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第二章 「勇者の力と、天才魔法使い13」

 学校では先生にいつも「知らない人には気をつけなさい」って言われていたし、晞夏もよく大人ぶって私の耳元でこう言っていた。

 「お姉ちゃん、知らないおじさんやおばさんについて行っちゃだめだよ」


 「(……思い出したら、なんだか腹が立ってきた。あの生意気な弟め!)」


 でも――私たち、ついさっき命がけの体験を一緒にしたばかりなんだよ?

 確かにちょっと変な話ではあるけど……カイアさんとは、もう「知らない人」って感じじゃない気がする。たぶん、きっと。


 三人で村へ向かう道を歩きながら、私はそんなことをずっと考えていた。


 そんな時、ふと別の疑問が浮かび、私はカイアさんへ尋ねる。


 「カイアさん、その……変なこと聞くかもしれないんですけど、本当に魔法って使えるんですか?」


 「はぁ? 楓玲ちゃん、何言ってるんだ? 俺、自分で天才……じゃない、違う違う! ちゃんと天才魔法使いだって名乗っただろ。なんでまだ疑うんだよ……」


 カイアさんは呆れたように私を見下ろしたが、すぐに何か思い出したように頭をかきながらぶつぶつ呟き始めた。


 「あー……そうか。勇者って、魔法のない世界から召喚されるんだったな。なるほど、そういうことか。別に俺を疑ってるわけじゃなくて、魔法そのものの常識を知らないだけなのか……そ、そうだよな。そうに決まってる。じゃなきゃ……俺がバカだと思われてるみたいじゃないか」


 「えっと……ごめんなさい、カイアさん。正直に言うと、魔法というより……カイアさんの実力を信じ切れてないというか……」


 「おい!」


 カイアさんは今日一番怖い目つきで私を睨んできた。隣では小七が吹き出し、しかもかなり失礼なくらい笑っている。私は慌てて小七を掴み、その笑い声を押さえ込もうとした。


 「ち、違うんです! ただ……だって、自称天才魔法使いなのに、三匹のブラウンウルフに追い回されてたじゃないですか。それってさすがに……」


 言い終わる前に、カイアさんの目つきがさらに鋭くなった。私は気まずそうに笑い返すしかない。


 彼は深いため息をついたあと、じっと私を見ながら言った。


 「まず俺の実力は置いとくとしてだな――遠距離職が近接に詰め寄られたら、基本的に不利だろ? しかも魔法っていうのは種類も多いし、効果も全部違う。そう簡単に使えるもんじゃないんだよ」


 「じゃあ、本当に魔法って存在するんですね?」


 「もちろんです、ご主人様。魔法は、ご主人様の世界でいう“機械”みたいなものですよ。仕組みや役割は違いますけど、原理的には少し似ています」


 カイアさんが続きを話そうとした瞬間、小七が私の手からぴょこんと抜け出し、得意げに割って入った。


 私は「どうして小七が元の世界のことまで知ってるんだろう」と考えていたが、小七は胸を張って続ける。


 「ご主人様! これから分からないことがあったら、何でも小七に聞いてください。小七はご主人様のパートナーであり、この世界の神獣でもあります。勇者とこの世界――エドロを繋ぐ架け橋になるのが役目ですから! エドロの知識だけじゃなく、ご主人様の世界の一般常識も、システムから教わってるんですよ!」


 「へぇー……」


 「で? 楓玲ちゃんは、魔法ってどんなイメージなんだ?」


 さっき小七に話を遮られたカイアさんは、わざとらしく咳払いをしてから聞いてきた。


 「うーん……ゲームみたいに呪文を唱えたら、火の玉が『シュンシュン!』って飛んでいって、雷が『バリバリ!』って暴れて、最後に『ドカーン!』って敵を倒す感じ……かな? すごく派手なイメージです」


 「まあ、大体は合ってる。でも魔法って、別に呪文だけで発動するものじゃないんだ。魔法使いは普通、杖や魔導具みたいな『魂』を集めやすくする道具を使って魔法を補助する。それ以外にも、言葉や強い意志、あるいは『魂』そのものの構造を深く理解することで現象を引き起こす方法もあるんだ。要するに、『魂』の性質を書き換える行為は全部“魔法”ってことだな」


 そう言いながら、彼は前髪を軽くかき上げ、真っ直ぐ私を指差した。


 「楓玲ちゃん、魔法って戦闘専用の力だと思ってただろ?」


 私は素直に頷く。するとカイアさんはくすりと笑い、人差し指を左右に振った。


 「実際はな、魔法が一番使われてるのは日常生活なんだよ。火魔法で料理したり、水魔法で畑に水をやったり、土魔法で家を建てたり――そういう使い方のほうがずっと一般的なんだ」


 「えっ? そんなに身近なんですか?」


 「いや、そこまで誰でも使えるわけじゃない。人によって魔法の才能は違うし、空気中の『魂』を直接扱える人間はかなり少ない。だから大半の人は『魂』を道具に込めて使うんだ。ただ、その分時間もエネルギーも余計にかかるけどな」


 「そっか……誰でも使えるわけじゃないんだ……」


 もしかしたら私も魔法を使えるかも、と少し期待していた分、ちょっとだけ残念だった。


 そんな私を見て、カイアさんは急に得意げな笑みを浮かべる。


 「楓玲ちゃん、そんなに落ち込むなって。物をちょっと光らせたり、温めたりするくらいなら、普通の人でも道具を使えばできるから」


 そして胸を張り、自慢げに言い放った。


 「だがな! 戦闘で使えるような、本物の強力な魔法となると話は別だ。俺みたいな“天才魔法使い”クラスじゃないと、まともに扱えないんだよ!」


 さっきまで普通に説明していた人とは思えないくらい、急に偉そうになった。


 私はただ、

 「へぇ……」

 とだけ、小さく呟くしかなかった。

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