第1話 妄想好きは異世界へ
「異世界は存在する。」
そう言うと大抵の人は笑う。
俺、城沢奏太は本気で信じていた。
そして今日も妄想する。
俺は体育館に並ぶ生徒を見ながら、
一学期の終業式そっちのけで
(あの男子は戦士。見事な仁王立ちだ。)
(あの教師は僧侶。保健室送りで全回復。)
(実は教頭が魔王。毎ターン説教ダメージ。)
その人に似合う職業を勝手に妄想して楽しんでいる。
妄想で時間を潰しているが、体育館の熱気で制服が背中に張り付く。
これを乗りきればしばらく授業から逃れられる。
「夏休みだからと言って羽目を外しすぎないように。」
壇上から声が聞こえる。
生徒会長が締めの挨拶を行っている。
俺に言っているんじゃないかと思うくらい目が合う。
(いや、これは俺に言っているな。)
学年は違えど生徒会長の秀斗とは幼馴染だ。
容姿端麗。
成績優秀。
スポーツ万能。
……反則だろ!
全力で目を逸らし、引き続き妄想に浸る。
(吹奏楽部は吟遊詩人だな。)
(もし陸上部なら足が早いから盗賊かな。)
……安直な妄想で陸上部を盗賊集団にしてしまった。妄想しておいて申し訳ない。
ようやく終業式が終わった。
「奏太、一緒に帰ろうか。」
「おーい!奏太!一緒に帰るぞー!」
下駄箱へ向かうと、静かな声と馬鹿でかい声が同時に飛んできた。
一人は先ほど壇上にいた生徒会長の秀斗。
もう一人はゴリ先輩。
「今日の終業式もどうせ妄想してたんだろ?」
と、肩をバンバン叩く。
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小さい頃から二人とはよく遊んでいた。
「今日は秘密基地を作るぞ!」
秀斗は皆を引っ張るリーダー。
「材料を運ぶのは俺の筋肉に任せな!」
小さい頃から脳筋のゴリ先輩。
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昔は脳筋なだけだったんだけどな。
あだ名の通り筋肉盛り盛り。暑苦しいくらい筋肉質なのに、一緒にいると安心する。
「筋肉にバレた…だと!?」
といつものように笑いながら冗談を返す。
「改めて、お疲れ様です。先輩。」
「先輩はやめてくれよ。いつもの様に呼び捨てで呼んでくれ。」
「そうだぞ!だが俺には先輩を付けないとただのゴリになるからな!先輩を付けるんだぞ!」
ゴリ先輩は少し繊細なのだ。
冗談を言っていると、小走りで駆け寄ってくる人物がいた。
「あっ、先輩方、お疲れ様です。下校時間まで寝癖って…相変わらずだらしないですね。奏太先輩。」
後頭部を触りながら
「妄想し過ぎて寝癖が!?」
「そんなわけないでしょ。」
この呆れた顔をしてるのが1年生なのに生徒会の会計、泉だ。
思ったことをすぐに口に出す素直な性格。
校門を出て他愛のない話をしながら歩いていると、
木陰から鋭い目でペットショップを伺っている男がいる。
学校外でもつい妄想してしまう。
「あの人は狩人だな。」
それにしても何故あんなに遠い所から見てるんだ?
「先輩、またいつもの妄想ですか?」
泉はクスッと笑った。
つい言葉に出してしまったのを聞かれ、
「狩人?なら俺たちは何になるんだ?」
秀斗は笑いながら聞いてくる。
それぞれの職業を披露する事になってしまった。
仕方ない、ここは開き直って
「聞くが良い!我が妄想を!」
「秀斗は皆を引っ張る勇者、完璧超人だからね。完璧過ぎて実はラスボスという熱い可能性すらもあるけど勇者だ。勇者が良い。」
「そうだな、勇者でいられれば1番良い。」
秀斗は目を細めて笑っていた。
「そしてゴリ先輩、これは言わなくても分かるんじゃない?」
「なんでだよ!このあだ名からある程度は分かるけど教えてくれよ!」
暑苦しい筋肉が迫ってくる。
「近い近い、分かったから。」
筋肉を押し返しつつ
「ゴリ先輩は戦士。その筋肉は戦士に相応しい。筋力極振りしてバーサーカーになり暴れそうだけど、面倒見の良いゴリ先輩は立派な戦士だ。」
「良かった!ゴリラじゃなかった!本当に良かった!」
どうやら人外へ転職させられると思っていたらしい。中身は可愛い筋肉だ。
「最後は泉、人を元気づけるのが上手だからバフ系魔法使いだな…ピンチの時にバフをかけ皆を救い聖女となる。」
「バフ?よく分からないですけど…なんでも良いですよ。」
聖女と言われ照れている様だが、どうやら男子と違ってこういう話はあまり興味はないらしい。
秀斗達と笑い合いながら歩く。
「また明日な。」
こんな日常がこれからも続く。
そう思っていた。
ふと空を見上げる…えっ…空が…割れて…
自分の周りに怪しげに光る模様が広がっていく…
その瞬間、今まで妄想してきた職業が頭の中を駆け巡った。
戦士。
僧侶。
魔王。
吟遊詩人。
盗賊。
狩人。
勇者。
その瞬間、何かが胸の中で弾けた。
「おい、奏太!その周りの魔法陣は!?」
「奏太!俺の筋肉に掴まれ!」
「なんですかこれ!?奏太先輩!」
皆、慌てすぎだ。
筋肉に掴まれって…
…いや、待て……
景色が歪んでいく。
腕に掴まれ…だ…ろ…………
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腕に掴まれだろ!えっ…声が出ない…体が思うように動かない…小さな手…俺の手?
自分が異世界へ転生したらと妄想した事は何度もある。
……赤ん坊に転生したんだ。
異世界一発目の思考がゴリ先輩へのツッコミか………俺は心の中でクスッと笑う。
そう考えると急に寂しくなり赤ん坊のように泣き喚いた。
どうやら肉体に引っ張られて感情の制御が難しいようだ。
放課後はゲームをしたりアニメを見たりラノベを読んだりするのが俺の日課だった。
RPGのジョブを考えるのが大好きだった。
この世界には職業なんてあるんだろうか…。
泣き声を聞き、一人の女性が俺を抱き上げた。
「この子の名前は---」
第1話 終




