第48話 鬼族の忌畏
「いや、まだ何も説明してないんだけど!?」
食いつくのが早い、それほど暗殺者が嫌だったようだ。
「大丈夫よ。何を言われても驚かないわ。暗殺者として訓練してあるから。」
(訓練してあるからって……暗殺者が胸を張って返す言葉なのか?……暗殺者キャラが嫌だって言ってたからこれが素か。)
なぜか自信満々なサフィアを見つめ、
(この調子だと暗殺者というイメージを維持するため、今までサフィアのキャラ作りは大変だったんだろうな。)
そんなことを思いつつ、俺は鬼族について説明した。
するとサフィアは思い当たる節があるように、
「だから私は鬼と対峙した時、武器を構えてしまったのね。」
暗殺者は真正面から戦わない。そのうえ、明らかに格上の相手に対してとる行動ではない。
「その話の、鬼族にかけられてる忌畏?さっき体験したけど、鬼を見たら私は攻撃を止められる自信がないわ。その状態の私に、鬼族の里で協力できることってあるの?」
サフィアは何をすればいいのか首を傾げている。
(サフィアの言い分ももっともだ。協力して欲しいって言ったけど目下のところやるべきことがない。かと言って里の外へ出すほど信用した訳じゃないし……そうだ!)
「俺は鬼族を救うために情報を集めようと思う。サフィアは鬼が見えないところに隠れて待機してて。何かあったら俺のスキルでサフィアを呼ぶから。」
(もしも、黒幕が出てきた時に協力してもらおう。ゲームとかなら出てくる流れだからな。戦力は多いに越したことはないからね。)
すると、
「分かったわ。何かあったら私に任せなさい。」
サフィアは頼もしい返事をしてくれる。
「頼りにしてるよ。今から隠れる場所を朧響という鬼に頼んでみるから少し待って。」
スキル『号令』を発動する。
「朧響、暗殺者のサフィアを里に置いておきたいんだけど、どこか空き家とか隠れる場所はない?鬼族と鉢合わせない場所がいいんだけど。」
しばらく経つと、竹垣の裏から声が聞こえる。
「ソウ。先ほどの件だが、準備ができた。里の外れに空き家がある。もともとソウが泊まるはずだったが、その暗殺者……サフィアといったか、その者も共に寝泊まりできるよう準備してある。今から向かうとよい。鬼族は姿を現さぬよう伝えてある。」
さすが朧響、仕事が早い。
「ありがとう朧響!助かるよ!」
「う、うむ。」
人から礼を言われるのがこそばゆいのか、その短い返事から照れを感じる。
そういえば鬼族の『忌畏』、声だけならどうなんだ?サフィアの様子を伺う。
冷や汗をかき、怯えた表情を見せている。しかし、竹垣を壊してまで攻撃を仕掛けるほどではないらしい。
(物越しならまだマシなのか……。)
「サフィア、聞いての通りだ。今のうちに向かおう。」
里を歩くと、鬼族の気配を感じるのか、怯えて動けなくなるサフィア。その手を引っ張って里外れの家まで連れて行く。
(忌畏……気配だけでこの状態になるのはかなりまずい。サフィアはほとんど動けないと思った方がいいな。)
朧響から教えられた家に着き、サフィアを見る。
「ありがどゔ〜。めぢゃぐちゃ怖かっだ〜。」
そこには涙と鼻水を垂れ流す暗殺者の姿が。
(「何を言われても驚かないわ。」って胸を張っていた姿が、見る影もないな。)
ふと家の中に視線をやると、囲炉裏に魚が焼いてある。
(朧響の気遣い凄すぎなんだけど。)
「俺はもう夕食は食べたからこの魚はサフィアが食べて。朧響が用意してくれたみたい。落ち着いたら今日はもう遅いから明日に備えて寝てしまおう。」
「ぐす……うん。」
サフィアは涙を拭いながら返事をして、魚を食べ始めた。
俺は『識想』を発動する。
サフィア
Lv43
種族 人間
職業 暗殺者
適性 暗殺者
スキル
隠密
認識阻害
???
(職業も適性も暗殺者……しかしサフィアは暗殺者という職業が嫌だと言っている。暗殺者ではなくなったら何の職業になるんだろう……?)
本人がなりたくない職業、しかし適性はある。この世界には選択肢がなさすぎる……理とは何なのだろう。
俺は横になりながら考えていると、いつの間にか眠りに落ちた。
夢の中で不思議な声を聞く。
【世界の理を覆し者……鬼族が祀っている祠へ来るがよい。】
言葉を返そうとした時、俺は目が覚める。
鳥の囀る声。辺りはすっかり明るくなっていた。
俺は上半身を起こして、
(なんだ今の声……鬼族の祠って言ってたな。とりあえず長老に祠の場所を聞いてみるか。)
第48話 終




