第47話 サフィア
そんなやり取りをしていると、
「どれも美味しそう、どれから食べようかな?」
俺が暗殺者へ視線を向けると、寝言を言いながら口元の涎を手で拭っている。
「寝言か……幸せそうな夢をみてるな。」
そう言うや否や突然、暗殺者が上半身を起こす。
「やばい!朧響!早く隠れて!」
俺が朧響に視線を戻すと、すでに姿は消えていた。
さすが朧響、状況判断が早い。
ぼんやりとしていた暗殺者はハッとなり、瞼を開き金色の瞳を覗かせる。
〈まずい……。鬼族の里に連れて来られた?〉
すぐに身体を起こして戦闘の構えをとろうとするが、いつも身につけている短剣がないことに気づく。
〈やられた……武器を取り上げられてる。〉
暗殺者が声に出さずに考えていると、
「おはようございます。どれから食べるか決まった?」
「なっ!?」
寝言を聞かれていたと知り、動揺して変な声を出しつつ、顔を赤らめた暗殺者はこちらを見据える。
〈少年!?ここにいるということは、あの恐ろしい鬼と仲間だとでも言うのか……。この少年から逃げ出すのは造作もないが、問題はあの鬼だ。いとも簡単に私の背後を取った。そうやすやすと逃してはくれないだろう。〉
暗殺者は言葉を返す。
「そんなことはどうでもいい!それよりあの鬼はどこ!?そして、どうして少年は裸なの!?」
気絶する前の状況と、目覚めた後の状況があまりにも違いすぎるので、戸惑うのも無理はない。
(朧響が短剣を取り上げて相手は丸腰…しかし、入浴中のこちらは丸腰の中の丸腰……戦闘になったら非常にまずい。)
俺は腰にタオルを巻きつつ温泉から出る。温泉にはタオル。さすが鬼族の里。日本の温泉っぽい。
「ちょっと待って、まずは自己紹介から。俺の名前はソウ。たしか、祭りの時にいた暗殺者の人だよね。名前は?」
自己紹介をしつつ、俺はさりげなく服を着る。
〈今更自己紹介など、少年の名前はとっくに知っている。……えっ!?祭りのとき……?認識阻害を発動していたから気付かれていないはず。それに私の職業が暗殺者だと知っている!?〉
自分が情報を探っていたつもりが、逆にこちらの情報を探られていたと暗殺者は焦る。
「えぇ…祭りの時にいたわね。私は暗殺者のサフィア。よろしくソウ。」
〈平常心を保つのよ。それがプロの暗殺者。取り乱してはダメ。〉
「よろしくサフィアさん。落ち着いて聞いて欲しいんだけど、ここはサフィアさんが対峙した鬼の里なんだ。」
すると、
「サフィアでいいわ。名前を呼ぶ時は短い方が良い。」
〈そんなことより……あの鬼の里。里ということはまだ鬼はたくさんいるわよね?〉
サフィアは頭の中で恐ろしい鬼が次々と出てくる姿を想像する。
「なるほど、私たちはこのお湯で洗われて食べられるということね。」
「いや、違うよ。」
俺の言葉は聞こえず興奮したサフィアは取り乱す。
「私の生きてきた十六年間はなんだったのよ!十三歳から未知の職業の監視をさせられて、って言うか当時、十三歳の少女を一人で辺境まで行かせる?王都の依頼で私が暗殺者だからってあんまりじゃない!?そしてその結果が、鬼に食べられる……もう我慢しない。何が暗殺者よ。そんなものに縛られてキャラも作りたくないわ!」
(え〜、さらっと俺のこと三年前から監視してるって暴露してるんですけど……そして年齢は十六歳、暗殺者だからキャラを作っていたと。)
そんなサフィアを眺めていると、一気に捲し立てて息を切らした様子で、
「はぁはぁはぁ……はぁ〜。」
もう終わりだわ、という風に頭を抱えながら、最後に深いため息をこぼす。
そんなサフィアに、
「えっと……いろいろ暴露したところ申し訳ないんだけど、鬼族は悪い種族ではないから食べられないよ。」
サフィアは俺をちらりと見る。
「ここまで来てしまったんだ。全て説明する。そして、協力して欲しい。もちろんただじゃない。さっき暗殺者に縛られたくないって言っていたよね?俺ならそれをなんとか出来るかもしれない。可能性の話だけど、報酬はそれでどう?」
〈職業の暗殺者をなんとか出来るですって!?もう暗殺者キャラに縛られなくていいの?明るい服を着てこそこそしなくてもいいってこと!?〉
「ぜひ協力させてもらうわ!」
サフィアは何も説明を聞かないまま、一方的に俺の手を取った。
第47話 終




