第六章「旅立ちと決意43」
「コンコンコン――」
「楓玲さん! カイアさん! シャオチー!」
朝早く、部屋の外からヨカゲの慌ただしいノックの音が響いた。
眠そうにふわりと宙へ浮かび上がったシャオチーは、まだ半分寝ぼけたまま扉を開ける。
ちょうどその時、私もファミリールームから出てきたところだった。眠い目をこすりながら廊下へ出ると、そこには顔面蒼白のヨカゲが立っていた。
「シャオチー、楓玲さん。ルミナを見なかった?」
「ル……ルミナ……?」
「ルミナ……?」
寝ぼけたシャオチーが、ぼんやりと名前を繰り返す。
私は目をこすりながらヨカゲを見る。その時になって初めて、彼の表情が恐怖に染まっていることに気付いた。
私は慌てて尋ねる。
「ルミナに何かあったの?」
しかしヨカゲは答えず、そのまま私たちの部屋へ飛び込んだ。
扉という扉を次々と開けながら、必死に叫ぶ。
「ルミナ! ルミナ!」
私は状況がまったく飲み込めず、ただ怯えた獣のように部屋中を探し回るヨカゲを見つめることしかできなかった。
どうやら彼は、ルミナが私たちと一緒にいると思っていたらしい。
ヨカゲが部屋を飛び出したところで、私は彼の前へ回り込み、声を掛ける。
「ルミナがどうしたの? 朝はフレアさんと一緒に朝食の準備をしているはずじゃ……」
「いつもならそうなんだ。でも今日は、ルミナが手伝いに来なかった!」
そう言うと、ヨカゲは今度はカイアさんの部屋の扉を勢いよく開け、中を確認すると再び廊下を駆け出そうとした。
私は咄嗟に彼の襟元を掴む。
ヨカゲは一度振りほどこうとしたが、逃れられないと分かると、大きく息を吸い込み、無理やり自分を落ち着かせた。
「今朝、俺が訓練場で鍛錬していたら、お母さんが急いで来て、『ルミナを見なかった?』って聞いてきたんだ。」
震える声で、そのまま続ける。
「話を聞いて初めて知った。ルミナは今朝、手伝いに来てなかったんだ。寝坊したんじゃないかと思って部屋へ行ったら……もう誰もいなかった。」
そこで言葉が途切れる。
肩が小刻みに震えていた。
「だから、お母さんと手分けして探してる。でも……今もまだ……」
それ以上は言葉にならなかった。
私は静かに手を離す。
するとヨカゲは顔を上げ、堪えていた涙をぽろぽろと零し始めた。
「……まだ、見つからない。」
胸が締めつけられるような声だった。
私は静かに尋ねる。
「でも、どうして私たちのところへ?」
「楓玲さんなら……ルミナがどこへ行ったのか分かるかもしれないと思って。」
ヨカゲは涙を拭い、震える息を整えながら私を見つめる。
「ルミナが言ってたんだ。」
そして、小さく呟いた。
「『楓玲さんなら、きっと何とかしてくれる』って。」
「えっ……?」
私は呆然と立ち尽くす。
彼が何を言っているのか、まったく分からなかった。
その時――。
廊下の向こうから、慌ただしい足音が響いてきた。
私とヨカゲ、シャオチー、そして体調がようやく回復してきたカイアさんが、一斉に振り返る。
「楓玲ちゃん! お願い……助けて!」
「えっ?」
駆け込んできたフレアさんは、今にも倒れそうな勢いで私の肩を掴んだ。
その顔は真っ青で、息も激しく乱れている。
「うちの娘……ルミナが……」
震える声で、必死に言葉を紡ぐ。
「もしかしたら……『スヴァルタ・ヘイム』の方へ向かったのかもしれないの……!」
「…………」
「「「「えっ――!?」」」」
その瞬間――
廊下から、音という音が消えた。
私も、ヨカゲも、シャオチーも、カイアさんも。
誰一人として言葉を発することができず、その場に立ち尽くすことしかできなかった。




