表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者パーティーって、本当に大丈夫  作者: 風に舞う楓


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
48/52

第六章「旅立ちと決意47」

「……」


 演壇から降りてきたフレアさんとヨカゲが、うつむいたままの私のそばへ静かに歩み寄ってきた。


 けれど、二人とも何も言わなかった。


 きっと……カイアさんが口にした言葉こそが――


 みんなの、本音なんだ。


 どれほどの時間が流れたのだろう。


 やがてエイスが再び口を開いた。少しかすれた声だったが、その威厳は失われていなかった。


「では、これから取るべき行動を決めよう。まずはクリス隊長に――」


 しかし、その言葉が最後まで続くことはなかった。


 張りつめていた空気が限界を迎えたように、人々の中から一人が大声を上げる。


「村長! まずは村のみんなを避難させるべきです!」


「そうですよ、村長! ルミナが心配なのは分かります。でも、一番大事なのは村全体でしょう!」


「助けに行くとしても、まずは全員が安全になってからで十分です!」


「その通り! 予定どおり村ごと避難して、そのあとで救助隊を出せばいいじゃないですか!」


「女将さん、ルミナだって馬鹿じゃありませんよ! 本当に危険なら、自分でちゃんと身を隠しますって!」


「エイス村長も年を取りましたねぇ。一人の女の子と村の命運、そのどちらが重いのかも分からなくなったんですか?」


「そうだそうだ! この騒ぎで商売に損害が出たら、ちゃんと補償してもらいますからね!」


 その言葉の一つ一つが――


 鋭い矢のように、私の胸へ突き刺さっていく。


 本当なら、私は子どもらしく泣いて、逃げて、誰かの後ろに隠れてしまえばよかった。


 なのに――


 胸の奥で、何かが。


 ぷつんと音を立てて切れた。


 私はそっと、頭に置かれていたフレアさんの手を払いのける。


 そして次の瞬間――演壇へ駆け上がり、思いきり拳を床へ叩きつけた。


 ドォンッ――!!


 教会中が震えた。


 もう涙なんて堪えられなかった。


 私は顔を上げ、胸に溜め込んでいた感情を全部ぶつけるように叫ぶ。


「みんな……みんな馬鹿なの!?」


「ルミナのことを小さい頃から見てきたあなたたちが……どうして……どうしてあの子のことを何も分かってないの!?」


「どうしてあの子がこんなことをしたの!? どうして危険だって分かっているのに行ったの!? どうして……どうして誰も助けようとしないの!?」


「分からないの!?」


 声が震える。


 涙が止まらない。


「あの子は――ルミナは……誰よりも、この村を愛しているんだよ!」


「あなたたち全員よりも! 自分の選択を『賢い』とか『正しい』とか言ってる大人たちよりも、この村のことを大切に思ってるの!」


「あの子は馬鹿なんかじゃない! こんな選択をしたのは、この村のみんなを守りたかったからなんだよ!」


 私は泣き叫んだ。


 その声が教会中に響き渡る。


「小さな英雄さん、落ち着いてください。私たちだって、本当に村を見捨てたいわけじゃ――」


「――嘘だ!!」


 私は演壇の上から教会中を見渡した。


 フレアさんも。


 クリス隊長も。


 自警団のみんなも。


 見慣れた村人たちも。


 誰一人として、私がどうして怒っているのか理解していなかった。


 誰も、私の悲しみに気づいていなかった。


 私は小さく笑う。


 まるで、ようやく答えにたどり着いたみたいに。


「……そっか。」


「そういうことだったんだ。」


「もし本当に諦めていなかったなら――どうして今になっても、誰もルミナが何をしようとしているのか分からないの?」


 エイスが眉をひそめる。


「三好さん……何が言いたい?」


 私は会場を見回した。


 フレアさんも。


 クリス隊長も。


 自警団のみんなも。


 村人たちも。


 全員が困惑した顔をしている。


 当然だ。


 だって――


 私はようやく思い出したのだから。


 あの宴会の夜。


 宴が終わったあとの深夜。


 ルミナは、疲れ切っていた大人たちに向かって、小さな声で提案した。


 私の力を借りて、一緒に『スヴァルタ・ヘイム』へ立ち向かえないか、と。


 だけど――


 誰一人、本気では受け止めなかった。


「子どもが口を出すことじゃない。」


「よその子に迷惑をかけるな。」


「これは大人の責任だ。」


 そう言って、彼女を止めた。


 彼女は……ただ、みんなを助けたかっただけなのに。


「だからずっと不思議だったんです。」


 私は静かに言葉を続ける。


「広場で私が戦う姿を、みんな見ていましたよね。」


「なのに、誰一人として『スヴァルタ・ヘイム』を何とかしてほしいって頼まなかった。」


「冗談半分でさえ、誰も言わなかった。」


「最初は、この村の人たちが優しすぎるんだって思っていました。」


「でも違った。」


「今回のことで、ようやく分かったんです。」


 私はゆっくりと演壇を降り、教会の出口へ向かって歩き出す。


「――みんな、最初から諦めていたんだ。」


「だから、自分たちの子どもにも『他人を頼るな』って教えた。」


「ルミナに言ったのと同じように。」


 教会は静まり返った。


 それでも、一人の村人が耐えきれずに声を上げる。


「小さな英雄さん! これは私たちの村の問題なんです! よそ者のあなたを巻き込むわけにはいかないでしょう!」


「それに『スヴァルタ・ヘイム』は、あなた一人でどうにかできる相手じゃない! あの銀髪の男性だってそう言っていたじゃありませんか! あまり独りよがりなことを言わないでください!」


 私は立ち止まる。


 何も答えない。


 ただ、大きく息を吸い込んで――


 ドォォンッ!!


 天井へ向かって、思い切り拳を振り抜いた。


 教会の天井に大穴が開き、眩しい陽光が斜めに差し込む。


「だから誰も、ルミナが何をしようとしていたのか分からなかったんだよ!!」


「あなたたちは誰も信じようとしない!」


「最初から希望なんて捨てていたんだから!!」


 その叫びのあと、教会には完全な沈黙が訪れた。


 もう、誰一人として口を挟む者はいなかった。


 やがて演壇の上のクリス隊長が静かに問いかける。


「……小さな勇者さん。もしかして、ルミナの行き先に心当たりがあるの?」


「事前に何か聞いていたの?」


「クリス隊長。」


 私は首を横に振る。


「ルミナは何も言っていません。」


「でも、少し考えれば分かることなんです。」


「お願い……もう時間がありません。」


「分かるように説明してくれますか?」


 私は深く息を吸い、教会の入口で振り返る。


「エイスおじいちゃん。」


「ルミナから聞きました。」


「昔、工場で起きたある事故が原因で、周囲の生き物が近づけなくなったことがあるって。」


 エイスは重々しくうなずく。


「ああ……タロの実のせいだ。」


 私は続けた。


「私たちがこの村へ来てから毎日、期限切れのタロの実が入った樽が少しずつ消えていました。」


 教会中を見回しながら、はっきりと言う。


「そして今日。」


「ルミナは荷馬車いっぱいに木樽を積んで、カナン草原へ向かいました。」


「『スヴァルタ・ヘイム』の進路が変わる条件。」


「数年前の事故。」


「ルミナがあの日言っていたこと。」


「消え続けていた期限切れのタロの実。」


「全部つなげれば、答えは一つしかありません。」


 私は拳を強く握りしめる。


「ルミナは、自分一人で期限切れのタロの実を運び出し――」


「『あの日の事故』をもう一度起こして、『スヴァルタ・ヘイム』の進路を変え、この村を救おうとしているんです!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