第55話 第二の人生
家の前に着く頃には、すっかり日も暮れていた。
「ソウ、夕食を持ってきた。」
背後から朧響に話しかけられる。
「ありがとう朧響。」
調理された魚や野菜のスープを受け取る。
「長老から頼まれた件はどうだ?」
彩羅のことだろう。
「さっきの空、見てなかったのか?職業は目覚めたよ。彩羅は鬼剣士になって、まだ訓練場でいろいろ試している。」
「夕食の仕込みをしていて見ていなかった。里の鬼達が噂していたのはソウ達か。光が空に飛んでいって、雲が割れたと言っていたが……職業……鬼剣士か、あの子に合った職業だな。」
朧響も彩羅のことを気にしていたのだろう。
「本当に目覚めて良かったよ。彩羅のこと、長老に伝えておいて。」
「任された。」
朧響はニヤリと笑い、姿を消した。
俺は扉を開き、中へ入る。
「ただいま。朧響が夕食を持ってきてくれたよ。」
朧響から受け取った食事を、囲炉裏の前の食卓に並べる。
「サフィア?」
返事がない。サフィアに何かあったのかと部屋を見渡す。すると、俺が入って来た扉の隅から、姿を現す。
「ソウ。話を聞かせてもらったわ。彩羅?という子の職業は、すぐに目覚めさせたようね……私の職業も今すぐ変えなさい!鬼の里で一人で留守番したんだし、これからも、いつまで留守番しなきゃいけないのか分からないじゃない?何か頑張れる報酬がないと気持ちが持たないのよ!だからお願い。」
どうやらスキル[隠密]で部屋の隅に隠れて盗み聞きをしていたらしい。姿を現した時は凛としていたが、怖いのを我慢していたのだろう、今は涙目になりながら、両手を合わせてお願いをしている。
「そこまで頼まれたら断りづらい、ただ、上手くいくか分からないよ?もともとある職業を、別の職業に変えたことがないから。」
「えっ?そうなの?……それでも、可能性はあるんでしょ?だったらお願い。」
サフィアは必死だ。ただ、鬼が怖いと思っているだけではない。暗殺者という職業を、本気で変えたいと願っている。
「分かった。サフィアの願いに応えられるよう頑張ってみるよ。」
[識想]でサフィアのステータスを確認する。
サフィア
Lv43
種族 人間
職業 暗殺者
適性 暗殺者
スキル
隠密
認識阻害
???
(まずは新たな適性を目覚めさせる。どんな適性が発現するんだろう?……サフィアって、本当は明るくて祭りではしゃぐタイプだよな。)
そんなことを考えながら[転想]を発動させる。
サフィアの過去が流れ込んでくる。
何かの祭りなのだろうか。鈴の音を響かせながら踊り子が舞い、少し離れた露店の間から英雄譚と思しき歌が聴こえてくる。あちこちで酒杯が掲げられ、赤い顔で大騒ぎしている大人たちがいる。
俺はふと、階段に目を留める。そこには暗い服を着て、フードで顔を覆った少女が座り込んでいる。その瞳には、無邪気に走りまわり、祭りではしゃぐ子ども達の姿を映す。自分も一緒に祭りを楽しみたい、遊びまわりたいという風に、その少女は右手を伸ばす。しかし、諦めたように手をおろそうとした瞬間、俺はその手を掴む。
頭の中にバチバチとノイズが走る。
『条件を確認……祭り……転想中……完了しました。』
(ん?……祭りって言ったか?……でも今は考えるよりも行動だ。)
俺は考えるのはやめ、そのまま[共想]を発動し、職業の変化を試みる。
その少女は驚いたように、俺を見つめる。
『共想中………。』
俺はその少女に笑顔で話しかける。
「もう、我慢する必要はないよ。自分の好きに、心のままに生きるんだ。」
その少女はフードを外し、パッと笑顔になり、俺が掴んだ手を握り返す。
「ありがとう。」
頭の中にサフィアの声が響いた。
『共想中……完了しました。』
俺はサフィアのステータスを[識想]で確認する。
サフィア
Lv43
種族 人間
職業 祭影士
適性 祭影士
スキル
紙吹雪Lv4
幻音Lv4
隠密Lv4
祭花火Lv4
(……いろいろめちゃくちゃなんだけど、目立ちたがりの暗殺者みたいな感じ?まぁサフィアらしいか。……途中で祭りって聞こえた気がしたけど……まさかな。)
『転想Lv3になりました。』
『新たに共有スキルを獲得しました。』
『共想対象13。想力+180%になりました。』
『世界の理の一部を覆しました。』
自分のステータスを開く。
派生スキルの[転想Lv3]を確認し、
スキル[紙吹雪Lv4][幻音Lv4]
を新たに獲得していた。
(世界の理……既存の職業から、別の職業へ変化させたことか……?とりあえずサフィアに成功したことを伝えよう。)
「サフィア、上手くいったよ。」
サフィアは自分のステータスを確認する。
「暗殺者じゃなくなってるわ!何かよく分からない職業だけど、私の第二の人生の始まりね!ソウ、今回だけじゃない、今後困ったことがあれば遠慮なく私を頼りなさい!全力で力になるわ!」
サフィアは無邪気に笑っている。
「ありがとう、今回も、今後も頼らせてもらうよ。」
そんなサフィアと共に、夕食を食べる。
祠でのこと、彩羅とのことを話し、情報を共有しておく。
今日は、いろいろありすぎて疲れていた俺は、横になるとすぐ眠りに落ちた。
第55話 終




