第58話 凶兆
焔鬼と共に長老の家の前へ着くと、すでに里の鬼たちが集まっていた。
その眼前には長老が佇み、横には朧響と……なぜか彩羅が立っている。
「長老、俺たちの希望を連れてきたぜ。」
焔鬼が大声をあげる。
その声を聞き、集まっている鬼たちがこちらに視線を向ける。
「連れてきてくれたか。ソウ殿、突然呼び立ててすまんかったのう。焔鬼よ、ご苦労じゃった。」
焔鬼は一礼し、鬼の輪へ加わる。
「ささ、ソウ殿はこちらへ来てくだされ。」
そう促され、長老の元へ向かう。
「まずは彩羅の件、本当に感謝しておる。この子の生き生きとした顔を見るのは数年ぶりじゃ。」
(なるほど、だから彩羅は長老の横に立っていたのか。)
長老は嬉しそうに彩羅を見る。
「俺だけの力じゃありません。彩羅が今まで諦めなかったから職業が目覚めたんです。」
俺も彩羅へ視線を向ける。
話を振られた彩羅は照れくさいのか、頬を赤く染める。
「ソウ殿は優しいのう。」
長老は笑顔で俺を見つめる。
「さて、次は皆に集まってもらった預言の件じゃ。」
集まった鬼たちへ視線を向け、長老は表情を固くする。
周りの鬼たちは、「一体何の預言が下ったのか」と不安や疑問を抱きながらも、騒ぐことなく静かに長老を見つめている。
長老は深く頷き、その場にいる全員に届くように、よく通る声で語り始める。
「今朝、儂の固有スキルにより、預言が頭に浮かんだ。……月無き夜。鬼族を滅ぼさんとする者来たり。里が燃え、悪が勝利せん。」
俺はその言葉を聞き、
(月無き夜っていつだ?しかも里が燃えて悪が勝利って……。)
周りの鬼たちもざわつき、
「月無き夜って……明日だよな。」
「里が燃えて、私たち鬼族はどうなるの……。」
「悪が勝利する」という言葉に、鬼たちの不安はさらに膨らんだ。
(月無き夜って明日かよ!預言なんだからもっと余裕をもってくれよ!)
声に出してツッコミたかったが、そんな雰囲気ではないので自重する。
そんな状況を見かねた朧響が声を上げる。
「狼狽えるな!我ら鬼族は今までどんな理不尽にも耐えてきた!確かに良い預言ではなかった……しかし、鬼族の希望も今はこの里に居る!」
朧響は俺を見つめる。
長老も朧響に続き、
「朧響の言った通りじゃ、鬼族には希望がある。儂らを見ても、怯えることも敵意を向けることもない人族のソウ殿。まだ幼い人の子が儂らのため、共に戦ってくれるのじゃ。儂らがそうそうに諦めるのは失礼じゃろうて。」
その言葉を聞き、「我らには希望がまだある。」と、周りの鬼たちは口々にし、俺に視線を向ける。
「ソウ殿、皆を勇気付けてやっておくれ。」
長老の無茶振りが降りかかる。
(めちゃくちゃ俺のことを持ち上げてプレッシャーかけてくるじゃん長老!)
頭の中で叫ぶ。
俺は深呼吸をし、心を落ち着かせる。
鬼族のご先祖様であり、俺と同じ転生者でもある酒天黒のことを思い出し、口を開く。
「里の祠で、鬼族のご先祖様と会話し、皆さんを救うと約束をしました!固有スキルまで授かっています!だから俺は絶対に負けません!だから皆さんも諦めないでください!」
周りの鬼たちは、
「ご先祖様と会話だって!?」
「固有スキルを授かった!?」
信じられないといったような顔をする。
長老が再び口を開く。
「ソウ殿の言っていることは本当じゃ。儂は目の前で見て、あまりの驚きにひっくり返ってしまったからのう。」
「ほっほっほ」と長老は笑い、場を和ませる。
「さて、これからのことじゃ。皆も知っての通り、里の戦闘職は朧響と、先日職業が目覚めた彩羅しかおらん。この二名にはソウ殿と共に来たる敵に備えてもらおうかの。他の里の者は儂の家に集まるのじゃ。もしかしたら、儂ら誰かの固有スキルが役に立つかもしれんからのう。」
集まった鬼族は皆頷く。
「それでは明日に備えて準備を整えるとしようかの。準備を終え次第、儂の家へ集まるのじゃ。解散。」
俺を含めて皆、覚悟を決めて去っていく。
バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!
見知った家の屋根から綺麗な花火があがる。
「あの祭影士!とんでもないタイミングでやらかしてくれる!」
何も知らずに好き勝手している者を除いて。
第58話 終




