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第五章 「霧と槌の影34」

「みなさん、おはようございます! 昨夜はよく眠れましたか?」


「うん! ここのベッド、本当に気持ちよかったよ」


「ありがとうございます♪」


 一度目を覚ますと、窓の外では夕焼けがゆっくりと地平線へ沈み、空一面を赤く染めていた。


 私たちが泊まっているのはコネクティングタイプのファミリールームだが、今この部屋にいるのは私ひとりだけ。


 部屋の外からは、カイアさんと小七の豪快ないびきが聞こえてきていた。


 私はそっとベッドから起き上がり、静かに扉を開ける。


 廊下へ出たところで、ちょうど洗濯かごのようなものを抱えたルミナと鉢合わせになった。


 挨拶しようとしたその時――背後の扉が開いた。


 カイアさんが出てきて、大きく伸びをしながら欠伸をする。


 どうやらその物音で目を覚ましたらしい。


 小七がふらふらと宙へ浮かび上がり、まだ眠そうなままこちらへ飛んできた。


「ルミナも今起きたところ?」


「はい……今日は村のみなさんも同じみたいです。お父さんもお母さんも、ついさっき起きたばかりなんですよ」


 ルミナは少し照れくさそうに笑った。


 そういえば――。


 夜明け前だっただろうか。


 ルミナが何か私に聞こうとしていた気がする。


 でも……何だったっけ?


 急に思い出せなくなってしまった。


「ルミナ、昨日の夜……」


「はい? どうかしましたか?」


「えっと……」


 言葉が続かない。


 ルミナは不思議そうに首を傾げたが、それ以上は追及せず、話題を変えた。


「楓鈴さん、カイアさん、小七さん。お母さん……じゃなくて女将さんが昼食を用意していますので、身支度が終わったら食堂へ来てくださいね。


 あ、それと洗面所は廊下をまっすぐ行って右ですよ。


 私は旅館のお仕事がありますので、これで失礼します」


 そう言うと、ルミナはぺこりと頭を下げ、洗濯かごを抱えたまま軽やかに去っていった。


 私は廊下の真ん中で、その背中をぼんやり見送る。


 すると隣でカイアさんが呆れたようにため息をついた。


「楓鈴ちゃん。ルミナが可愛いのは分かるけどさぁ、そんなにじーっと見送るのはさすがに分かりやすすぎない?」


「カイアさん、何言ってるんですか!」


「いやいや。好きな人の後ろ姿を眺めるのって、確かに幸せな時間だからさ。俺も理解できなくはないよ?」


「だから違いますってば!」


「だったら早くどいてくれない? 廊下のど真ん中で立ち止まってるから通れないんだけど」


「あっ! ご、ごめんなさい、カイアさん!」


「しゅ、しゅじん……小七……まだ……たべる……とるな……ぼくの……」


「このハゲ神獣! 寝るなら部屋に戻って寝ろよ!


 って、うわあああああっ! よだれを俺につけるなあああああああ!!」


 ――こうして。


 新しい一日は、相変わらず騒がしく始まった。


 身支度を済ませた私たちは食堂へ向かい、フレア特製の美味しい昼食を堪能した。


 ところで――。


 昨夜、ルミナが私に聞こうとしていたこと。


 それについては。


 すっかり、きれいさっぱり忘れてしまっていた。


 ――まあ、きっとそんなに大事な話じゃなかったんだろう!

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