表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/21

12.魔女の祝福

「まったく。魔女に魔女の眠り粉を使うなんて、いい度胸してるじゃない」


これが目覚めたシーベスの第一声だった。苛立ちに髪を掻きあげる。

眠り粉のせいでぼんやりした頭を冷やすために、彼女は下草の茂る地面に座ったまま風に吹かれて考える。


フランシェルは知らなかったのだろう。

魔女の眠り粉を魔女に使った場合、威力がかなり落ちるということを――。

半日から一日は眠り続ける分量を掛けられたのだが、彼女は眠りに落ちて数分後には目覚めた。


(うっかりしていたわ。フランは生への執着が薄い。死にたくないとは言っていたけど、生きたかったとは言っていたけど……あれは生き急ぐ者の瞳だ)


フランシェルの言葉は過去形だった。今を生きたいと、彼は思っていないのではないか。

冷静であれば彼の行動に、その違和感に気づくこともできた。

間抜けにも眠り粉で眠ってしまうような、そんな事態だけは避けられただろう。


シーベスは後悔を振り払うように頭を振る。

起こってしまったことは仕方がない。この状況から最善の方法を探すのだ。


(フランは死なせない。せっかく助けてあげたのに、勝手に死なれてたまるもんですか。捕まえて文句の一つでも言わなきゃ、私の気が済まない。このお礼は後でたっぷり支払っても貰わなくちゃ)


そのためにも森とフランシェル、両方救うための方策を考えなければならない。

彼は森を救うために、ここから出て行こうとしている。外にはたくさんの人間が彼を殺すため待ち構えているというのに、それを知った上で出て行こうとしている。

確かに彼が森から去れば、あの集団に捕まるなり殺されるなりすれば、森は火をつけられることもなく、たぶん助かるだろう。けれど、それでは彼が死んでしまう。


本来、中立地帯である森だ。こんな暴挙が行われれば、この森を囲む他の国々が黙っているわけがない。燃えてしまえば、有益な資源も半減なのだから。

南東の王国がどのような考えでいるか知らないが、森を燃やすなんて方策は諸刃の剣だ。ならば、これは最終手段のはず。


まやかし。


そんな言葉が頭を過ぎる。

(そうだ。要はフランを死んだよう見せ掛ければ良いのよ)

ある方策を思いつき、シーベスは家の中へ駆け戻った。そして、急いで必要な物を棚からかき集め、鞄の中に詰め込む。

(そうと決まれば、まずはフランを捕まえないと)

鞄を肩に掛け、彼女は箒に乗り、猛スピードで彼を追った。


幸か不幸か。今はフランシェルの居場所が手に取るようにわかる。これが魔女の祝福の効果なのだろう。そう思うと、とても不思議な気分だった。


魔女の祝福。魔女の口付けには、相手を束縛するという作用が働く。

相手がどんな場所にいようと、魔女にはその居場所がわかる。

どれほど離れようと相手が逃げられないよう、居場所を見つけるための目印を付ける行為なのだが、これにはもう一つの意味がある。


魔女の求婚だ。


だからこそ、シーベスは渋った。だが、それがこんな風に役立つなんて、あの時の彼女は思ってもみなかった。

前方にフランシェルらしき人影を見つけ、その作用の正確さに彼女は驚く。

その驚きは彼も同じで――。

「!! ……どうし」

 てここに、と問う前に、彼女に頬を叩かれる。

その勢いで体勢を崩して尻餅をついたフランシェルだったが、彼はひたすら彼女の顔をマジマジと見つめていた。


「フラン。私を眠らせて、その間にすべて済まそうなんて――いい度胸してるじゃない。生け贄なんて、私もこの森も望んでない。怒ってるんだからね。あとで覚悟しておきなさい」


箒から降り、彼の前に仁王立ちして不敵に笑うシーベス。

……すべてお見通しか。

叩かれた頬の痛みが、フランシェルに現実味を与える。己の計画が頓挫したことを悟った、彼の顔に苦い笑みが浮かんだ。


「そういえば――あなた本当に人間だったのね。瞳は青灰色。髪の毛は黒色。猫の時と同じね。気配も同じ。人間の姿をしているのに、人間の気配を全然感じないわ。そういうものなのかしら」

シーベスが遠慮なく顔を近づけ、しげしげと彼の顔を見下ろす。猫であった時と彼女の態度に変化はない。

フランシェルは居心地悪げに顔をそらした。


「まあいいわ。それよりも、この森とフラン両方を救う方法を思いついたんだけど、やる気ない?」

彼は無言で続きを促す。

「嫌だって言っても付き合ってもらうけど。危険が無いわけではないけど、あなたがやろうとしたことよりも危険は少ないはずよ。あなたには芝居をしてもらうわ、死ぬ芝居を」


シーベスが語った、森とフランシェル両方を救う方策は以下のものだった。

森の中には昔から、人間達に「竜の住処」と呼ばれている深く大きな谷がある。そこまで森の外で見張っている集団の一部を、フランシェルが追われているようにして誘導する。そして、その谷底に彼が落下するのを目撃させる。

実際にフランシェルにはその谷へ落下してもらう。もちろん谷底に激突する前に、その身は上から見えない位置で回収する。


「あの谷の深さで人間が落ちたなら、誰が見ても助からないと思うわ。特にあの谷は人間達から恐れられているから、わざわざ谷底まで降りて確認しようとは考えないはずよ。あなたは南東の王国で死んだ人間になる。そうすれば、もう命を狙われることもない」

一言も話さないフランシェルの返事をシーベスは待った。彼はゆっくりと立ち上がり、屈んで服についた土を払う仕草をする。


「……その話、乗るよ。面白そうだ」


顔を上げたフランシェルが笑みを見せた。悪戯を仕掛ける子供のような笑顔に、シーベスも笑い返したのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