第二章 「勇者の力と、天才魔法使い10」
「勇者……神獣……本気で言ってるのか?」
「もちろんです。さっき、主人のあの不思議な力を見たでしょう?」
今、私たちがいるのは、この銀髪のお兄さんの仮設キャンプだ。
およそ十分前、私が拳一発で二匹の茶色い狼を吹き飛ばしたあと、震えていた二人と今後の行動について話し合った。
結論は、このお兄さんのキャンプに戻り、逃げるときに置いてきた荷物を回収すること。特に、彼がしきりに言っていた「魔法の媒介」を取りに行くことだった。
キャンプに着いたあと、私は彼に名前を尋ねたが、彼は眉をひそめ、不機嫌そうにこう返してきた。
「人の名前を聞く前に、まずは自己紹介だろ。それが礼儀ってもんだ。」
私は慌てて謝り、口を開こうとした瞬間——小七が先に飛び出して、私の前に割って入った。
「主人は休んでいてください!こういうのは従者に任せるものです!」
そうして私は半ば強制的に引き下がり、小七が得意げに私の「自己紹介」を始めるのを見守るしかなかった。しかも、翼を振り回しながら身振り手振りつきで……。
私は横で顔を真っ赤にして見ているだけで、止めることもできない。案の定——話はかなり誇張されていた。
現在に戻る。
お兄さんが怪訝そうな目でこちらを見てくる。私は顔を真っ赤にして、小七に抗議した。
「なんで私の自己紹介に、そんな存在しない設定を足すのよ!」
「え?主人?それって何か問題ありますか?」
きょとんとした顔の小七に、私はただため息をつくしかなかった。
「でも……“あれ”を見たら、信じるしかないよな……」
「“あれ”?」
お兄さんは頭をかきながら、どこか複雑そうな表情を浮かべる。言葉の続きを口にしなかったのは、三人とも分かっていたからだ。
正直、私自身もさっきの怪力からまだ立ち直れていない。
出発しようとしたその時、小七が慌てて叫んだ。
「主人!まだ一匹残ってます!」
三人で顔を見合わせ、すぐにさっき三匹目の狼が倒れた場所へ戻る。
だが——そこには何もなかった。
逃げたのでは、と不安になり二人に聞こうとしたが、彼らはあっさり話していた。
「どうやら、もう死んでるな。」
「痕跡もないしな。やっぱり俺の体当たりが決め手だったか!」
理解できずにいると、小七が思い出したように私の肩に降りてきて、いつもの無垢な目で見上げてきた。
「小七、また何か説明し忘れてるでしょ?」
「主、主人……す、すみません。この世界の『輪廻転生』のことを……」
「輪廻転生?」
また難しい話になりそうなので、私はお兄さんに説明を求めた。
彼は少し考えたあと、この世界の仕組みを簡単に教えてくれた。
このエドロ大陸には、「霊」と呼ばれる物質——つまり“生命”が地表に満ちている。
そして大気には、「魂」と呼ばれる物質——“魔力”が満ちている。
この大陸の生物(人間を除く)は、「霊」と「魂」の結合によって生まれる。だから死ぬと、地球のように死体が残るのではなく、再び「霊」と「魂」に分解され、世界へ還るのだという。
つまり——魔物を倒しても、あまり気にする必要はない。
彼らは人間よりもはるかに速く、世界へ還っていくからだ。
小七は私の肩に乗り、翼で頬をそっと撫でた。それが彼なりの慰めなのだろう。
私は軽く頬を叩いて気を引き締める。すると今度は、お兄さんが質問してきた。
「じゃあ、勇者ってみんなあんなに強いのか?」
「それは半分正解です。」
小七は先生のように胸を張り、お兄さんを指しながら訂正する。
「正確には、勇者の『想像力』がその強さを左右します。この世界に来るとき、システムは勇者に『肉体転生』と『肉体強化』を与えます!」
さらに説明は続く。
体力強化だけでなく、ケガの回復や、入浴しなくても体を清潔に保つ機能など、便利な能力も付与されるという。もちろん、一部には条件もあるらしいが。
話を聞いて、お兄さんだけでなく私も少し理解できた。そこで私は質問する。
「じゃあ、“肉体転生”って何?」
「主、主人?覚えてませんか?『まだ生きている』って——」
「え?生きてる?」
戸惑う私に、小七は説明を続けた。
「『肉体転生』とは、元の世界の身体を“コピーして、この世界に貼り付ける”ことです。」
「つまり……」
「要するに、お嬢ちゃんの今の体は元の世界の体そのままってことだ。」
「へえ、意外と賢いんだね?」
「それはお前が言うな。本大爺は天才魔法使いだぞ!」
二人が言い争いになりそうだったので、私は慌てて止めた。そして——あの言葉の意味に気づく。
「小七、あの時言ってた『生きてる』って、そういう意味?」
「はい、主人。」
つまり、この世界に勇者が召喚されるには——“生きていること”が条件。
だから私がここにいるということは……
現実の私は——まだ生きている。
「(だから、小七はあの時ずっと『勇者だから』って言ってたんだ……)」




