第一章 「すべての始まり03」
「じゃあ……あなたって、いったい何者なの?」
「小七は小七ですよ?」
「そうじゃなくて……ほら、神獣じゃないって言ってたでしょ? じゃあ本当は何なの? 神様? ……いや違う、妖怪? それとも――ああもう、どう聞けばいいのかわかんない!」
言いながら自分でも何を聞きたいのかわからなくなってきて、最後には頭を抱え込んでしまった。
次の瞬間――
ばさばさっと激しい羽音がして、当の本人……いや当の本鳥が怒ったように私へ飛んできた。
ごつんっ!
「いたっ!?」
小七はそのまま私のおでこに体当たりしてきて、私は思わず後ろへよろめいた。
「な、何するの!?」
「小七は妖怪なんかじゃありません! 主人様、失礼です!」
「じゃあ何なのよ?」
「無理に分類するなら、『魔物』が一番近いですね!」
「それって妖怪みたいなものでしょ!?」
「主人様、本当に失礼ですね」
小七はぷんぷんしながら翼をばたつかせる。
「妖怪というのは、人間の世界に紛れ込み、隙を見て人間に害をなす存在のことでしょう? 魔物をあんなものと一緒にしないでください」
えらそうに言うその態度が、少しだけ晞夏を思い出させた。
でも、今はそんなことを考えている場合じゃない。
「じゃあ小七……魔物って何? ゲームに出てくるみたいなやつ?」
「主人様の言うゲームが何かはわかりませんが……いい質問です!」
小七はぱたぱたと羽を動かして、私の肩に乗った。
そして胸を張って言う。
「特に理由がなくても、あらゆる生き物を見つけたら全力で襲いかかる! それが魔物です!」
「えっ」
私は慌てて小七を肩から払い落とした。
「ぴゃっ!?」
小七は無防備のまま地面へ落ちて、
ぺたん、と情けない音を立てた。
私は振り返る暇もなく、反射的に身構える。
すると後ろから、怒った声が飛んできた。
「主人様! 痛いです! 何するんですか! せっかくのかっこいい顔が腫れちゃったじゃないですか!」
振り返ると、小七は膨らんだ頭を押さえながら、ぶつぶつ文句を言っていた。
「……私を襲わないの?」
「どうして小七が自分の主人様を襲うんですか!」
「だって……魔物は理由がなくても襲うって……」
言いながら、私は申し訳なくなって目を逸らした。
小七は身体についた土を払うと、もう一度私の肩へ飛んでくる。
「主人様、安心してください。小七は魔物ですが、同時に主人様の従者です」
そして少し誇らしげに続けた。
「つまり、小七は主人様の一番忠実な仲間なんですよ」
「でも……私、何もできないのに。そんな私の従者なんて……」
「大丈夫です!」
小七は力強く翼を広げた。
「勇者だって人間です。わからないことも、できないこともあります」
小さな翼をびしっと振る。
「そんな時こそ――」
にっこりと笑って。
「小七のかっこいい出番です!」
「……小七」
その明るい声を聞いた瞬間、思わず名前を呼んでいた。
気づけば、目尻から涙がこぼれていた。
テレビで聞いた言葉を、ふと思い出す。
――人は、一人だけでは生きていけない。
だからこそ、家族や友達がいる。
「……ありがとう、小七」
私は目元をこすって、また歩き出した。
そして、ひとつだけ確かめたかったことを口にする。
「小七。姫路城病院って、どこにあるか知ってる?」
「姫路城病院ですか?」
「知ってるの?」
「ええ、知ってはいますけど……」
思いがけない返事に、胸の奥に小さな希望が灯った。
だって、この場所はあまりにも知らないものだらけだったから。
見たことのない植物。
奇妙な生き物。
そして小七の言う、
『システム』
『勇者』
『魔物』
まさか――そんなこと。
考えたくもなかった。
けれど次の言葉が、そのわずかな希望をあっさり壊した。
「主人様。そこはここから、とてもとても遠いですよ」
小七は少しだけ間を置いて続ける。
「だってそこは、主人様のいた世界の施設ですよね?」
「……」
もう、ツッコむ気力もなかった。
はっきりした証拠なんて、まだ何もない。
それでも身体だけはわかってしまっていた。
震え。
冷や汗。
胸の奥から湧いてくる、言いようのない不安。
理屈じゃない。
心が、先に理解してしまっているみたいだった。
私は黙ったまま山道を歩き続けた。
小七も空気を察したのか、それ以上何も言わなかった。
ただ黙って、私の後ろを飛んでついてくる。
しばらくして。
少し太い倒木が道をふさいでいるのを見つけて、
私はそれを越えるのを手伝ってもらいながら、何気ないふりをして小七に聞いた。
「ねえ、小七」
「はい? 主人様?」
私は少しだけ唇を震わせてから、小さく呟いた。
「……私って、もう――」
そして。
「もう、死んじゃったのかな?」




