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第四章 「サブリル村冒険の旅・後編30」

「それじゃあ――みんな一緒に!


 我らがサブリル村の小さな英雄に――乾杯っ!!」


『かんぱーい!!』


 クリス隊長の豪快な声が《晨光旅店》中に響き渡る。


 それに応えるように、村人たちも一斉に杯を掲げ、楽しそうに打ち鳴らした。


「クリス隊長! そんなに持ち上げられると、本当に恥ずかしいですって!」


 私は顔を真っ赤にしながら、即席で作られた木のステージの上に立たされていた。


 村中の人たちから浴びせられる歓声と感謝の言葉。


 正直、居心地が悪い。


「何を恥ずかしがる必要があるんだ、お嬢ちゃん!


 お前はなぁ――たった一人でサブリル村を守り抜いたんだぞ!」


「ち、違いますよ!


 私一人じゃありません!


 クリス隊長だって自警団のみんなを連れて村の外で魔物と戦ってたじゃないですか!」


「いやいや、それとは話が違うんだよ!」


 クリス隊長は豪快に笑いながら杯を掲げた。


「お前は一人で一番危険な場所を引き受けたんだからな!」


「何が違うんですかぁ――!」


 私は本気で抗議した。


 だって、クリス隊長だって命懸けで村を守っていたのだ。


 それなのに、みんな私ばかり感謝するなんて。


 なんだか申し訳なくなってしまう。


「なぁ、お嬢ちゃん」


 クリス隊長が少し真面目な顔になる。


「自警団が村を守るのは仕事だ。俺たちの役目だからな。


 だが――お前は違う」


「え……?」


「お前はただ、この村を通りかかった旅人だろ?」


「……」


「それなのに逃げなかった。


 自分の命を危険に晒してまで、俺たちを助けてくれた。


 そんな奴を村中で感謝しなくてどうする?」


 そう言うと、クリス隊長は私の頭を優しく撫でた。


 そしていつもの豪快な笑顔を浮かべる。


「やっぱり俺の目に狂いはなかったな。


 お前、本当に『勇者』に向いてるよ」


「えぇっ!?」


 私は思わず固まった。


 だがクリス隊長は何事もなかったかのように笑い、そのまま村人たちの輪へ戻っていく。


 残されたのは――木箱の上で呆然と立ち尽くす私だけだった。


(ええええええええっ!?)


(い、今の言葉ってどういう意味なの!?)


(ま、まさか気付かれてる!?)


(お、終わったぁぁぁ! 私、本当に魔物退治の生け贄にされちゃうの!?)


(で、でも……『勇者に向いてる』って言われたのは……)


(ちょっとだけ嬉しかったかも……)


(ああああああっ! 私、何考えてるのぉぉぉっ!!)


 混乱する頭を抱えながら顔を上げる。


 すると、元凶であるクリス隊長は――


 村人たちと肩を組みながら豪快に酒を飲み、大声で笑っていた。


 ……なんだか急に腹が立ってきた。


 私はもやもやした気持ちを抱えたまま木箱から降りると、カイアたちのテーブルへ戻り、自分の席へ腰を下ろした。


 そのまま椅子の上で小さくなりながら、柑橘系のジュースをちびちび飲む。


 すると――


 すっかり酒が回ったカイアが、突然私の肩を引き寄せてきた。


「いやぁ~、すっかり有名人だなぁ?


 楓玲ちゃん?」


「カイアさん、そういう言い方やめてください」


「おやおや、照れてるのか?」


 わざとらしく言葉を切りながら顔を近付けてくる。


 そして私の耳元で囁いた。


「それとも――


 勇者だってバレて、《スヴァルタ・ヘイム》に駆り出されるのが怖いのか?」


「えっ!?」


 私は反射的にカイアを突き飛ばした。


 ドンッ!


 カイアは見事に床へ転がる。


 それでも本人は妙に無垢な顔をしていた。


「な、何言ってるんですか! カイアさん!」


 どうやら私の声が大きかったらしい。


 周囲の視線が一斉にこちらへ向く。


 一瞬で身体が固まった。


 どう誤魔化せばいいのか分からない。


 そんな時だった。


「ちょっとちょっと!


 大人たちが寄ってたかって子供を見て何やってるの!」


 湯気の立つ料理を抱えた小柄な女性が人混みを掻き分けて現れた。


 私たちを迎えてくれた女将さん。


 ルミナのお母さん――フレアさんだ。


 もちろん、この宴会料理を作った料理長でもある。


「ほらほら!


 さっさと食べ始めなさい!


 今回はあんたたちがお金払うんだからね!」


『えぇぇぇぇぇぇっ!?』


 酔っ払いの大人たちが一斉に悲鳴を上げた。


 だが次の瞬間には何事もなかったかのように杯を掲げ、再び宴会へ戻っていく。


 笑い声。


 談笑。


 酒の匂い。


 楽しそうなサブリル村の人々。


 その光景を見ていると、自然と笑みがこぼれた。


 私の周りにいる大人たちも、どこか安心したような顔をしている。


「それで……誰か俺を起こしてくれないか?」


 床から聞こえてきた情けない声に、私はハッとした。


「ああっ! 本当にごめんなさい、カイアさん!」


 慌てて椅子から飛び降りる。


 そして何度も謝りながらカイアを引っ張り起こした。


 カイアは気にした様子もなく手をひらひら振ると、再び酒杯を手に村人たちの輪へ向かっていった。


 フレアさんはテーブルの空いた皿を片付けながら、私の肩をぽんと叩く。


「リンちゃん。


 今日の料理はおばちゃんが一生懸命考えて作ったんだからね。


 遠慮しないでたくさん食べなさい」


「はい! ありがとうございます!」


 私がそう答えると、フレアさんは皿を抱えたまま《晨光旅店》の厨房へと戻っていった。

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