表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/35

第三章 「サブリル村冒険の旅・前編20」

「楓玲さん、なんだかすごく疲れた顔してませんか?」


 訓練場を離れてしばらくした頃、背後から親しげな笑顔を浮かべたルミナイがひょっこり現れた。私たちは並んで村の小道を歩き始める。


「ううん、ちょっと色々あって……」


 私はなるべく軽く答えた。するとルミナイは不思議そうに首を傾げる。これ以上追及される前に、私は慌てて話題を変えた。


「この村って、他にどこか見て回れる場所とかあるの?」


「うーん……」


「なんでもいいから!」


「なんでもって言われても、この村ほんとに普通の村だから、特別な場所なんてないよ?」


 私は曖昧に笑ってごまかした。


 ――いやいや、どこが普通の村なの!?


 さっき訓練場で見た光景を思い出す。木剣で戦って、黒い霧みたいなの出して、最後には木剣真っ二つって……。


 どう考えても普通じゃない。


「楓玲さんって、本当に変わった人ですね」


「えっ?」


 思わず間の抜けた声が漏れる。するとルミナイはくすっと笑った。


「こんな田舎の村にそこまで興味津々な人、初めて見ました。まるで、この世界に来たばかりみたい」


 …………。


 まずい。


 今すぐ何か言い訳を考えないと、この世界の常識を何も知らないことがバレる。


 正直、こうやって誤魔化し続けるのもかなり大変だ。いっそ「異世界から来た勇者なんです!」って全部打ち明けてしまいたいくらいである。


 少し迷った末、私は嘘と本当の中間くらいの答えを選ぶことにした。


「実は……私、別の国から来たの。向こうはここと全然文化が違ってて、ずっとそこで暮らしてたから……。だから、カイアさんと一緒にここへ来てから、見るもの全部が新鮮で……。家を出たのも、これが初めてだったし」


 そこまで口にした瞬間、不意に家族のことが頭をよぎった。


 雪澈パパ、蝶祈ママ、それに晞夏――。


 胸の奥が熱くなり、気づけば涙がぽろりと零れ落ちていた。


「あっ……」


 ルミナイは慌てる様子もなく、ポケットからハンカチを取り出し、そっと私の涙を拭ってくれる。


「うん、楓玲さん頑張ってるんですね。そう言われてみれば、確かにこの国の人っぽくないかも」


「え? どうしてそう思ったの?」


「服ですよ! 楓玲さんの着てる服、この国じゃほとんど見かけませんもん」


「あー……そうなんだ? 私たちの国だと、これって有名ブランドなんだけど」


「へぇー! じゃあ、サビル村のアダディみたいな感じですね!」


「ア、アダディ?」


 ――……その名前、なんか私の世界の某ブランドに似てない?


 あまりにも聞き覚えのある響きに、私は思わずどもってしまった。


 けれどルミナイは不思議そうに目をぱちくりさせるだけだった。


「えっ? アダディ知らないんですか? もう世界中で大人気だと思ってました!」


「え、えっと……私、あんまり詳しくなくて。服とか、いつもお父さんとお母さんが選んでくれてたから」


「なるほどー。まあ、楓玲さんお嬢様っぽいですもんね」


「その……ルミナイ、実は私――」


「せっかくだし、今から見に行きましょう!」


「えっ!? ちょ、ちょっと待って!? 何を!?」


「アダディ工場です!」


 パンッと両手を合わせた次の瞬間、ルミナイは私の腕をぐいっと掴んだ。


 不意を突かれた私は抵抗する暇もなく、そのまま引っ張られていく。


「ルミナイ、その工場って遠いの!? 危なくない!?」


「うーん、ちょっと歩きますけど……楓玲さん、“なんでもいい”って言ってたじゃないですか! あ、危険かどうかで言うと、昔工場で事故が起きた時は、しばらく周辺の生き物が近寄れなくなりましたね」


「……今なんて言ったの!?」


 いやいやいや!?


 それ危険とかいうレベルじゃなくない!?


 この村の近くに何があるの!?


 私が本気で恐怖を覚え始めたその時、ルミナイは平然と続けた。


「そうですね。でも……村の人たち、みんなアダディのこと大好きなんですよ?」


「そ、そんな危険な施設なのに!?」


「サビル村の人間はみーんな、アダディと運命共同体みたいなものですから!」


「ア……アダディ……」


 頭の中が完全に混乱する。


 小学校のテストで、“ちゃんと勉強したはずなのに見たことない問題が出た時”みたいな感覚だ。


 正解に辿り着けそうで辿り着けない。


 むしろ、ルミナイの説明を聞けば聞くほど、自分の予想に自信がなくなっていく。


 私は掴まれた腕をそっと引こうとした。


 でも、ルミナイの楽しそうな笑顔を見てしまうと、どうにも振り払えなかった。


 ――そして私は、そのまま引っ張られ、連れ回されるようにして、森の奥へと足を踏み入れていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