第36話 大きな気配
俺は溜息を吐きながら振り返る。
そこにいたのは……人間の大人ほどの大きさだろうか。額からは敵を威圧するかのように二本の角が斜め前へ湾曲して伸びている。
鬼だろうか……。
しかし、全身が赤黒い影に覆われていて、二本の角以外は何もかも認識できない。
(溜息を吐きながら振り向いちゃったけど…これかなりやばいやつじゃない!?こんなの聞いてないって!今までの魔物とベクトル違いすぎるんですけど!?)
すかさず『識想』を発動する。
???
Lv??
種族 ???
職業 ???
適性 ???
スキル
???
ーーー
(何も分からない。……角からして鬼だよな…これ最初の森に居たらダメなやつじゃん。とりあえず謝っておこう。会話が通じる可能性に賭けよう。隙をついて距離をとり、対策を練りたい。)
俺は意を決して、
「えっと…こんにちは。なんか溜息を吐きながら振り向いちゃってごめんなさい。」
俺は頭を下げるが反応はない。
「人違いと言うか…魔物違いしちゃったみたいで…はははは。」
ジョークを挟んでみても反応はない。
「それじゃ僕はあっちに用事があるんで失礼しまーす。」
反応がないので振り返り、立ち去ろうと一歩踏み出したその時、
「お前が…世界の理を覆した者か。」
俺はその言葉に警戒しつつ振り返る。
「世界の理…?」
鬼はこちらを見ながら、
「やはりお前だったか。」
(しまった…顔に出てたか!?)
鬼が視界から消えた瞬間、左脇腹に衝撃を受け、吹き飛ばされる。
「ぐはっ…一体何が…。」
左脇腹を抑えながら『樹命』を発動する。
痛みが少しずつ引いていく。
だが、呼吸は乱れたままだ。
(オークたちとの戦いで既に体力を消耗している。ここから長期戦になれば、先に倒れるのは俺だ。)
「まずい、攻撃が見えなかった。透明化スキルか?それにしても消えてから衝撃までが瞬間的すぎる…。」
リュネアの言葉を思い出す。
「大きな気配がしたと思ったら消えたりって言ってたよな…もしかして転移系のスキルなのか。」
「正解だ。」
背後から声が聞こえたかと思うと今度は背中に衝撃が走り、またもや吹き飛ばされる。
「ぐはっ……!」
地面を転がり、咳き込みながら何とか立ち上がる。
『樹命』を発動して傷を癒すが、思うように足に力が入らない。
「それでもまだ…何とか動ける。」
俺は残っている力を振り絞る。
(……転移系の弱点…目視した場所にしか転移できないとか?)
アニメなどの知識を活用する。
(気配を探って転移するパターンもあるか…厄介すぎる。)
「氷壁!」
自分を中心に半径五メートル程の氷の壁を作り、すぐ近くの壁に背中をもたれかけ座り込む。立っているのもやっとだ。
(これで…目視できない壁の中に転移できるのか試してやる。それに、転移できない場所を作れば、少なくとも不意打ちは防げるはずだ。)
呼吸を整えようとしても、息がうまく吸えない。
すると、正面の氷壁が外側から打ち砕かれる。
「火球!」
打ち砕かれた壁に向かい即座に放つ。
(…壁の中に来なかった。やはり目視した場所にしか転移できないのか?)
次の行動へ移ろうとするが、
「あ…れ……身体が…動か…ない………。」
ドサッ。
視界が霞む……鬼がだんだん近付いて…。
第36話 終




