第六章「旅立ちと決意44」
ルミナの失踪を知ると、エイスは村長として、村人全員を臨時集会所――純白の教会へ招集した。
祭壇の前には、村長のエイス、自警団隊長のクリス、そして晨光旅店の女将・フレアが立っていた。
私とシャオチー、カイア、ヨカゲは、自警団の隊員や村人たちに混じって、その下の席に座っている。
昨夜、緊急避難命令が出されたばかりだからだろうか。
教会の中は重苦しい不安に包まれていた。
小声で話し合う者、両手を強く握り締める者、そして祭壇をただじっと見つめる者。
誰もが張り詰めた表情を浮かべている。
エイスは教会中央に祀られた女神像へ厳かに一礼すると、小さく咳払いをした。
「――静かに。皆、静かにしてくれ!」
よく響くその声が、一瞬で教会中のざわめきを消し去る。
静寂が訪れたことを確認すると、エイスはゆっくりと人々を見渡し、口を開いた。
「まず確認したい。昨夜から今朝までの間に、ルミナを見かけた者はいるか? 見た者は手を挙げてくれ」
しかし――。
教会には重苦しい沈黙だけが流れた。
椅子がかすかに軋む音だけが、この静けさの中ではやけに大きく響く。
フレアは片手で顔を覆い、肩を小さく震わせていた。
「パン、パンッ!」
突然、クリスが大きく手を叩く。
深く息を吸い込むと、鋭い視線で人々を見渡し、一人の男を睨みつけた。
「――スギ! まだ黙っているつもりか? お前の犯したことを全部話せ!」
一斉に視線が、その名を呼ばれた中年の男へと集まる。
スギは少し太った体格の自警団員だった。
顔を真っ赤にし、額からは冷や汗が流れている。
震えながら前へ出ると、フレアへ深々と頭を下げた。
「も、申し訳ありません! 今朝未明、馬小屋の当番は私でした……。ルミナさんが馬を一頭と荷車を貸してほしいと言ってきたんです。私は……いつものように食材の仕入れへ行くものだと思い込み、そのまま送り出してしまいました。本当に申し訳ありません!」
教会中がどよめく。
フレアは顔を真っ青にし、その場に崩れ落ちそうになった。
エイスが厳しい表情で問い詰めようとした、その時だった。
一人の村人がおずおずと手を挙げる。
「あ、あの……私も……見たかもしれません……」
「どこで見た!」
エイスの鋭い声が教会中に響き渡る。
村人は肩を震わせながら、窓の外――村の外れを指差した。
「あ、あの……まだ寝ぼけていたので自信はありません。でも、人影が馬に乗って……工場の方へ向かっていくのが見えた気がします……」
「――あっ、実は俺も見た!」
別の方向から、もう一人の村人が声を上げた。
「今朝、鶏小屋へ卵を取りに行った時、馬の足音が聞こえたんだ。でも……何だかおかしかった。工場の方じゃなかった気がする」
「お、お前……それは俺が嘘をついてるって言いたいのか!」
「ち、違う! そういう意味じゃない! でも……あの音は工場じゃなくて……カナン草原の方だった!」
「つまり……俺が嘘つきだと言うんだな!」
「ち、違うって! 俺はただ――」
二人が言い争いになりかけた、その瞬間。
エイスが壇上を強く叩いた。
「――静かに!」
教会は再び静まり返る。
その時、一人の若い女性が不安そうに呟いた。
「あの……カナン草原って、確か……『スヴァータ・ヘイム』が近づいている方向……ですよね?」
その一言が、再び教会中をざわつかせた。
「まさか……ルミナは……」
「おい、スギ! なんで馬なんか貸したんだ!」
「フレアさん! 娘さんはいったい何を考えてるんだ!」
「わ、私は……ルミナが本当にこんなことをするなんて思っていなかったんです……!」
「お、おい……そんな言い方しなくても――」
ざわめきは次第に大きくなり、収拾がつかなくなり始める。
その時――
「――全員、黙れッ!!」
エイスの怒号が教会中を震わせた。
先ほどよりもさらに迫力のある一喝に、誰もが息を呑み、その場は完全な静寂に包まれる。
エイスはゆっくりと、カナン草原のことを話した村人へ視線を向けた。
「お前が聞いたのは、馬の足音だけだったのか?」
「い、いえ……それと……荷車の車輪が地面を転がる音も聞こえました」
エイスは目を細め、さらに問いかける。
「他には? どんな些細なことでもいい。思い出せ」
村人は額に汗を浮かべながら必死に記憶をたどる。
そして突然、何かを思い出したように顔を上げた。
「そ、そうだ! 木樽です! 木樽が何本も積まれていました!」
その証言を聞いた瞬間、フレアは震える声で呟いた。
「木樽……? でも今日は仕入れの日じゃないのに……。ルミナ、一体どこから木樽なんて……? それに最近は宿泊客も少ないから、馬車で運ぶ必要なんてないはずなのに……」
言い終える前に、彼女の顔はさらに青ざめ、その場で再び顔を覆って泣き崩れた。
誰もが互いの顔を見合わせる。
しかし、それ以上の手掛かりを持つ者は誰一人いなかった。
壇上ではエイスが腕を組み、静かに考え込んでいる。
これからどう動くべきか――その決断を下そうとしているのだろう。
しかし教会のあちこちでは、不安を押し殺した囁き声が、再び静かに広がり始めていた。




