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第3話:天才娘と押しかけ弟子

【場面】

剣聖ロデリック邸


【登場人物】

ケイン・アグネシア

モートン

アッシュ

レナ

エレオノーラ・ヴァルディア

ロデリック…回想のワンシーンのみ

女将軍ビューネイ…セリフなし、イメージ映像のみ


【その他】

「」は声に出したセリフ、()は心の声です。

ト書き1つ=1コマを想定して書いていますが、必要に応じて分割してください。コマ割りや間の取り方は製作者様の判断にお任せします。



ト書き1

ケインとモートン、呆然とした表情でアッシュを見つめる。


ト書き2

アッシュ、ソファの背もたれに深く体を預ける。

アッシュ

「興味あるか?」


ト書き3

ケインとモートン、神妙な面持ちで首を縦に振る。


ト書き4

アッシュ、にやっと笑う。

アッシュ

「なら、直接話してみな。そいつが代表戦に出れば、アグネシア王国は確実に一勝とれるぜ」


ト書き5

モートン、ケインに目を向ける。ケインはアッシュに話し掛ける。

モートン

「で……殿下。これは、願ってもない……」

ケイン

「分かってる。で、その男はどこにいるんだ?」


ト書き6

アッシュ、目を見開き、プっと吹き出す。


ト書き7

アッシュ、げらげらと大笑いする。

ケイン

「な、何だよ。変なこと言ったか?」


ト書き8

アッシュ、目を擦りながら話す。

アッシュ

「外で稽古してんだ。普段通りなら、もうすぐ帰ってくる――」


ト書き9

玄関のドアが開く音がし、アッシュが反応して後ろを向く。

アッシュ

「おっ。戻って来たな」


ト書き10

ケインとモートン、ごくりと唾を飲み込む。


ト書き11

居間のドアが開く。


ト書き12

居間に入って来たレナの全身。


ト書き13

ケインとモートン、目を見開く。

モートン

「じょ……女性……でしたか」


ト書き14

レナのバストアップ。視線はケイン、モートンに向かっている。

レナ

「誰?」


ト書き15

アッシュ、くすくすと笑う。

アッシュ

「先に食べてこいよ。今ならまだ温かいぜ」


ト書き16

レナ、ケインとモートンに鋭い視線を向けたまま答える。

レナ

「……そうする」


ト書き17

部屋を出ようとするレナに、アッシュが声を掛ける。

アッシュ

「エリーは?」


ト書き18

レナ、無表情で答える。

レナ

「置いてきた」


ト書き19

アッシュ、呆れた顔で小さく溜息をつく。

アッシュ

「もうちょっと面倒見てやれよ。弟子だろ?」


ト書き20

レナ、アッシュの言葉に答えず、居間を出ていく。


ト書き21

アッシュ、ケインとモートンに振り返る。

アッシュ

「今のがロデリック先生の孫のレナだ。俺じゃ逆立ちしたって勝てねえ天才だよ」


ト書き22

ケイン、呆然とした顔で話す。

ケイン

「お前が勝てないのか……」

アッシュ

「歳は俺らの一個下だけどな」


ト書き23

モートン、アッシュに問う。

モートン

「それと、エリーというのは?」

アッシュ

「レナの弟子です。自称ですけど」


ト書き24

ケインがアッシュに問う。

ケイン

「自称?」

アッシュ

「ああ。レナが前に住んでたナントカ王国の貴族で、勝手についてきたって――」


ト書き25

玄関のドアが開く音がし、アッシュが反応して後ろを向く。

アッシュ

「っと、タイミングいいな」


ト書き26

エレオノーラの声が居間に届く。アッシュ、くくっと小さく笑う。

エレオノーラ

「師匠! どこですか! 師匠!」

アッシュ

「いいとこのお嬢ちゃんのくせに、うるせえんだよ」


ト書き27

居間のドアが勢いよく開き、エレオノーラの姿が見える。全身泥だらけ、頭には葉っぱがくっついている。

エレオノーラ

「師匠!」


ト書き28

エレオノーラ視点で、居間を描写。ケインとモートンが、呆然とした表情でエレオノーラを見ている。

エレオノーラ

「お……お客様?」


ト書き29

アッシュ、笑いながら答える。

アッシュ

「先に風呂入ってこいよ。泥だらけだし、なんか臭えぞ」


ト書き30

