第二章 「勇者の力と、天才魔法使い12」
「待って!」
「え? カイアさん?」
「その……君たち、村へ向かうんだよな?」
「はい、そうですけど……どうかしましたか?」
「この近くの村なら、俺が来たこっちの道だ。君たちが進もうとしてた方向だと、早くても二日はかかるぞ」
「私とご主人様で力を合わせて進めば大丈夫です!」
小七の返答を聞いたカイアさんは、ぽかんとその場に立ち尽くした。まさかそんな返しが来るとは思っていなかったのだろう。
私と小七は顔を見合わせ、思わず吹き出してしまう。
「ご主人様、見ました? さっきのあの照れた顔」
「小七、カイアさんをからかわないの。実はすごくいい人なんだから」
「でもご主人様、この人、自分で『天才魔法使い』って言ってたんですよ? そんなすごい人が、私たちと一緒に冒険するわけないじゃないですか」
「小七、人を見た目で判断しちゃだめだよ。カイアさん、ちゃんと……『天才魔法使い』っぽい感じはするし」
「……いや、今どういう状況なんだ? 楓玲?」
カイアさんはまだ状況を理解できていない様子だった。私は慌てて前へ出て、軽く頭を下げながら、さっきの流れを説明する。
「カイアさん、本当にごめんなさい。からかうつもりじゃなかったんです。ただ、あの言いたそうで言えない感じが面白くて……つい」
「これはご主人様のせいじゃありません! 最初に言い出したのは私です!」
小七は羽をぱたぱたさせながらカイアさんの肩に降り立ち、申し訳なさそうに頭を下げた。
カイアさんは私たちを見つめ、眉を寄せたまま数秒沈黙したあと、諦めたようにため息をつく。声音は少し呆れていたけれど、本気で怒っているわけではなさそうだった。
「はぁ……お前たち、本大爺をネタにするとか、いい度胸してるな」
腰に手を当てながら言うその目元には、隠しきれない笑みが浮かんでいた。
「そんなへらへらしてて、『勇者』と『神獣』を名乗るつもりですか?」
「なんだよ、不満でもあるのか、このバカ魔法使い!」
「お前にだけは言われたくないぞ、ハゲ毛神獣!」
カイアさんと小七はまた言い合いを始めた。相変わらず火花を散らしているけれど、今度は本気で怒っているようには見えない。そんな二人を見て、私は思わず笑ってしまった。
「カイアさん……本当にいいんですか? 私たちと一緒で」
私は恐る恐る尋ねた。自称とはいえ“天才魔法使い”なら、きっと重要な用事があってここにいるはずだから。
カイアさんは小七との言い争いを止め、銀白色の髪の後ろをかきながら、少しためらうように言った。
「えっとな……実は最近ちょっと面倒ごとに巻き込まれてて、しばらく帰れないんだ。今の俺は……まあ、流浪の魔法使いってところかな」
「まさか変態魔法使いで、今追われてるとかじゃないですよね?」
「えっ!? カイアさんってそういう人だったんですか? 怖いです……!」
「なんで分かった!? ちゃんと隠してたはずなのに……!」
カイアさんは本当に焦ったような顔をしてみせた。そのノリの良さに、私と小七は思わず吹き出してしまう。
やっぱりこの人――周りの空気に流されやすい大人なんだ。
「ご主人様、気をつけてください! この先に罠があるかもしれません!」
「そうそう、本大爺みたいな指名手配中の変態魔法使いは、かわいい女の子を捕まえるための罠を――って、あるわけないだろ! そもそも今朝その村から来たばっかなんだぞ!」
「へぇ? つまりあの村が変態のアジトなんですね?」
「怖いです……! じゃあカイアさんは反対側へ行ってください。私たち危ないので」
「なんで楓玲ちゃんまでそんな扱いなんだよ!? 安心しろって。何かあっても、お前なら一発殴れば解決だろ」
そんなふうに騒ぎながら歩き続け、三十分ほど経ったころ。道の先に、本当に村らしきものが見えてきた。するとカイアさんは子どもみたいにはしゃぎながら叫ぶ。
「ほら見ろ! 村があっただろ! だから言ったじゃないか!」
「『……チッ』」
「おい!? 今舌打ちしたよな!?」
「ご主人様、油断しないでくださいね」
「うん、分かってる。ありがとう、小七」
「いやいや! 俺にも少しくらい感謝してくれよ! あと前の村、本当にただの普通の村だからな!?」
「……カイアさん、そう言われると逆に怪しく感じます」
「そうですそうです! でも安心してください、ご主人様。もし何かあっても、私がなんとかします!」
私と小七は顔を見合わせ、くすっと笑い合った。そして同時に口を開く。
「ありがとうございます、カイアさん」
「ありがとうございます、バカ魔法使い!」
……本当は、私も小七も分かっている。カイアさんは怪しい人じゃない。
でも、自分で「天才魔法使い」を名乗っている姿が、どうしても胡散臭く見えてしまうのだ。服装を見る限り、貴族の子息か、それに近い立場の人にしか見えないのに――本人は「問題を抱えて流浪中」だなんて言う。
“天才魔法使い”が“流浪の魔法使い”になった?
……どう考えても、怪しさ満点じゃない?




