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勇者パーティーって、本当に大丈夫  作者: 風に舞う楓


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第五章 「霧と槌の影39」

 エリナさんはくるりと振り返り、壁際に置かれた木製のショーケースへ視線を向けた。


 その中には、美しく装飾された一本の短杖が飾られている。


 見た目と展示のされ方からして、この店で一番高価な商品なのだろう。


 ようやく起き上がったものの、まだ全身から煙を上げているカイアさんは、その短杖を見て目を丸くした。


「ああ、それは――《ルーンの短杖》だよ」


 エリナさんは先ほど防具を紹介していた時以上に誇らしげな笑みを浮かべる。


「この短杖はね、最初から最後まで、この村だけの素材で作った自信作なんだ。


 杖本体には貴重なサブリルオークを使っていて、丈夫な上に魔力伝導率も抜群。


 グリップや外装には《エイダディ》最高級のゴムと天糸を採用してるから、見た目も握り心地も最高なんだよ。


 しかもこれは、初めて『使う人の立場』から考えて設計した商品。


 子供や若い人でも扱いやすいように作ってあるんだ!」


 カイアさんは説明を聞きながらショーケースへ近付き、目を輝かせながらゆっくりと手を伸ばす。


 エリナさんもそのまま説明を続けた。


「そして一番重要な魔法核は杖先。


 三つの増幅石を埋め込んで魔力を強化し、杖全体には古代ルーン文字を刻んで魔力の流れを安定させてる。


 でも、それだけじゃない。


 本当にすごいのはグリップ部分なんだ。


 これは私が独自開発した特殊軽量金属を使っていて、三歳の子供でも軽々振り回せるようになってるの!」


「おぉぉぉぉっ! 本当だ! 軽い!」


 カイアさんは新しいおもちゃを見つけた子供のように目を輝かせ、勝手に短杖を振り始める。


 その表情を見る限り、今度の魔道具は本当に気に入ったらしい。


 ――しかし。


 エリナさんは何かを思い出したように、いつもの落ち着いた口調で付け加えた。


「あ、そうそう。言い忘れてた。


 この短杖は、子供や若い人が『正しく』魔法を学ぶために作った物だからね。


 だから――」


 にっこりと微笑みながら続ける。


「悪いことに使われないように、ルーン文字へ『心の検知』の付与魔法を組み込んであるの。


 使う人に少しでも邪念があったら、その効果を――そっくりそのまま本人へ返す仕組みになってるんだよ」


「『えぇぇぇぇぇぇっ!?』」


 次の瞬間。


 カイアさんはその場へ崩れ落ち、口からぶくぶくと泡を吹き始めた。


「カイアさん!? カイアさん! しっかりしてください!」


 私と小七は慌てて駆け寄る。


 よく見ると、泡だけじゃない。


 白目まで剥いている。


 こ、これは本当にまずい!


 は、早くお医者さんを呼ばないと!


 私が慌てて起こそうとしたその時――


 エリナさんは何事もなかったように地面へ落ちた短杖を拾い上げ、のんびり説明を続けた。


「あ、もう一つ言い忘れてた。


 この短杖ね、邪念が強い人ほど返ってくる罰も重くなるんだ。


 しかも――」


 痙攣し続けるカイアさんを見下ろしながら、今日一番と言っていいほど眩しい笑顔を浮かべる。


「全身くまなく――激!烈!筋!肉!痛!になるよ♪」


「うわあああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 泡を吹きながら絶叫するカイアさん。


 私は思わずごくりと唾を飲み込み、小さな声で尋ねた。


「あ、あの……持って軽く振っただけで、こんなことになるのって……普通なんですか?」


「いい質問だねぇ、お嬢ちゃん」


 エリナさんは短杖の先で倒れているカイアさんをつんつん突きながら、優しく答える。


「本来なら、ルーン魔法は魔力を流し込んで初めて反応する仕組みなんだ。


 でもこのお客さんはねぇ……


 魔力を流す前に短杖の方から反撃しちゃったの。


 つまり――」


 肩をすくめながら笑った。


「邪念が強すぎて、短杖の方から『使用拒否』されたってことだね」


「『…………』」


 私と小七は顔を見合わせ、揃って黙り込む。


 そして床に転がるカイアさんを見下ろしながら、小さくため息をついた。


 全部自業自得とはいえ、一緒に旅をしている仲間だ。


 やっぱり少しくらいは可哀想になる。


 ……そのせいか。


 私はこのお店と、エリナさんに対する印象を少しだけ改め始めていた。


(……このお店、本当にカイアさんの言う通り、『まともじゃない魔道具屋』なのかもしれない……)


「はぁ……商売って難しいなぁ。


 半年ぶりのお客さんだったのに、よりにもよってこんなマナーの悪い人だなんて」


(半年ぶりのお客さんなんだ……)


 私と小七はもう一度顔を見合わせた。


 その時だった。


 エリナさんが短杖を持ち上げ、私へ向かってにっこり笑う。


「ねぇ、お嬢ちゃん。名前は?」


「あっ、ご、ごめんなさい! まだ自己紹介してませんでした。


 私は三好楓鈴です。


 昨日この村へ来た旅人です」


「楓鈴?


 あっ! 昨日広場を救ったっていう小さな英雄の子!?


 あの騒ぎを一人で解決したって聞いたよ! すごいじゃない!」


「い、いえ! 一人じゃありません!


 みんなが力を貸してくれたからです」


「いやいや、そんな細かいことはいいの!」


 ひらひらと手を振りながら、一歩近付いてくる。


 目はきらきらと輝いていた。


「ねぇ、リンちゃん。


 うちの商品、本当はすごくいい物だと思うでしょ?」


「えっと……


 見た目も材料も、本当にすごくこだわって作られてると思います」


 少し考えてから、なるべく遠回しに答えた。


 《ストームガントレット》も《ルーンの短杖》も、一見すれば本当に素晴らしい魔道具だ。


 技術も素材も一級品。


 だけど――


 設計思想だけが、とんでもなく問題なのである。


「じゃあ……何が悪いんだろう?


 どうして誰も買ってくれないのかなぁ……」


 悩み込むエリナさんを見ながら、私は店内をぐるりと見渡した。


 その時、頭の中へ一つの記憶が浮かぶ。


 昔、お父さん――雪澈さんが大好きだったヒーローフィギュア。


 名前はもう忘れてしまったけれど、持っていた武器だけは今でも覚えている。


 その銃には別名があった。


 ――《永遠の槍》。


 私は覚えている限り、その武器の見た目や機能を説明し、さらに素人の私でも気付いた改善点をいくつか話してみた。


 エリナさんは話を聞くほど目を見開き、まるで何かに火が付いたような表情になる。


 その隙に私は別れの挨拶をした。


 だって今やるべきことは――


 床でぴくりとも動かないカイアさんを背負って、お医者さんのところへ連れて行くことだから。


 店を出ようとした、その時だった。


 倒れたままのカイアさんが、小さく呟く。


 弱々しいその声は、それでも私と小七の耳にははっきり届いた。


 それは今、この場にいる三人全員の心の声でもあった。


「……この店だけは、二度と来ない……」


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