エレオノーラ、顔を紅潮させる。


ト書き31

エレオノーラ、逃げるように居間から出ていく。

エレオノーラ

「し、失礼しました!」


ト書き32

エレオノーラが出て行った後、静まり返る居間。


ト書き33

ケイン、モートンに話し掛ける。

ケイン

「貴族って話だけど……モートン、誰か分かった?」

モートン

「いえ……あんなに汚れていては……」


ト書き34

アッシュ、げらげらと笑う。

アッシュ

「あいつは一応礼儀は分かってるから、風呂から出たら挨拶に来るぜ。レナは分からねえけどな」


ト書き35

モートン、ケインに目を向ける。

モートン

「……では、もう少し待ちますか」

ケイン

「……だね」


ト書き36

しばらくして、居間のドアが開き、エレオノーラが入ってくる。髪を整え、きちんとした身なりになっている。


ト書き37

エレオノーラ、優雅に頭を下げる。

エレオノーラ

「先程は大変お見苦しい姿を見せてしまい、申し訳ありませんでした」

ケイン

「あ、いえ。気にしてませんので」


ト書き38

エレオノーラ、いかにも貴族といった、にこやかな笑顔で話す。

エレオノーラ

「私はマルサス王国の侯爵、ヴァルディア家の娘、エレオノーラ・ヴァルディアでございます。お客様のお名前を教えていただけませんか?」


ト書き39

ケインとモートン、立ち上がって自己紹介する。

ケイン

「俺はケイン・アグネシアです」

モートン

「従者のモートンでございます」


ト書き40

アッシュ、ケインを親指で差しながら、座ったまま話す。

アッシュ

「名前で分かったかもしれねえけど、こいつ、アグネシアの王子さまだぜ」


ト書き41

エレオノーラ、目を見開く。

エレオノーラ

「お……王子? アグネシア王国の……」

アッシュ

「三年前までここで修行してたんだ。俺とはガキの頃からの知り合いだ」


ト書き42

エレオノーラ、アッシュの話を聞かず、わなわなと震え出す。

エレオノーラ

「わ……私、王族の殿方の前で、あのような姿を……」

アッシュ

「あー、気にしなくていいぜ。こいつ、そういうのは全然――」


ト書き43

エレオノーラ、一目散に退散する。

エレオノーラ

「ヴァルディアの家名に泥を塗ってしまいました!」

アッシュ

「聞けよ!」


ト書き44

アッシュ、エレオノーラがいなくなった居間のドアを呆然と見つめる。

アッシュ

「ったく、何なんだよ……」

ケイン

(変な娘……)


ト書き45

ケイン、モートンに顔を向ける。

ケイン

「マルサス王国のヴァルディア侯だって。モートン、知ってる?」

モートン

「名前は聞いたことがありますが、詳しいことは……」


ト書き46

モートン、腕を組む。

モートン

「ただ、マルサス王国のご出身というのであれば、事情は呑み込めましたぞ」

ケイン

「そうなの?」


ト書き47

モートン、ケインをじいっと見る。

モートン

「そもそも殿下は、代表戦の五戦にどのような意味があるか、ご存知ですか?」

ケイン

「いろんな種類がある方が面白いからじゃないの?」


ト書き48

モートン、盛大に溜息をつく。

モートン

「帝国の礎を築いた英雄……初代皇帝と四人の将軍に由来しているのです」

ケイン

「そうなんだ」


ト書き49

イメージ映像。女将軍ビューネイ。

「その中の一人、女将軍ビューネイはマルサス王国の出身です」

ケイン

「なるほど。それで、女性にも武力が求められるわけか」


ト書き50

イメージ映像。マルサス王国の女戦士。

モートン

「そのような生易しい話ではありません。マルサス王国の女性にとって、武は教養よりも優先すべきもの。貴族家のご令嬢であればなおのことでしょう」

ケイン

「ふーん……」


ト書き51

アッシュ、立ち上がる。

アッシュ

「何にせよ、今日はもう部屋から出てこねえよ。話がしたいんなら明日だ。俺らも寝ようぜ」


ト書き52

ケインも続いて立ち上がる。

ケイン

「誰かと一緒に寝るの、久しぶりだな」

アッシュ

「大人しく寝ろよ」


ト書き53

モートン、居間を出て行くケインとアッシュの後ろ姿を見ながら思う。

モートン

(ロデリック様の孫に、マルサス王国の娘……)


