第52話 鬼の子
朧響を宥めた後、一度サフィアのところへ戻ろうとすると、
「ソウ殿。」
長老に呼び止められた。
「先ほどの祠での話、儂ら鬼族と人族との長きにわたる溝の原因。そして、ご先祖様の敵……アルカビーゴスじゃったか。ソウ殿はそやつと戦うつもりであろう?儂らもそやつを討つために協力させていただきたい。この里で一番強い、朧響をお連れてくだされ。」
その提案を受け、
「朧響に協力してもらえるのは頼もしいです。」
俺は笑顔で答え、
「それでは、サフィアが心配なので一度戻ります。」
俺が踵を返そうとすると、
「すまぬソウ殿。一つ頼まれて欲しいことがあるのじゃが。」
長老は申し訳なさそうな顔でこちらを見る。
「俺にできることなら良いですけど、なんでしょうか?」
長老は口を開く。
「儂たち全ての鬼族は、五歳から六歳頃に職業が発現するのじゃ。しかし、里に十歳になっても職業が発現していない子がおる。もちろんそれが悪いとか、差別しとる訳ではない。その子が可哀想でのう。自分だけ職業が無いのをずっと気にしておるのじゃ。なんとかできんかのう?」
長老は、期待の眼差しでこちらを伺っている。
「分かりました。なんとかしてみたいと思います。ちなみにその子の名前は?」
俺の返事に長老は笑顔になり、
「感謝するぞ。その子の名は彩羅、里の中にいるので頼みましたぞ。」
俺は長老へ挨拶をして、彩羅という子を探す。
里の中を歩いていると、
『ソウ。右手の家の裏。』
「びっくりした。イデアさんから話しかけてくるなんて珍しいね。」
口調も、初めに比べて流暢な気がする。共想がLv4に上がった効果だろうか。そんなことを考えつつ、イデアさんから言われた家の裏へ向かう。そこには、朱色の髪をポニーテールにした鬼の女の子が、俯いて座っていた。頭には二本の角がある。
俺は[識想]を発動する。
???
Lv30
種族 神鬼族(忌畏)
職業 ーーー
適性 ーーー
固有スキル
ーーー
スキル
ーーー
(職業が無い、この子が彩羅?って、職業無しで俺よりもレベルが上!?)
鬼族は素の戦闘力が高いのだろうか。
俺は驚きを隠しつつ、話しかけてみる。
「そんなところで何してるの?」
俺が声をかけると、その子は顔を上げ、朱色の瞳でこちらを伺った。
「な……なにもしてない。」
人間に突然話しかけられ、戸惑っているようだ。
「急に話しかけてごめん。俺の名前はソウ。君が彩羅?」
職業無しなので、この子だと思うのだが、念のため確認する。
「そうだけど……私に何の用?」
冷たく返事をされる。
「長老から聞いたんだけど……。」
俺がそう言うやいなや、
「私のことはほっといて!」
彩羅は俺をにらみ付けながら立ち上がり、その場から逃げるように走り出す。
「ちょっと待って!話を聞いて!」
俺は慌てて後を追いかける。
「嫌よ!どうせ職業が無いことを長老から聞いて、私を笑いに来たんでしょ!」
職業が無いことを、とても気にしているようだ。
「そんなことはしないよ。力になりたいんだ。」
俺は必死に声をかける。しかし、
「人間なんて信用できないわ!」
彩羅は聞く耳を持ってくれない。
「こうなったら……俺が怖いの?人間から逃げるのか?」
(こんなこと言いたくはないけど、止まってもらうためだ。)
その言葉を聞き、彩羅の足はピタリと止まる。
(よし、成功だ。)
彩羅はこちらへ振り返る。振り返った彼女の顔は、まさに阿修羅のようだ。綺麗な顔が怒りで歪み、俺をにらみ付ける。
「ソウっていったかしら。あなたなんて怖くないわ。私に付いてきなさい。」
彼女の冷たい声が鼓膜を突き刺す。
(やばい……めっちゃ怒ってる。)
額から冷や汗が流れ落ちる。
怒らせた俺に拒否権はなく、彼女の背中を追う。
第52話 終




