第60話 格上殺しの代償
「……なんだか物足りなかったな。」
俺はポツリと、誰に聞かせるでもなく呟いた。
『ソウも戦闘狂?』
イデアさんの言葉にハッとする。
(俺は何を言っているんだ……。そんなことないよイデアさん、ありがとう。)
[識想]を発動し、朧響を見る。
朧響
種族 神鬼族(忌畏)
「(忌畏)が解けてない!皆、まだ警戒して!」
俺が言うや否や、
「ほう、勝利に油断するかと思っていたのだがな。それに拙者の分身を一瞬で消滅させるとは、やはり己は危険だ。保険でこやつを連れて来てよかったわ。」
背後から声が聞こえ、すぐさま振り返る。
そこにはアルカビーゴスと、朧響と彩羅に敵意を剥き出しにするサフィアの姿があった。
「サフィア!」
(やはり悪魔、抜け目がないな。こちらの弱点を知っている。それにさっきの奴、分身なのにレベル100だったぞ。)
改めて[識想]を発動する。
アルカビーゴス
Lv120
種族 悪魔
職業 魔影将
適性 魔影将
固有スキル
???
スキル
影写Lv10
???
ーーー
(この世界、レベル100がカンストじゃないのか……面白い、さっきの分身よりレベルが高い。それに人質紛いなことをするのは許しておけないな。)
俺に纏わりつく黒いオーラが、意思を持つかのように膨れ上がる。
『レベル差92。能力上昇920%。』
「[火球]」
俺は無意識にスキルを放っていた。
(なんだこれ……景色が……歪む。)
身体は動いている。しかし、自分で動かしているという感覚が薄れていく。
「ソウ!何をやってるの!人間がいるのよ!?」
彩羅が叫ぶ。
特大の火球が届く直前、
「[鬼渡り]!」
朧響がサフィアの背後をとり、首筋に一撃を加えて気絶させる。そのままサフィアを抱えて転移した。
アルカビーゴスを巻き込んだはずの火球。しかし奴はすでにその場から姿を消していた。
火球は止まることなく突き進み、凄まじい爆発音とともに家を吹き飛ばした。
朧響は転移したと同時に、
「ソウ!何を考えている!危うく巻き込むところだったぞ!」
歪む景色の中、声のする方に視線を向ける。
(声が出ない。)
「……多少の犠牲は仕方ないだろ。鬼族、ましてや世界の命運がかかってるんだ。」
(誰だよこれ、思ってもいない言葉を口にするなよ……[悪童]の悪い予感が的中したな。事前に朧響と彩羅に話していて良かった。悔しいけど後は託すしかないのか……。)
「やはり危険だ。火球如きで、あの威力とはな。」
アルカビーゴスは傷一つ付いておらず、警戒するようにこちらを見据えていた。
そんな状況なのに、俺の意識は遠のいていく。
昨晩、[悪童]のデメリットについて考えていた。酒天黒が伝えきれなかったスキルの効果、予言の[里が燃え、悪が勝利せん。]という言葉。アルカビーゴスが悪魔で、俺が悪童。どちらが勝っても悪、どちらが里を燃やしても悪、だとしたら。
そして、戦闘前の作戦会議を思い出す。朧響、彩羅の二人に[悪童]のデメリットについての可能性を話す。
俺の強化倍率が大き過ぎて、スキル威力を誤り里を燃やす可能性。
俺が[悪童]のスキルに飲み込まれ、暴走する可能性。
暴走を止めるなら、俺とのレベル差が小さい彩羅が適任だということ。
後はまぁ、普通にアルカビーゴスに負ける可能性もあるんだけど、そこは士気に関わるから言わないことにしておいた。
そして、現在。
傷一つ付いていないアルカビーゴス。サフィアを担ぐ朧響。暴走した俺をどのタイミングで止めるべきか迷う彩羅。
(くそっ、こんな状況で意識を飛ばしてる場合じゃないよな!)
第60話 終




