第50話 神鬼族
俺は祠の扉を開く。
〔えっ?もう祠に来てる?了解っす!〕
中には一つの大きな盃が祀られていた。外側は深い赤色に彩られ、内側には輝かしい金色が施されている。鬼族が使うためか、人間が使うものよりも一回り大きく作られていた。
〔よくぞ参った。世界の理を覆し者よ。〕
急に威厳のある言葉遣いになる謎の声に、
「いやいや、それは無理があるよ!?誰かと話しているの聞こえてたから!」
ついツッコミをいれてしまう。
「どうしたんじゃソウ殿。急に大きな声を出して。」
長老は戸惑っている。
(俺にだけしか聞こえない声……このパターンはリュネアの時と一緒だ。)
声に出さずに、以前あったことを思い出す。
「すみません。この盃から話しかけられたものでつい……おそらく俺にしか聞こえない声なので、もし変なこと言っても気にしないでください。」
さすが鬼族の希望という風に、長老は何も聞かず冷静に頷く。
〔はぁ……聞こえてたなら今さら取り繕っても意味ないよな。女神さんから聞いてるぜ。ソウ、お前さんもこの世界に転生してきたんだろ?俺も神鬼族としてこの世界に転生してきたんだぜ!この里もどうよ。俺が昔の日本を再現したんだ!その文化が鬼族に根付いている。どうだ、驚いただろう。おっと、自己紹介がまだだったな。この世界では酒天黒って呼ばれてる。よろしくな。そう言えば、さっき女神さんから伝えて欲しいって言われてよう。『私はラスボスではありません。』だってよ。お前さん、職業の儀の時に女神像の前でそんなこと思ったんだろ?女神さん悲しんでたぜ。なぜかソウの心は読めるみたいだから悲しませるようなこと考えるなよな。それと……〕
「ちょっと待って!話しすぎだから!さらっと神鬼族とか転生とか女神様とか言ってるし!確かに女神像の前でラスボスかもって思ったよ。職業の儀の日のことは今でも覚えてる。職業とかゲームみたいってめっちゃワクワクしたからね。女神様に対しては申し訳ないと思ってる。思ってるけど俺の心を読むのはずるくない?俺の妄想ダダ漏れで恥ずかしいんだけど!こっちは羞恥心でいっぱいだから。女神様に会ったら、おあいこですって伝えて欲しい。そして、この里の基礎を造り上げた酒天黒。めっちゃ昔の日本みたいで趣きがあり最高です。それで、夢の中で呼んだってことは何か用があるんだよね?」
マシンガントークにはマシンガントークで応戦する。
俺がさっそくとんでもないことを言い始め、さすがに長老は動揺している。
〔すまねぇ、同じ転生者だからテンションが上がっちまった。おあいこって女神さんには伝えとこう。それで、ソウ。お前さんには今の鬼族の現状を、打破してもらいたくて呼んだんだ。〕
酒天黒は落ち着きを取り戻し話す。
〔お前さんのスキルで、鬼族のステータスを見ただろ?神鬼族の横の忌畏……今の鬼族が、本当は神鬼族ってことが分からなくなっているのが問題で、さらに厄介なのは忌畏だ。〕
(なるほど、俺のスキルのことも女神から聞いているって訳だな。説明する手間が省けて助かる。)
俺は女神に感謝した。
「神鬼族と忌畏……一体何が起きているの?」
俺は酒天黒に尋ねる。
〔まず、神鬼族ってのは神って文字が付いている通り、神の使い…神様は女神さんだから女神の使いだな。種族の中から一人が選ばれ、世界の理を守る。要は下界に降りられない女神さんの代行者だな。〕
俺はすかさず、
「でもこの理って何か違和感があるんだけど。」
疑問を口にする。
〔お前さんの言いたいことは分かる。とりあえず話を最後まで聞けって。え〜っと、その代行者になるためには種族名ってのが重要になる。神鬼族って情報を封印され、長い年月が経ち、自分たちが神鬼族ってことを忘れっちまった。それで女神の代行ができないって訳だ。ここまでは理解したか?〕
「理解はしたけど、忘れ去られるくらいの長い年月ってどれくらい経ってるの?」
〔おそらく二百年くらいは経ってるな。〕
「二百年……。」
俺は呟いた。
〔話を続けるぞ。厄介なのは忌畏。これは世界規模の呪いだ。〕
「鬼族に、世界規模の呪い……。」
俺は話を遮らないように、呟く。
〔俺が転生した頃はこんなものはなかった。人間ともそれなりに仲良くやってたんだぜ。転生したての当時の俺は、故郷の日本が恋しくてな。その中でも昔の日本の造り、あの雰囲気が良いんだよな。その雰囲気を再現することに没頭してたんだ。里を造り上げたそんなある日、俺は代行者に選ばれたんだ。その時の女神さん、『世界の理が!?』ってえらく慌ててたのを今でも覚えているぜ。〕
酒天黒の声がとまる。
俺は続きが気になり、
「女神が慌てて、それから何が起きたの?」
〔昔を思い出しちまった。続きだよな。はやい話が、代行者に選ばれた俺は世界の理を守るため敵に挑み……負けた。チート級のスキルも所持していたんだぜ。正直言って負けるはずがないって思ってた。そのおごりで、スキルを発動する前にやられっちまった。他の種族の代行者達も別々の敵にやられて同じ結果だ。皆……負けた。〕
あの時、スキルを発動できていれば。酒天黒の震える声、当時の後悔を思い出しているのだろう。
「負けた……他の種族も……皆。」
〔すまねぇ、話しすぎて会話できる時間が無くなってきたようだ。もう結論から言う。神鬼族に呪いをかけたのは[アルカビーゴス]と言う悪魔。やつは世界の理を創り替えた者の手先だ。今の世界の理は間違っている。お前さんの共想をこの盃に発動しろ。〕
「アルカビーゴス……悪魔か。世界の理を創り替えた者の手先……。って、共想まで知っているのか。」
具体的にスキル名まで指定してきたので驚いていると、
〔発動すれば分かる。どうか神鬼族を救ってくれ。〕
俺は頷き、盃に共想を発動する。
『共想中……。』
酒天黒の神鬼族を救いたいと言う想いと、俺の鬼族を救いたいと言う想いが重なる。
『完了しました。』
『固有スキル[悪童]を獲得しました。』
『共想対象11。想力+160%になりました。』
「共有スキルじゃなくて固有スキル?」
〔うまくいったようだな。神鬼族の転生者、俺の固有スキル[悪童]。お前さんが強くなればなるほど、恩恵が無くなる。格上の相手ほど効果が大きくなる。いわゆる格上殺しのスキルだ。しかし、油断はするな。敵は今も監視しているはずだ。さて、俺の役目も終わった。後は天界から眺めているぜ!……あっ!言い忘れてたけど、スキルの効果……〕
そう言うと酒天黒の声は聞こえなくなった。
祠の盃に、
「言い忘れてたスキルの効果って……[悪童]に何か裏があるとか?名前からして不穏だし……とにかく、ここまでしてもらったんだ。絶対になんとかするよ。酒天黒……本名聞いとけばよかったな。」
同じ転生者……もっといろいろ話をしたかった。そんな寂しさを感じながら、祠に背を向け振り返ると……俺の言葉に驚き過ぎたのか、長老がひっくり返っていた。
「長老ー!!気をしっかり持って!!」
俺は慌ててスキル[号令]で朧響を呼んだ。
酒天黒……なんか締まらないが後は任せてくれ!
第50話 終




