第2話 妄想好き異世界デビュー
「この子の名前は…ソウ。不思議ね。自然とこの名前が浮かんだの。」
(言葉が分かる…?)
(転生補正ってやつか。)
前世の記憶は、不思議なくらい鮮明だった。
俺の名前が奏太だからソウと言う事なのだろうか。
(偶然か?それとも何か意味があるのか…?)
考えてみるが答えは出ないのでやめた。
赤ん坊なので言葉は上手く出ず泣き声しか出ない。首も満足に動かせない。
抱き上げられた時に周囲を観察してみる。
木造の家、木の机、見たことのない民族衣装。
窓の外を見る。
馬が荷馬車を引き、剣を背中に背負う者や杖を手にして歩く者もいる。
妄想の中で何度も歩いた世界が、そのまま目の前に広がっていた。
明らかに俺が暮らしていた世界とは違う。
……最高じゃないか!
だが、転生はワクワクだけではない。
意思疎通ができず上手く動くことのできない赤ん坊の体。
一番困るのはトイレだ。
前世の記憶があるせいで、おむつに抵抗があり、情けなくて泣けてくる。
先程から俺を抱いている女性がこちらの世界の母親だろう。
優しい眼差しで俺をあやしてくれている。
(治癒士っぽいな。優しい言葉と共に回復してくれそうだ。)
「ソウか、良い名前じゃないか。とうとう俺もパパになったんだな。ソウちゃーん、パパでちゅよー」
巨大な顔だ!
…いや。
俺が小さいだけか。
この親バカ全開なのが父親だろう。見た目はとても若々しく、細身だが肉体もガッチリしている。
(戦士っぽいな、強そうで頼もしい。)
めちゃくちゃ頬擦りしてきてほっぺが擦り減りそうだが…嫌ではない。やはり父親だからだろうか。
「レオン、可愛いのは分かるけどそろそろやめなさい。」
母が父を笑いながら嗜める。
「可愛いからしょうがないじゃないかエレナ。」
といいつつ父もピタッと頬擦りをやめ嬉しそうに言う事を聞いている。
とても仲の良い夫婦なのが見てとれる。
(両親の名前はレオンとエレナというのか。)
俺に対しての愛情を感じて嬉しく思う。
それから一年
転生直前に起こった事をたまに夢で見て不安になる。
(秀斗達は無事だっただろうか…。)
しかし…段々と記憶も朧げになっていった。
エレナは毎日俺を抱き上げ、優しくあやしてくれる。
レオンは意味もなく頬擦りしてくる。
それが照れ臭いがとても嬉しくてすぐに泣き止んだ。
掴まり立ちができるようになり、さらに何も掴まらずに二、三歩だけ歩けるようになった。
レオンとエレナは相変わらずで…
「きゃー!あなたー!ソウちゃんが立ったわー!」
「おー!すごい!すごいぞ!我が息子よ!さすがだー!」
何をしてもこの調子でガンガン褒めちぎってくる。
(この親バカめ。)
自然と口元が緩む。
「笑った顔、レオンにそっくり!」
「いいや、エレナにもそっくりさ!」
(見せつけてくれる…このおしどり夫婦が!)
この両親をとても微笑ましく思う。
(早く外を自由に探索したいなぁ。)
俺はまだ歩き回れないので、レオンに抱かれて外へ出る。
風が気持ち良い。
土の匂い。
鳥の声。
空は青くどこまでも広がっている。
ここは小さな村だ。
隅々まで見れない。それでも木造りの家、小さな教会、遠くに山々が見える。
村の入り口には荷馬車があり、冒険者らしき装備の人が出入りしている。
「今日は家族で散歩か?レオン。」
この人は近所に住むダリオさん。
「やぁダリオ、ソウにいろいろ見せてあげたくてね。刺激が子供を成長させるって良く言うだろ?」
「立派に父親してるんだなぁ。」
ダリオさんは感心したように笑い、俺へ優しく声をかける。
「こんにちはソウ。レオンみたいに強くなるんだぞ。」
ダリオさんを見ると、頭の中に一瞬だけ文字が浮かぶ。
ダリオ
Lv 30
農民
……
(なんだ今のは?)
目をこすってもう一度見る。
だが、そこには笑うダリオさんしかいなかった。
第2話 終




