第三章 「サブリル村冒険の旅・前編22」
ともかく——今の私は、ルミナの中で完全に「変な女の子」として分類されてしまったらしい。
「ルミナ、お願いだから話を聞いて! 本当に、君が思ってるような意味じゃないんだって!」
「楓玲さんの言い訳なんて聞きません! だって、あんなこと……旅館に戻ってからするものですし!」
「え? 今なんて言ったの?」
ルミナは振り返り、警戒と呆れが入り混じったような目で私を見てきた。
短い沈黙のあと、私は追及するのを諦める。
……今回の実験で、私は改めて重たい結論へ辿り着いてしまった。
やっぱり——この世界のシステム、めちゃくちゃすぎる。
こんな世界、本当に私が救う価値あるの?
それとも……いっそ魔王に滅ぼしてもらった方がいいんじゃない?
そんなことを考えているうちに、私たちはようやく工場の内部へ足を踏み入れた。
「こ、ここ……何この場所!?」
目の前に広がっていた光景は、外側の緑に覆われた奇妙な外観とはまるで別世界だった。
純白で広々とした空間。
その中央には四つの球体が宙に浮かんでいる。
壁沿いには浮遊する階段がぐるりと巡らされ、工場の作業員たちが、それぞれの持ち場で黙々と作業を続けていた。
私たちの正面には巨大な水槽がある。
だが今は空っぽだ。
おそらく、あの四つの球体の中に、水槽に入っていた液体が保存されているのだろう。
一日の作業が終われば、また水槽へ戻されるのかもしれない。
階段で区切られた空間は、小さな作業部屋のようになっていた。
ある人は、指先を軽く動かすだけで、中央の巨大な球体から液体を見えない型へ流し込んでいる。
ある人は完成した製品を型から取り出し、隣の容器へ放り込んでいた。
さらに別の人は、残る三つの小球体の間を忙しなく動き回り、液体を注いだり分配したりしている。
その姿は、一瞬たりとも止まらない。
そして私は、この時になってようやく気づいた。
このアイダディ工場は、服だけを作っているわけじゃない。
靴も、手袋も、帽子までも。
ありとあらゆる製品が、ここで生み出されていたのだ。
それを見て、私はルミナが言っていた“世界中で売れているブランド”という言葉を、初めて本当の意味で理解した。
「すごく……綺麗……。」
幻想的な光景を前に、私はただ感嘆の声を漏らすことしかできなかった。
そんな私を見て、ルミナはとても嬉しそうに胸を張る。
「どうですか? これが、私たちサブリル村の誇りなんですよ。」
「うん! 本当にすごいよ、ルミナ! 私、こんな綺麗な景色、今まで見たことない! すっごく感動してる!」
「ふふっ。こんなに興奮してくれる人、初めてかもしれません……でも、褒めてくれてありがとうございます。」
彼女は、太陽みたいに明るく笑った。
その笑顔から伝わってくる。
彼女がこの工場を、この村を、本当に誇りに思っていることが。
……まあ、もし私の家の近くに、こんな綺麗で凄い工場があったら。
たぶん私だって毎日見に来て、友達に自慢しまくってると思う。
私たちは並んで工場を見上げながら、しばらくその景色を眺めていた。
やがてルミナの表情が少し柔らかくなり、彼女は静かに昔話を始める。
「昔……まだ小さかった頃、ママはいつも忙しくて。私も旅館では全然役に立てなくて……だからよく、一人で森へ行って泣いてたんです。自分って何にもできないなって思って。」
彼女は小さく笑った。
まるで、その時の情景を思い出しているみたいに。
「そしたらある日、突然オオカミが飛び出してきて……もう噛まれるって思った時、一人のおじさんが助けてくれたんです。」
「ルミナ、それって……。」
「うん。その人が、ここへ連れてきてくれたんです。——アイダディ工場へ。」
彼女は工場の中を見回しながら、穏やかな声で続けた。
「その時の私は、全部が不思議で仕方なかったんです。
どうして階段が浮いてるの?
どうして球体から液体が出てくるの?
どうしてみんなここに集まってるの?って。」
「でも、そのおじさんは笑いながら、一つずつ丁寧に教えてくれました。」
ルミナはゆっくりと私の方を向く。
そして、今日一番綺麗な笑顔を浮かべた。
「その時、決めたんです。
これから先、誰かがサブリル村へ来てくれたら、絶対にこの工場を案内しようって。」
「だって、みんなが村を褒めてくれたら……私、すっごく嬉しくなるから!」
「うん、その気持ち分かるよ。私もね、弟を褒められると、自分が褒められるよりずっと嬉しいんだ。」
「ありがとうございます、楓玲さん。私の話、こんなにたくさん聞いてくれて。」
「気にしないで、ルミナ。私、そういう話好きだよ。
もし本当に悪いって思うなら——このまま、もっと工場を案内して?」
「はい! お任せください!」
嬉しそうに笑うルミナを見ていると、私まで自然と笑顔になってしまうのだった。




