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転生した世界は女神様に支配された世界だった  作者: 忘れな草


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第4話 三対一、それでも届かない



 初めての冒険者依頼を無事に終えた、翌日の放課後。


 俺とダン、ルウの三人は学園を出て、男子寮へ戻る途中だった。


 昨日は随分と濃い一日だった。


 冒険者登録へ行っただけなのに、いきなり〈賢者〉リリアナと三対一で戦うことになり、三人揃って敗北。


 俺は膝枕までされた挙げ句、そのまま研究棟へ持ち帰られそうになった。


 その後はルーチェ付きで旧水路へ向かい、どうにか大型スライムを倒して初依頼達成。


 夜は三人で報酬の銀貨を眺めながら、ささやかな祝勝会までした。


 だからこそ。


「今日は平和だな」


 俺がそう言った瞬間。


 左右を歩いていた二人が同時にこちらを見た。


「ユーリ」


「何?」


「昨日も似たようなこと言ってなかったか?」


 ダンが嫌そうな顔をする。


「今日はもう何も起きないだろ、って」


「実際、そのあと何も起きなかっただろ」


「昨日はな」


 ルウが周囲を警戒しながら言った。


「今日はルーチェもいない」


「ああ。神殿へ呼ばれたんだろ?」


「授業が終わってすぐ出ていった」


 俺も聞いている。


 聖女であるルーチェには、学園以外にも神殿関係の仕事がある。


 今日は夕方まで戻れないらしい。


「だからって、毎日ルーチェについてきてもらうわけにもいかないだろ」


「昨日、リリアナに持ち帰られそうになった奴が言っても説得力ないぞ」


「持ち帰られてない。未遂だ」


「そこ重要か?」


「重要だ」


 そんな話をしながら商業区へ続く細い道へ入った。


 人通りの多い大通りから一本外れた、建物の間の道だ。


 男子寮へ戻るなら、ここを通った方が少し早い。


 そして。


 道の途中に。


 一人の女子生徒が立っていた。


「……あ」


 俺たち三人の足が止まる。


 ピンク色の短い髪。


 学園制服の袖を肘近くまで捲り、鍛えられた両腕を露出させている。


 腰に剣はない。


 杖もない。


 代わりに拳へ薄い革製の手甲をつけていた。


 見覚えがある。


 昨日。


 ギルドでリリアナの近くにいた少女だ。


「ミナ、だったよな」


 俺が名前を呼ぶと、少女は少し嬉しそうに笑った。


「覚えててくれたんだ」


「昨日見たからな」


「よかった」


 ミナは壁から背を離した。


 俺たちの進路の真ん中へ立つ。


「それで」


 嫌な予感しかしない。


「こんなところで何してるんだ?」


「待ってた」


「誰を?」


「ユーリを」


 やっぱりか。


 ダンが一歩前へ出る。


「用件を聞こうか」


「リリアナ様から」


 ミナは悪びれもせず答えた。


「ユーリを連れてきなさいって」


「断る」


 即答した。


 ミナが瞬きをする。


「早いね」


「昨日、本人にも断った」


「私はそこまで聞いてないから」


「じゃあ今聞いたな。断る」


「うん」


 ミナは頷いた。


「でも私は、連れて帰る係だから」


「帰る場所じゃない!」


「細かいなあ」


「研究室へ勝手に連れていくのは細かくない!」


 ダンが俺の前へ出た。


 盾を構え、訓練用ではない片手剣の柄へ手を置く。


「本人が拒否してる。なら通すわけにはいかない」


 ルウもさりげなく俺の横から離れた。


 正面に出ない。


 壁際。


 死角を作れる位置へ移動する。


 昨日のリリアナ戦と同じだ。


 一人が正面。


 一人が横。


 俺が後方。


「三人でやるの?」


 ミナが尋ねる。


「当たり前だ」


 ダンが答えた。


「昨日の〈賢者〉よりは、さすがに何とかなるだろ」


「ダン」


「何だ?」


「そういうことを言うのはやめろ」


「なんでだよ」


「嫌な予感がする」


 ミナが笑った。


「じゃあ、始める?」


 俺たちは目を合わせた。


 逃げる。


 という選択肢もある。


 だが相手は女子。


 しかもリリアナがわざわざ俺を捕まえるために寄越した相手だ。


 単純な脚力でもこちらが追いつかれる可能性が高い。


「昨日と同じだ」


 俺は小声で二人へ告げた。


「正面から倒そうとするな。動きを止める。隙を作る。それで逃げる」


「了解」


「分かった」


