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第一章 「すべての始まり07」

「こ、これ……道、だよね?」


視界をすっかり覆っていた草むらの先には、

さっきまで半日かけて歩いてきた山道より、

三倍は広い土の道が続いていた。


私は思わず嬉しくなって、

草むらを飛び出した。


平らに踏み固められたその道を

何度も足で確かめるように踏みしめていると、

あとから追いついてきた小七も歓声を上げる。


「主人様! これ、完全に人の手で作られた道ですよ!」


「うん……」


「主人様? どうしたんですか?」


私はゆっくり顔を上げて、

辺りを見渡した。


どこまでも続く草原。


果ての見えない空。


――ああ。

やっぱり私は、

もう元の世界にはいないんだ。


「主人様、やっと森を抜けたのに……

なんだか嬉しそうじゃないですね」


小七は心配そうに、

私の目の前をふわふわ飛び回った。


「大丈夫。

ちょっと慣れないだけだから」


「主人様、具合が悪いんですか?

小七が見ます!」


そう言うなり、

小七はぴゅっと飛んできて、

翼で私のおでこに触れた。


私は思わず小七を軽くつかまえて、

そっと肩に戻しながら笑う。


「本当に大丈夫だよ」


「……ならよかったです」


それを聞いて、

小七も今日いちばんの笑顔を見せた。


私は気を取り直すように言う。


「でも、道があるってことは、

このまま進めば村とか町があるってことだよね?」


「もちろんです!」


小七は得意げに胸を張る。


「これは立派な街道です。

多少整っていなくても、

人が住む村や農地には必ずつながってますよ」


「それならよかった……

今夜森で野宿よりずっといいよね」


「主人様、小七も全面的に同意です。

今日はいっぱい汗をかきましたし、

あったかいお風呂で

この翼とこの美しい顔を整えたいです」


「そこなんだ……」


思わず苦笑してしまう。


それでも私は小さく拳を握った。


「よし、出発しよう!」


「おおーっ!」


小七も翼をぴんと上げて元気よく返事をした。


――そして私たちは村へ向かって……


……行けなかった。


なぜなら。


「……で?」


私は左右に伸びる道を見ながら聞く。


「どっち?」


「主人様?」


小七はきょとんとしたあと、

困ったように羽をぱたぱたさせた。


「そんなふうに聞かれても、

小七にも分かりませんよ!

小七だって主人様と同じで、

今日この世界に来たばかりなんですから!」


「だよね……」


左右どちらも同じような道。


正直、

どっちが正解なのかまったく分からない。


少し考えて、

私はひらめいた。


「じゃあこうしよう」


「はい?」


「せーのでお互い、

こっちだと思う方を指すの。

同じだったらその方向で」


小七の目が輝く。


「それは名案ですね、主人様!」


「でしょ?」


私は小さく息を吸った。


「じゃあいくよ。

いち、にの……さん!」


「さん!」


私は左を指差した。


そして同時に、

小七のほうを見る。


すると――


「主人様、私たちって結構息ぴったりですね!」

「小七、私たちって結構息ぴったりだね!」


私たちは顔を見合わせて、

思わず笑ってしまった。


最悪の状況はもう抜けた。


そう思うだけで、

心まで軽くなった気がした。


今ならきっと、

幸運の女神が味方してくれてる。


そんな気さえした。


それから三分ほど歩いた頃。


突然、

小七が大声を上げた。


「主人様! あれ! あれ見てください!」


「え?」


小七が翼で道の先を指差す。


目を凝らすと、

道の向こうに

小さな人影のようなものが見えた。


しかも、

こちらへ向かって走ってきている。


「ひ、人だよ、小七!」


「はい! 人です!

絶対に人です!

よかったですね、主人様!」


私たちは思わずハイタッチして、

そのまま人影のほうへ走り出した。


待っていれば向こうが来てくれる。


そんなことは分かっていたけれど。


森を抜けて初めて見る

“他の人間”に、

じっとしてなんていられなかった。


「おーい!」


私は手を振りながら走る。


小七も隣を飛ぶ。


人に会えるだけで

こんなに嬉しいなんて、

人生で初めて知った。


やがてその姿が

はっきり見えてくる。


相手は男の人だった。


高校生か大学生くらいの、

少し年上のお兄さん。


銀白色の髪。


青いシャツに、

暗いグレーのズボン。


その上から、

ゲームでよく見るような

長いローブを羽織っている。


(あれなんだっけ……

魔法使いっぽい服……

あ、そうだ、ローブ!)


深い紺色に、

銀の縁取り。


すごくそれっぽい。


でも――


「小七」


私は走りながら小声で聞いた。


「なんか……

あのお兄さん、様子変じゃない?」


「主人様……

言われてみれば」


その瞬間、

私と小七は同時に気づいた。


「「あんなに必死で走る必要、ある?」」


私たちは同時に足を緩めた。


でも、

そのお兄さんだけは

少しも速度を落とさない。


そして、

顔が見える距離まで近づいた時。


私たちはようやく、

さっきまで気づかなかった

異変の理由を知った。


その人は、

ただ走っているんじゃなかった。


空色の瞳。


汗で濡れた顔。


苦しそうに歪んだ表情。


それは親切で駆け寄ってきている顔じゃない。


まるで――


命からがら、

何かから逃げている人の顔だった。


その異様な様子を見て、

私と小七は同時に、

ある最悪の可能性を思い浮かべた。

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