ト書き54

モートンの顔のアップ。眉間に皺を寄せている。

モートン

(果たして、殿下は頼んでくださるだろうか……)


ト書き55

翌朝。朝日を受けるロデリック邸。


ト書き56

ケイン、ロデリック邸の庭にやってくる。


ト書き57

ケイン、ふと顔を上げる。

ケイン

「ん?」


ト書き58

ケインの視点。レナが背を向け、ストレッチをしている。


ト書き59

レナ、振り返る。

レナ

「おはよう。早いんだな」


ト書き60

ケイン、苦笑しながら答える。

ケイン

「久しぶりに友人と会った日くらい、ゆっくり起きたかったんですけどね。どうも、習慣になってるみたいです」


ト書き61

レナ、くすりと笑う。

レナ

「いいことだ」


ト書き62

笑顔を返すケインの後ろ、玄関からエレオノーラが出てきて会話を遮る。

ケイン

「まあ、起床時間はできるだけ一定にした方が健康にいいって――」

エレオノーラ

「師匠!」


ト書き63

レナの元に走ってきたエレオノーラ、息を切らしながら話す。

エレオノーラ

「す……すみません。お待たせしてしまって」

レナ

「待ってない」


ト書き64

ケイン、レナに質問する。

ケイン

「出掛けるんですか?」

レナ

「朝のロードワークだ」


ト書き65

エレオノーラ、胸を張って誇らしげに言う。

エレオノーラ

「師匠と私の日課ですのよ」

レナ

「お前を誘った覚えはないが」


ト書き66

エレオノーラ、閃く。

エレオノーラ

「そうですわ! せっかくですし、ケイン様も一緒にいかがでしょう?」

ケイン

「へ?」


ト書き67

ケイン、昨夜のエレオノーラの様子(泥だらけ)を思いだし、顔がひきつる。

ケイン

「えーっと、俺はアッシュの手伝いをしようかな、なんて――」

アッシュ

「いらねえよ」


ト書き68

振り返ったケインの視線の先、にやにやとした笑みを浮かべたアッシュが、食堂の窓から顔を出して三人を見ている。

アッシュ

「朝飯は用意はしておくから、三人で行ってこいよ」


ト書き69

ケイン、ひきつった顔でアッシュを見る。

ケイン

(あいつ……楽しんでやがる)

レナ

「話はついたな。行くぞ」


ト書き70

ケイン、焦った表情で振り返り、レナを見る。

ケイン

「もしかして決定ですか?」

エレオノーラ

「ケイン様! 参りましょう!」


ト書き71

山に向かって走り出したレナを、ケインとエレオノーラが追いかける。

ケイン

(参ったな……散歩してただけなのに)


ト書き72

ケイン視点。前を走るレナの背中。

ケイン

(それにしても、ロデリック先生の孫……か)


ト書き73

ケイン、昨日のアッシュとの立ち合いを思い出す。

ケイン

(アッシュが逆立ちしても勝てないって、どれくらい強いんだ?)


ト書き74

ケイン視点。レナがふいにジャンプする。

ケイン

(けっこう小柄だけど……)


ト書き75

ケインの顔のアップ。

ケイン

(飛ん――)


ト書き76

ケインの脛に、しなった枝が直撃する。

ケイン

「ぐおっ!」


ト書き77

ケイン、脛を押さえて地面の上を転がる。後ろを走っていたエレオノーラが立ち止まる。

ケイン

「いったあああ!」

エレオノーラ

「ケイン様! 大丈夫ですか?」


ト書き78

ケイン、座った姿勢で脛に直撃した枝を掴む。

ケイン

「な、何ですかこれ?」

エレオノーラ

「鞭枝《むちえだ》ですわ」


ト書き79

ケイン、エレオノーラを見上げて問う。

ケイン

「鞭枝《むちえだ》?」

エレオノーラ

「この山に自生している植物です。枝が折り重なっていて、不用意に触るとさっきみたいにしなってくるんです」


ト書き80

回想。子供のころのケインとアッシュが庭で遊んでいるところへ、ロデリックが声を掛ける。

ロデリック

「山は危ないから入っちゃいかんぞー」

ケイン

(そういや、先生が言ってたな……)


ト書き81

ケイン、歯を食いしばって立ち上がる。

エレオノーラ

「急ぎましょう! 師匠は待ってくれません!」


ト書き82

ケイン、エレオノーラについて走る。

ケイン

(ただ走るだけじゃ駄目ってことか)


ト書き83

ケイン視点。前を走るエレオノーラがしゃがむ。

ケイン

(しゃがん――)


ト書き84

ケインの眉間に、猛スピードで飛んできたビー玉サイズの種子が当たる。

ケイン

「あがっ!」


ト書き85

ケイン、両手で顔を押さえ、地面の上を転がる。

ケイン

「いってえええ!」

エレオノーラ

「飛礫草《つぶてぐさ》です! 侵入者が近付くと固い種子を飛ばし――」


ト書き86

ケイン、立ち上がる。

ケイン

「先に教えてください! 他にも危険な植物はありますか?」


ト書き87

エレオノーラ、笑顔で答える。

エレオノーラ

「もちろんあります。それぞれの特徴は、ケイン様がひっかかってから解説しますわ」


ト書き88

走り出したエレオノーラの背中を、呆然と見つめるケイン。

ケイン

(マジか……)


ト書き89

ケイン、エレオノーラを追って走り出す。

ケイン

(ゴールまでにあと何回やられるんだ……?)


ト書き90

エレオノーラの背中を追って走ったケイン、ゴールの広場に到着する。顔は傷だらけ、服は泥だらけで、頭に葉っぱがついている。

ケイン

「ここが……終点ですか」


ト書き91

先に着いて体操をしていたレナ、振り返ってケインとエレオノーラを見る。

レナ

「遅かったな」


ト書き92

歩いてきたレナ、ケインの傷だらけの顔や泥だらけの服を見てくすくす笑う。

レナ

「ひどい顔だ」

ケイン

「ははは……」


ト書き93

レナ、ケインの顔を見上げて言う。

 ※二人の身長差は約二十センチ

レナ

「そういえば、お前の名前を聞いてなかった」


ト書き94

ケイン、頭についた葉っぱを取りながら答える。

ケイン

「ケイン・アグネシアです」

エレオノーラ

「ケイン様はアグネシアの王族! 王子様なのですよ!」


ト書き95

レナ、エレオノーラの言葉には反応せず、ケインに問い続ける。

レナ

「アッシュに用があって来たのか?」

ケイン

「いえ……ロデリック先生に、代表戦のことを相談しようかと」


ト書き96

レナの表情が一変し、目が鋭い光を放つ。

レナ

「代表戦……」

ケイン

「はい。一年後、ベルグート王国と戦うことになったんです」


ト書き97

レナ、ケインから目を逸らし、考え込むように親指を口元に添える。

レナ

「ベルグート……」


ト書き98

レナ、ケインに真剣な目を向ける。

レナ

「アグネシアの王族は誰が出るんだ?」


ト書き99

ケイン、頬を掻きながら答える。

ケイン

「それが……決まってないんですよ。頼もうと思ってた叔父さんが逃げちゃって」


ト書き100

レナ、険しい顔でケインを見つめる。

レナ

「お前……出るなよ」

ケイン

「へっ?」


ト書き101

レナ、ケインとエレオノーラの横を通り、元来た道へ歩いて行く。

レナ

「帰るぞ」


ト書き102

ケインとエレオノーラ、顔を見合わせる。


ト書き103

ケインとエレオノーラ、慌ててレナを追いかける。

ケイン

「待ってください!」


ト書き104

レナ、ケインの言葉に反応せず、先を進む。

ケイン

「出るなって、どういうことですか?」


ト書き105

レナ、ぴたりと立ち止まる。


ト書き106

レナ、振り返らずに話す。

レナ

「お前……知らないのか?」

ケイン

「な、何をですか?」


ト書き107

レナ、振り返る。

レナ

「出れば死ぬだけだ」


ト書き108

文字のみ。

ナレーション

「代表戦まで、あと362日」

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