 昨日の敗北。


 そして大型スライム戦。


 一日しか経っていない。


 それでも。


 俺たちは昨日より少しだけ、三人で戦うことに慣れている。


「行くぞ!」


 最初に動いたのはダンだった。


 盾を正面へ。


 低い姿勢から一気に踏み込む。


「おおおっ!」


 拳闘士相手に拳の間合いで付き合う必要はない。


 まず盾で押さえる。


 そのまま壁へ押し込めば。


 どんっ。


 鈍い音が響いた。


 ダンの盾がミナへ激突する。


「入った!」


 俺は魔法を準備する。


 だが。


「……え?」


 異変に気づいたのは、ダン自身だった。


「なんだ、これ……!」


 動いていない。


 ミナが。


 ではない。


 ダンが押せていない。


 男子戦士としてはかなり力のあるダンが、両脚を踏ん張り、肩まで使って盾を押している。


 対するミナは。


 片手を盾へ添えているだけだった。


「男子にしては強いね」


「くっ……!」


「でも」


 ミナが盾の縁をつかんだ。


「軽い」


「なっ」


 横へ振る。


「うわあっ!?」


 ダンの身体が。


 盾ごと持ち上がった。


 そのまま壁際へ放り投げられる。


「ダン!」


「俺を見るな!」


 壁へぶつかりながらダンが叫ぶ。


「魔法を撃て!」


「分かってる!」


 すでに術式は組み終えている。


「《風の刃》!」


 三日月形の風がミナへ飛ぶ。


 狙いは肩。


 直撃しても重傷にならない程度へ威力を抑えている。


 ミナは。


 上半身を僅かに反らした。


 風の刃が制服の胸元すれすれを通過する。


 背後に積まれていた空の木箱が切断された。


「外した!」


「まだ!」


 二発目。


 今度は直接狙わない。


 壁へ。


「そっち?」


 風の刃が石壁へ当たり、砕ける。


 その風圧が横からミナへ吹きつけた。


 視線が一瞬だけそちらへ向く。


「今だ、ルウ!」


「取った!」


 いつの間にか背後へ回っていたルウが細縄を投げる。


 輪がミナの両腕へ絡みついた。


「捕まえた!」


 ルウが両手で縄を引く。


 同時に。


「まだ終わってないぞ!」


 ダンが起き上がった。


 反対側から再び盾を持って突進する。


 前後。


 拘束。


 そこへ俺の魔法。


 三方向。


「なるほど」


 ミナは笑った。


「昨日、リリアナ様と戦ったって本当なんだね」


「余裕ぶってられるのも今のうちだ!」


 ルウが縄を強く引く。


 ミナの両腕が僅かに後ろへ動いた。


 いける。


 そう思った。


「でも」


 ミナが腕を広げた。


 ぶちっ。


「え?」


 縄が切れた。


「嘘だろ!」


 全力で引いていたルウが後ろへ転がる。


 ミナは同時に片脚を上げた。


 ダンの盾の下。


 蹴り上げる。


「うおっ!?」


 盾ごと腕が上がる。


 胴体が空く。


「そこ」


 拳。


 ではない。


 掌。


 軽く触れたようにしか見えなかった。


 それなのに。


「ぐっ!」


 ダンの身体が地面から浮いた。


 数歩分も後方へ飛び、膝をつく。


「ダン!」


「まだだ!」


 俺の風の刃が横から迫る。


 ミナは倒れたダンの盾へ片足を乗せた。


 跳ぶ。


 俺の魔法が足元を抜ける。


「空中なら!」


 ルウが短剣を投げた。


 身体を狙わない。


 制服の裾を壁へ縫い止めるための一投。


「動きを止めればいい!」


 ミナは空中で腕を伸ばした。


 短剣の柄を。


 つかんだ。


「は?」


「これ」


 着地しながら。


「返すね」


「返さなくていい!」


 投げ返された短剣がルウの足元へ突き刺さった。


「うわっ!」


 反射的に後ろへ跳ぶ。


 その一瞬。


 ミナの姿が消えた。


「速」


 ルウが煙玉へ手を伸ばす。


 届く前に。


 手首をつかまれていた。


「盗賊は」


「っ!」


「道具を使う前に止める」


「しまっ」


 腕を引かれる。


 姿勢を崩す。


 足を払われた。


 ルウの身体が半回転し、背中から地面へ落ちる。


「ぐっ!」


「一人目」


 腹部へ軽い当て身。


 ルウの身体から力が抜けた。


「ルウ!」


「次」


 ミナの視線が俺へ向く。


「火よ!」


 詠唱を始める。


「詠唱させない」


「《風圧》!」


 火を止めた。


 代わりに足元へ風を叩きつける。


 砂埃が舞う。


