第57話 刀
サフィアとの騒動の少し後、トントン、と戸を叩く音が家の中に響き、外から声が聞こえてきた。
「寛いでいるところすまない。長老の使いで来たんだが、外に出て来てくれないか?」
(長老の使い、どうしたんだろ?)
そう思いサフィアを見ると、鬼族が近くに来たからだろう、肩を震わせ怯えている。
「サフィア、少し出てくるね。俺がいないからって無闇にスキルを発動させないでくれよ。」
「わ、分かってるわよ。」
サフィアはコクコクと頷く。
俺は、ガラリと戸を開いて外へ出る。
そこには、鉄と煤の匂いをまとった若い男の鬼が立っていた。
身長は大人の男性くらいだろうか、
その背には、布に包まれた一振りの長い得物が背負われていた。
「こんにちは。何かあったんですか?」
俺が声をかけると、安心した様子で、
「さすが俺たちの希望。里にあんたが来た時もそうだが、人間なのに俺を敵視しないんだな。俺は商売じゃないが、里の皆を守るために武器を打ってる鍛冶師の焔鬼だ。里の連中は皆、長老の家の前に集められてる。長老の固有スキルによって新たな預言を授かったらしくてな。」
(新たな預言……。)
それを聞いた瞬間、俺の中に嫌な予感が走る。
そんな俺の気持ちをつゆ知らず、焔鬼は背負っていた得物を手に取り、布包みを外す。どうやら得物は刀のようだ。焔鬼は柄を持ち、切っ先を下に向けたまま、俺に受け取れと言わんばかりに差し出す。
(刀!?これ受け取っていいの?めちゃくちゃテンション上がるんだけど!)
俺は興奮を悟られないように落ち着かせる。
「あんたが里に来る前から、無性に刀を打ちたくなってな。気がついたら仕上がっていた刀だ……里に来たあんたの姿を見て理由が分かった。これを受け取って、里の力になってくれ。」
「ありがとうございます。焔鬼さんの想い、受け取ります。」
俺は差し出された刀を受け取る。
ずしりと乗るはずの鉄の重みを感じない。驚くほど軽い。
鞘から刀身を引き抜く。刀身が完全に露わになると、刃先から一筋の焔色の光が刀身を駆け抜け、次の瞬間には刀が消えていた。
「消えた!?鞘も無くなってる!?」
俺はさっきまで鞘と柄を握っていた両手を見つめる。
そんな様子を見た焔鬼はしばらく言葉を失い、やがてその顔に興奮を抑えきれない笑みを浮かべた。
「俺の固有スキル[魂焔の炉]……その刀から放たれた焔の光……何本も刀を打って来たが、初めて見たぜ。刀は消えたんじゃなくてあんたの魂に宿ったのさ。俺の固有スキルで打った刀は、所有者を認めたら魂に宿る。出し入れ自由。成長に合わせて刀身も変化する。刃こぼれしても時間が経てば修復されるんだぜ。」
焔鬼は興奮したように得意気に話す。
(固有スキル?)
俺は[識想]を発動する。
焔鬼
Lv60
種族 神鬼族(忌畏)
職業 鍛冶師
適性 鍛冶師
固有スキル
魂焔の炉
スキル
???
???
(魂焔の炉……出し入れ自由で成長して自動修復!?)
俺は両手を前に突き出す。
(今試せるのは出し入れだな。)
虚空を掴むように指を曲げる。俺は先ほど受け取った刀を想像する。空気が一瞬歪み、次の瞬間には抜き身の刀が両手に収まった。同時に、左腰には鞘が実体化していた。
「すごい!本当にでた!」
消えろと脳内で命じる。手を開くと同時に、刀は消え、左腰の重みも無くなった。
「めちゃくちゃかっこいい!」
俺は興奮を隠し切れずに叫ぶ。
しかし、一つ気付いてしまった。
(これって……腰の鞘……いる……?)
いや、刀は鞘と一心同体、敵を倒して華麗に鞘に刀身を戻す。その姿を想像する。
(刀身を鞘に戻して消す。一番かっこいいな。)
一瞬無粋な考えを持ってしまい、鞘に申し訳ない。
もう一度、刀と鞘を実体化させ、今度は刀身を鞘に戻し、消えろと命じる。
(よし!やっぱりこの動きが一番良い。)
俺は満足して、焔鬼に視線を向ける。
「これめちゃくちゃチート武器じゃないですか!?」
興奮気味に返す。
「チート……?が何なのか知らないが凄いだろ。大事に使ってくれよ。それと、何か装備で困ったら俺の所へ来な。何でも相談に乗ってやるよ。」
俺たちはそんな会話をしながら長老の家へ向かった。
第57話 終




