第45話 暗殺者
時は遡り、村の祭りの日。
私は暗殺者のサフィア。
王都からの依頼で、未知の職業を授かった村の少年を監視している。
依頼は、監視対象が未知の職業を授かった翌月から始まった。月に数回だけ、変わった行動をしていなかったか探るという簡単な仕事だ。
監視対象が職業の儀を受けてから三年が経つ。王都では少しだけ話題になったが、いちいちお偉いさんが辺境へ出向くほどでもないらしい。
おそらく王都は、ただ珍しいもの見たさなだけだろう。
しかし私もプロだ。見つからないように細心の注意を払い、対象を遠くから監視していた。
今までで気づいたことと言えば、村の中で少女と魔法の練習をしていたことだろうか。[火球]を放っていたので魔法使いと似たような職業ではないだろうかと報告したくらいだ。月に数回しか来ないので得た情報はそれくらいだ。
しかし、事態は急変した。
先日の一件で、職業が無かった者へ職業を与え、森の魔物を次々と倒し、さらにはオークまで一人で倒してしまったという。
そんな能力を隠していたとは驚いた。そして、王都へどう報告したものかと頭を抱える。
今日まで、ろくな報告ができていないので今回の件を報告すると、今まで何をしていたんだと叱責は免れないだろう。正直に話すか迷ってしまう。プロが聞いて呆れる体たらくだ。
そこで私は閃く。こうなればさらに大きな情報を持って帰ろう。驚きのあまり私への叱責を忘れるかもしれないと。
大きな情報を得るためには隠れてばかりではいられない。私は対象から隠れるのをやめることにした。
何食わぬ顔で祭りへ参加する。念のため『認識阻害』スキルだけは発動しておく。
なのに少年はこちらを訝しげに眺めている。
(なぜこちらへ視線を向ける!?)
私の『認識阻害』は完璧なはずなのに。やはり未知の職業、油断ならない。
私は内心、冷や冷やしつつ通り過ぎるのを待つ。
そのまま少年は慌てる様子もなく去っていく。おそらくバレてはいないだろう。考えすぎだったようだ。
その日、開き直った私は祭りで飲んで食べて、歌って踊った。お酒は飲めないのでジュースだったが、すごく楽しかった。
次の日、少年は突然村の外へ抜け出す。
少年が使っている隠蔽系のスキルなど、私には通用しない。暗殺者として、気配を消した相手を見つける術はいくつも身につけている。
こちらも『隠密』を発動して後を追う。すると森の前で何やら話し込んでいる。どうやら父親が、私の足止めを買って出ているようだ。
(私を足止めするなど百年早い。)
暗殺者の隠密性を舐めてもらっては困る。
なにかに気づいたのか、少年の父親がこちらに視線を向けようとする。
(!?……ただの父親ではないようだな。)
その瞬間、近くにあった小石を掴み、茂みに投げて音を鳴らす。
少年の父親が気を取られているうちに距離をとり、木々に隠れながら迂回して追跡を続行する。
……日も暮れてきた。この少年は何処へ向かっているのだろうか。
すると、森を抜ける。
眼前には岩場。
私は森から出ずに少年の行方を伺う。
すると迷いなく木の葉が重なって生えている箇所へ突き進んでいく。
ん?何かあそこにあるのだろうか。岩場と木々に囲まれたあの場所に。暫く眺めていたが出てくる様子もない。意を決して少年が進んだ場所へ向かう。
すると突然、背後から気配が、
(後ろを取られた!?)
恐ろしい声がする。
「あの少年を追ってきたのか?」
恐る恐る振り返るとそこには赤黒い影に包まれた鬼が立っていた。
本来、暗殺者は隠れて標的を倒す。見つかれば即離脱して状況を立て直さなければならない。私は分かっているはずだった。しかし、目の前の存在を前にして、本能的に短剣を構えてスキルを発動しようとする。
その瞬間、目の前にいたはずの鬼が消え首の後ろに衝撃を受ける。朦朧とする意識の中、
「鬼渡り」
鬼の恐ろしい声が聞こえて、私は気を失った。
「………ソウのところへ連れて行こう。」
鬼はそう言うと暗殺者を担ぎ、その場から消えた。
第45話 終