 昨日。


 リリアナに使ったのと同じ手だ。


 俺はすぐに後退する。


「同じ手?」


 煙の向こうからミナの声がした。


「え?」


「リリアナ様から聞いたよ」


 煙の中。


 腕が伸びてくる。


 制服の襟をつかまれた。


「なっ!」


「地面へ風を撃って視界を隠すんだって」


「どこまで説明してるんだ、あいつ!」


 俺は至近距離で火を作る。


「《火炎」


 手首をつかまれた。


 腕を上へ向けられる。


「弾》!」


 火球が空へ飛ぶ。


 建物の屋根を越えて消えた。


「離せ!」


 身体をひねる。


 右腕。


 左腕。


 何とか片方だけでも自由に。


「よいしょ」


「え?」


 片手で。


 両手首をまとめてつかまれた。


「ちょっと待て」


 力を込める。


 外れない。


 ミナは普通に立っている。


 俺だけが両腕を拘束され、必死に引いている。


「僕は行かない!」


「それはリリアナ様に直接言って」


「昨日言った!」


「私は連れていく係だから」


「会話しろ!」


 背後。


 金属が擦れる音。


「ユーリを……離せ!」


 ダンだった。


「まだ立つんだ」


「戦士だからな!」


 盾を捨て。


 片手剣を両手で握っている。


「はああっ!」


 全力の振り下ろし。


 ミナは。


 俺の両手首を片手でつかんだまま。


 空いた手を伸ばした。


 ダンの手首をつかむ。


「なっ……!」


「根性は嫌いじゃないよ」


 ミナが笑う。


「でも今日は仕事だから」


 軽くひねる。


 ダンの手から剣が落ちた。


「しまっ」


 掌底。


 胸当てへ入る。


「がっ!」


 ダンが後ろへ飛ばされ、壁へぶつかった。


「まだ……!」


 それでも倒れない。


「ユーリを……」


「頑張るね」


 ミナが一歩で距離を詰めた。


 ダンの首筋へ指先を当てる。


「でも」


 小さな衝撃。


「今日はお休み」


「ぐ……」


 壁を滑るように。


 ダンが座り込んだ。


 動かない。


「二人目」


「ダン!」


 残ったのは俺だけ。


 しかも。


 もう捕まっている。


「風よ……!」


 せめて指先だけでも。


 魔力を集める。


「それも聞いた」


「何を!」


 ミナの指が俺の脇腹へ触れた。


「この辺、押すと集中が切れるんだって」


「待」


 ぐっ。


「ひゃっ!?」


 思わず変な声が出た。


 魔力が散った。


「……」


「……」


 ミナが俺を見る。


 俺もミナを見る。


「今の声」


「忘れろ」


「可愛かった」


「忘れろ!」


「リリアナ様の言った通りだ」


「何を教えてるんだ、あいつは!」


「捕まえたときの扱い方」


「完全に物扱いじゃないか!」


「じゃあ行こうか」


「行かない!」


 身体を持ち上げられた。


「うわっ!」


 今回はお姫様抱っこではない。


 そのまま肩へ担がれる。


 腹がミナの肩へ乗り、頭と脚が前後へぶら下がる形になる。


「こっちの方かよ!」


「運びやすいから」


「荷物じゃない!」


 背中を叩く。


「下ろせ!」


「暴れると落ちるよ」


「だったら離せ!」


「それは無理」


 ミナは何事もなかったように歩き始めた。


「待て! ダンとルウは!」


「十分くらいで起きるよ」


「置いていくな!」


「怪我はさせてない。強く打ってもいないし」


「そういう問題じゃない!」


 肩の上から後ろを見る。


 倒れた二人。


 追いかけてくる様子はない。


 完全にやられた。


 三人で。


 昨日より連携した。


 大型スライムだって倒した。


 なのに。


 一人の女子生徒へ。


 ほとんど何もできなかった。


「……くそ」


 悔しい。


 ミナが少しだけこちらを見る。


「三人とも強かったよ」


「慰めるな」


「本当だって」


「どうせ最後に付くだろ」


「何が?」


「『男子としては』」


 ミナが少し考える。


 そして。


「うん」


「やっぱりか!」


「でも、本当に男子としてはかなり強いと思う」


「その一言が余計なんだ!」


「この辺の男子三人なら、もう少し早く終わってたと思うよ」


「まったく嬉しくない!」


 ミナは笑った。


 そのまま学園へ戻っていく。


「というか」


 俺は肩の上でもがきながら尋ねた。


「お前、何者なんだよ」


「ミナ」


「名前じゃない!」


「〈拳闘士〉」


「下級職だよな!?」


「そうだよ」


「下級職一人に三人がかりでこれか……」


「私、下級職の中では結構強い方だから」


 それでも。


 上級職じゃない。


 中級職ですらない。


 昨日、リリアナへ届かなかったのは分かる。


 〈賢者〉なのだから。


 でも今日は。


 下級職の女子一人に届かなかった。


 これが。


 この世界の男女差。


 改めて突きつけられた気がした。


「昨日は大型スライムを倒せたのにな……」


「大型スライム?」


「初依頼で」


「すごいじゃん」


「三人で工夫して倒した」


「なら、その戦い方をもっと伸ばせばいいんじゃない?」


「お前に言われると腹が立つ!」


「どうして?」


「今まさに、その三人を一人で倒した奴だからだ!」


 そんな会話をしているうちに。


 研究棟へ着いた。


「嫌な建物が見えてきた……」


「昨日も来たんだって?」


「来てない。連れてこられそうになっただけだ」


「今日は来られたね」


「連行されてる!」


 階段。


 廊下。


 最上階。


 俺を肩へ担いだまま、ミナはまったく息を乱さない。


「重くないのか?」


「全然」


「……聞かなきゃよかった」


 やがて。


 一番奥にある重い扉の前で止まった。


「到着」


「到着じゃない!」


 扉の向こう。


 待っていたように。


「お入りなさい」


 声が聞こえた。


「帰る!」


「無理」


「まだ扉の外だろ!」


「もう捕まえてるから」


 ミナが扉を開けた。


 広い研究室。


 本棚。


 魔導具。


 魔法陣。


 そして。


 奥の椅子で。


 リリアナが優雅に紅茶を飲んでいた。


「お帰りなさい、ユーリ」


「帰ってきたんじゃない!」


 肩へ担がれた状態のまま叫ぶ。


「連行されたんだ!」


「どちらでも同じことですわ」


「全然違う!」


 ミナが俺を肩から下ろした。


 一瞬。


 足が床へつく。


「よし!」


 扉へ走ろうとする。


 襟首をつかまれた。


「どこ行くの?」


「帰るんだ!」


「仕事が終わってないから駄目」


「もう届けただろ!」


 ミナが俺を引き戻す。


 リリアナはその様子を眺めながら、満足そうに紅茶を一口飲んだ。


「ご苦労さまでした、ミナ」


「三人とも結構強かったよ」


「そうでしょうね」


「聞かないのか? ダンとルウがどうなったか!」


「大きな怪我は?」


「ないよ」


「でしたら問題ありませんわ」


「問題だらけだ!」


 リリアナが立ち上がった。


 ゆっくり。


 こちらへ近づいてくる。


「昨日」


「何だよ」


「わたくしの申し出を断りましたわね」


「今日も断る」


「まだ何も言っていません」


「どうせ研究室にいろって話だろ!」


「理解が早くて助かりますわ」


「帰る!」


 俺はもう一度扉へ向かった。


 今度は。


 リリアナが目の前へ立った。


 高い。


 俺が見上げる。


 リリアナが見下ろす。


「退け」


「嫌ですわ」


「昨日も言ったけど、僕はお前のものにはならない」


「ええ」


 リリアナは微笑んだ。


「ですから今日は」


 背後。


 扉が閉じる。


 かちり。


 鍵の音。


 さらに。


 紫色の光が扉の表面を走った。


「鍵だけでなく、封印術式まで用意しました」


「準備を強化するな!」


「昨日はルーチェに邪魔をされましたので」


「邪魔じゃなくて救出だ!」


 俺は扉を見る。


 普通の鍵。


 その上に魔法封印。


 窓にも術式。


 そして目の前には〈賢者〉。


「では」


 リリアナは満足そうに微笑んだ。


「昨日のお話の続きをいたしましょうか」


「しない!」


「ゆっくり時間はありますわ」


「僕にはない!」


「安心なさい」


 リリアナが優雅に椅子を示す。


「今日は、逃げられないようにしてありますから」


「安心できる要素が一つもない!」


 こうして。


 初依頼を成功させた翌日。


 俺たち三人は、昨日より少しだけ強くなったつもりで。


 昨日より少しだけ上手く連携したつもりで。


 それでも、下級職〈拳闘士〉の女子一人に三人まとめて敗北した。


 そして俺は。


 人生で初めて。


 本当に研究室まで連行されたのだった。


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