度も使ったのでしょう?」


「……」


「MPも減っていますね?」


「……少し」


「かなり、ですね」


 図星だった。


「それに」


 ルーチェが俺を抱く腕を少しだけ強める。


「もう一度奪われる可能性があります」


「僕は荷物じゃないんだぞ!」


「確かに」


 後ろからダン。


「完全にお姫様だな」


「言うな!」


 ルウも頷く。


「聖女に助けられた小さな魔法使いの姫君」


「お前まで言うな!」


「結構似合ってる」


「黙れ!」


 リリアナが魔法陣を消した。


「今回は譲りますわ」


「譲るも何も、最初から僕はお前のものじゃない!」


「ええ」


 リリアナは穏やかに微笑む。


「ですが、諦めたとは申し上げていません」


「諦めろ!」


「次は」


 少しだけ目を細める。


「あなた自身が、わたくしの研究室へ来たくなるようにいたしましょう」


「絶対に来ない!」


「楽しみにしていますわ」


「僕は楽しみにしてない!」


 ルーチェが研究室を出る。


 俺を抱いたまま。


「ルーチェ」


「はい」


「廊下に出たぞ」


「そうですね」


「下ろして」


「男子寮までです」


「本気なのか!」


「本気です」


「人に見られる!」


 そして。


 すでに遅かった。


「……」


 研究棟の廊下。


 何人もの女子生徒が。


 こっちを見ている。


「ルーチェ様だ」


「抱えてるのって……」


「男子首席のユーリ?」


「また?」


「またって何だ!」


 俺の叫びが廊下へ響く。


「聖女様がお姫様を救出したみたい」


「誰がお姫様だ!」


「銀髪の騎士様と、小さな魔法使いのお姫様」


「僕は男だ!」


 あちこちから笑い声が上がる。


「ルーチェ! 本当に下ろしてくれ!」


「暴れると危険ですよ」


「精神的には今が一番危険なんだよ!」


「安心してください」


「何を!」


「私が抱いている限り、誰にも連れ去らせません」


「評判の話をしてるんだ!」


 ルーチェは。


 ほんの少しだけ。


 頬を赤くしていた。


 それでも。


 俺を下ろす気はないらしい。


「ユーリ」


「何だよ」


「無事でよかったです」


「…………」


 声だけは。


 さっきまでとは違った。


 からかいでも。


 過保護な注意でもない。


 本当に。


 心配していた声だった。


「……ありがとう」


「はい」


「助かった」


「はい」


「でも」


「下ろしません」


「最後まで言わせろ!」


 後ろからダンとルウの笑い声が聞こえる。


 俺は天井を見上げた。


 昨日。


 〈賢者〉に負けて。


 膝枕され。


 研究棟へ持ち帰られかけた。


 今日。


 下級職〈拳闘士〉のミナに三人まとめて負けて。


 肩へ担がれて。


 今度こそ本当に研究室へ連行された。


 そして脱出しようと何度も抵抗した末。


 最後は。


 助けに来た〈聖女〉にお姫様抱っこで連れ帰られている。


「……僕、男子首席なんだけどな」


「知っていますよ」


「もっと格好いい学生生活になる予定だったんだけど」


「十分、注目されています」


「こういう注目はいらない!」


 ルーチェは小さく笑った。


 こうして。


 俺の人生で初めての本格的な連行事件は。


 聖女による救出という形で、どうにか終わった。


 ただし。


 研究室から救出された俺が、そのまま自分の足で帰れたかどうかについては。


 できれば。


 今後、誰にも語らないでほしい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。