第59話 月無き夜
俺はサフィアの元へ帰り、
「家の中でスキルは禁止って言ったのに、さっきの花火はなんですかね?」
さっそく問い詰める。
「音はうるさいけど綺麗よね。」
屈託のない笑顔で返答する。
(会話がかみ合わない……。やっぱりサフィアは残念な子だったのか。)
「はぁ……もういいや。あっ、長老の預言で明日の夜に敵が里を滅ぼしに来るみたいだから、その調子で頑張って。」
さらっと預言の内容を伝える。
サフィアは一瞬何を言われたか分からないといった表情を作った後、
「なんか私に対しての態度、だんだん雑になってきてない?って言うか、その調子で頑張ってってなによ!」
「詳しく説明しても無駄かなって思ってつい。」
(初めと比べて、かなりポンコツ化してきてるもんなぁ。)
「分かったから、私が悪かったからちゃんと説明して。」
サフィアは真面目な表情で訴えてくる。
仕方がないので、先ほどあったことを説明する。
「俺と朧響、彩羅で敵を迎え撃つ。サフィアは鬼族を見ると危険だから待機してて。もしもの時は俺のスキルで呼ぶから。」
忌畏がある以上、無闇にサフィアを戦闘に加えることはできない。
「分かったわ。その時がきたらすぐに駆けつけるわね。」
俺は頷き、明日に備えて床に就いた。
翌日、サフィアを家に待機させ、朧響、彩羅と合流する。
里の中心にある開けた広場で、二人と作戦会議を開く。
作戦の打ち合わせを済ませる頃には日が沈んでいた。
「いよいよだな。」
俺は二人に話しかける。
「ああ、我らの運命をかけた戦いが始まる。この里で鬼族以外を見かけたらそやつは敵だ。」
朧響は拳を握りしめる。
「そうね。私の固有スキルをお見舞いしてやるわ!」
彩羅は全力を出せるのが楽しみなのか、緊張の欠片も無い。
「ああ、手筈通りにいこう。」
ふと彩羅の腰にかけてある武器に視線を向ける。
「木刀!?彩羅……まさかそれで戦うつもり?」
「そうだけど、何か悪い?」
装備しているんだから当然でしょ。という風に返してくる。
「……俺が悪かったよ。」
(いや、俺悪くないよな?雰囲気に流されて謝ってしまった……焔鬼さん、鬼族の命運が掛かっているんだから彩羅にも何か良い武器を渡してくれよ。)
すると突然、前方に淡く光りながら魔法陣が描かれる。
「来るぞ!二人とも構えろ!」
朧響が叫ぶ。
描かれた魔法陣の中央から轟音とともに、黒い炎が噴き上がる。
激しく燃える黒炎の中から声が聞こえる。
「見ていたぞ。主の書き換えた世界の理を覆すのを。」
ガシャン、ガシャンと金属音を立て、黒炎から声の主が現れる。
身に纏っているのは漆黒の甲冑。黒い兜を突き破り、異形の角が2本、禍々しくそびえ立つ。兜の隙間から紅い瞳がこちらを覗く。手には大きな漆黒の大剣が握られている。
「戦国武将かよ!」
思わずツッコミを入れてしまったが、作戦を思い出し、識想を発動させる。
アルカビーゴス
Lv100
種族 悪魔
職業 魔影将
適性 魔影将
固有スキル
???
スキル
???
ーーー
「レベル100……今はこのレベル差がいい![悪童]!」
俺は固有スキルを発動させる。
『レベル差72。能力上昇720%。』
イデアさんが上昇率を補完してくれる。
その瞬間、俺の身体に黒いオーラが纏わりつく。
「すごい、全身が軽い。力がみなぎってくる!彩羅!」
彩羅はコクリと頷き、剣を構えて[彩滅剣]を発動させる。剣に五色の光を纏わせる。
俺も同じスキルを発動させて、剣に光を纏わせるが、
「なんなのよそれ!訓練場で使ったときよりも、ソウが纏わせている光の強さだけおかしいわ!」
(ですよね。俺もそう思った。暗いはずの里全体が光で照らされてるもんね。)
「悪童の効果で、敵とのレベル差が大きいからだよ。異常な数値のバフがかかっているはずだから!」
簡単に説明して、いつでも放てる準備を整える。
その瞬間、
「[鬼渡り]」
朧響が静かにアルカビーゴスの背後へ転移する。
完全な死角。朧響はそっと右の手のひらを向ける。触れるか触れないかの距離で、その手がピクリと震えた。
「[鬼弾き]!」
朧響は俺の知らないスキルを発動させる。次の瞬間、触れてもいない背中から「ゴオォン!」と金属の振動音が響き、その巨体を真上へと跳ね上げた。
跳ね上げられた敵目掛けて一閃。三日月型の光の波が放たれる。
彩羅が放った[彩滅剣]と俺の[彩滅剣]が空中で重なり、五色の光が一つに溶け合う。
眩しすぎて、もはや形すら分からない。
凄まじい爆音とともに光が弾け、空中のアルカビーゴスを光の渦へと巻き込んだ。
「……これが[悪童]の力。」
あまりの威力に、不安を覚える。不安を覚えているはずなのだが……俺の意思とは別に、口元がニヤリと緩んだ。
しばらくして光が収まり、里が元の暗がりに戻る。
頭上を確認するが、そこには何も残っていなかった。
第59話 終




