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第一章 「すべての始まり09」

…… ……

  「『えええ——!?』」と、私と小七は同時に振り返った。そこには、得意げな顔をしたあのお兄さんの姿があった。

  だが次の瞬間、彼はまったく悪びれる様子もなくこう付け加えた。

  「でも——コホン、その……『媒介』をうっかりキャンプに置いてきちゃってさ、ははは。」

  「『何笑ってるんですか!?』」私と小七は声をそろえてツッコむ!


  同時に、背後から二匹の茶色い狼が飛びかかってくるのに気づき、私はとっさにお兄さんを横へ突き飛ばし、自分も勢いよくしゃがみ込んだ。間一髪でその攻撃をかわす。


  周囲を見渡すと、小七も無事に空へ逃れていた。


  「主人!」「お嬢ちゃん!」


  私が小七を探して気を取られたその瞬間、一匹の狼が前脚で引き裂くように襲いかかってくる。小七とお兄さんの警告がなければ、さっきの草むらの時と同じ危機になっていたかもしれない。


  「今のもギリギリだった……」


  小さく呟きながら、よそ見すれば次は命取りだと理解する。二匹の狼はゆっくりと円を描くように私を囲み、隙を待っているようだった。


  私は唾を飲み込み、草むらにいるお兄さんと狼たちを見比べる。結論は一つ——先に狙われているのは私だ。


  怖くて、逃げ出したくなる。けれど、その瞬間——ある言葉を思い出した。


  「(つらい時は『あきらめない』で自分を守るんだよ。ほら、お姉ちゃんの好きな金平糖みたいにね!)」


  「(晞夏、ありがとう)」


  心の中でそう呟き、深く息を吸って吐き出す。


  大丈夫。三匹の時に比べれば、まだマシだ。


  私はつま先で一歩下がり、背後からの一撃を軽やかにかわす。もう一匹も隙を突いて襲ってくるが、それも問題なく回避。


  「(よし、いける!)」


  相手の動きを冷静に観察し、最小限の動きで避ける。攻撃の癖と狙いを記憶する。


  左、前、右、爪、牙、腹、右脚、しゃがむ、背後、首、牙。


  「『すごい!』」


  見ていた二人が同時に声を上げる。だが私は少しも嬉しくなかった。避け続けるだけでは、状況は悪くなる一方だからだ。しかも手元に武器がない。


  悩みながらも回避を続ける。集中力と“勇者の力”のおかげで、なんとか持ちこたえていた。


  やがて狼たちの動きが鈍くなる。だがそれは疲れではなく、緩急をつけた攻撃で隙を誘っているのだと気づく。


  右、前、左、背後、腹、前、背後。


  より慎重に対処する。だが確実に隙は増えている。


  「……攻撃したい。」


  身体が反撃を求めている。でも武器がない——


  「お嬢ちゃん、攻撃しろ!」

  「したいけど……武器がないの!」

  「武器?そんなものなくても殴れ!蹴れ!」

  「えっ!?む、無理だよ!私、そういうの苦手なんだから!」


  「主人!今の主人なら——きっと大丈夫!」


  その言葉に、私は一瞬息を呑む。


  小七の瞳にある“信頼”を見た瞬間、体の奥から力が湧き上がった。


  「(これが……信じられるってこと?悪くないかも)」


  「『危ない!』」


  二人の叫びで我に返る。


  二匹の狼が同時に突進してきた。これまでで最速の動きで、真正面から——


  反射的に避けようとして、私は気づく。

  背後に、小七とお兄さんがいる。


  ここで避ければ——二人がやられる。


  足が止まった。


  「(守る……)」

  「(もう誰も、私のせいで犠牲にさせない!)」


  右足を一歩後ろに引き、腰を落とし、右腕を引く。


  「どけぇぇぇ——!」


  気づけば——右フックが、一匹の狼の顔面に直撃していた。


  「——ドンッ!」


  その狼はまるでフルスイングされたボールのように吹き飛び、仲間の狼にぶつかる。二匹まとめて空高く弾き飛ばされた。


  「……え?」

  「『……』」


  私は小七とお兄さんを見る。二人とも呆然としていた。


  「わ、私……ほんとに殴るの苦手なんだけど……」


  自分の手と足を見つめ、開いたり閉じたり、軽く地面を踏んでみる。


  その動きに合わせて、二人の視線が上下に揺れているのが分かった。


  ゆっくり顔を上げると——二人はビクッと震え、同時に一歩後ずさる。


  そして息をそろえて言った。


  「『……そ、そうなんだ』」


  私はにっこりと笑いながら、心の中で思った。


  (とりあえず……助かった、よね?)

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