今よ、ルース、止めをさして
翌日、私たちは昨日と同じようにブレン・ブルー郊外の草原にやってきた。
もちろん、ラビットボール狩り。
とにかく、レベルアップしないと、どうしようもない。
ルースが。
「私が捕まえて弱らせるから、ルースはそれにとどめをさしていってね」
「ごめんね、フラワ」
申し訳なさそうなルース。自分が弱いことを痛感しているんだろう。
「大丈夫。ちょっと変わったデートだと思えば、楽しいよ。ねっ」
「デ、デート……」
ルースが顔を赤くする。
あのね。イケメンだから、顔に朱がさすと、すっごくエロいの。なんか、淫靡な感じになるの。
もう、たまらん、って感じになっちゃうの。
ダメダメ。よこしまなことを考えちゃあ。
真面目で清い交際をしていかないと。
ラビットボールを捕まえて、軽くポンポン叩いて弱らせて、ルースに差し出す。
ルースがそれを殴る。全力で殴る。
ハアハア、ゼエゼエ、いいながら殴る。
ルースの【レベル】が一つ上がるまでに、午前中いっぱいかかった。
なにしろ、一体倒しては、グッタリと疲れちゃうんだから。
私はその間、暇つぶしに、寄ってくるラビットボールを片端から倒しては、血抜きをしていった。
おかげで、私も2回レベルアップした。
「やったね、ルース。どう、ステータス上がった?」
レベルアップして顔を輝かせるルース。ステータスは急上昇しただろうか。
「【かしこさ】が1上がったよ。【精神力】が3から5になった。【SP】も2から3になったよ」
そ、それだけ?
えっ、マジで。
ていうか、【精神力】5って。
私、すでに100オーバーだぞ。
「……わあ、やったねえ」
乾いた笑みを張り付かせて言った。
そうだよ。ルースは頑張ってるんだから。
結果なんて関係ないよ。
昼食はギルドの厨房を借りてお弁当を作ってきた。コックさんも、解体所の人たちと同じく、私たちを応援してくれていて、快く貸してくれた。
ルースはあんまり食欲がなかったみたいだ。弁当を食べているときも、えづいたりしていた。
昼食後も、午前中と同じく単純作業。
ひたすら、ラビットボールを弱らせて、ルースに差し出す。
ルースの【精神力】が上がったせいか、午前中よりも効率が上がった。
……ちょっとだけどね。
私がちょこちょこと、ラビットボールを狩って血抜きをしていたせいだろう。あたり一面は、真っ赤に染まっていた。
おかげで次々とラビットボールが寄ってきた。
◇
日が暮れた。
結局、その後、ルースはレベルアップしなかった。
結構、倒したから上がると思ったんだけどなあ。
その代わり私の【レベル】が、さらに一回上がった。気が付けば【レベル】5ですよ。
そりゃあ、今日だけで300体くらい倒してるからね。
相変わらず、【かしこさ】は3のままだけど、ほかの基本能力値はグングン上がった。
強さなんて200いっちゃったよ。
なんか、上がり方、すごくない?
もちろん、それと比例して現状能力値と変動値も上がった。
【攻撃力】はもうすぐ四ケタにいきそうなんだけど、こういうものなのか?
【HP】、【SP】はどっちも3000近くあるぞ。
接触治癒一回で、SP10消費だから、300回、接触治癒できちゃう。
一度、ほかの人のステータスも教えてもらった方がいいかも。
私もルースも数字の変動が極端すぎて、どっちが普通なのかわからない。
私は自分のステータス値を隠すことにした。なんとなく、面倒なことになりそうな気がする。
別の理由でルースにも言わない。ルースが惨めになってしまう。
そのルースは、レベルアップしたおかげで、午後も上機嫌だった。
意気揚々とギルドへ戻る。
受付嬢メリッサは300体のラビットボールを狩ったことに驚いていた。
「もう、ラビットボール狩り専門にしたらどうですか?」
なんて、皮肉でもなく言われたよ。
確かに、ラビットボール300体で、九万エネルだから、一日の稼ぎとしては破格だ。
昨日の怪しい宿から、別の宿に余裕で移れちゃう。
解体所のジャックさんにラビットボール300体出して見せたら、大笑いされた。
「普通は、こんなに見つけられねえぞ。やっぱ、お前、おもしれえな」
あっ、またおもしろい女認定された。
おじいちゃんだけど。
ついでにジャックさんにステータスについて、相談してみた。
このおじいちゃんは信用できる。
とはいえ、一般的なステータス値がどの程度かを聞いたくらいだけど。
「そうだなあ。ジョブにもよるけどよ。中堅の【レベル】20くらいで、基本能力値のどれかが100越えるくらいだな。現状能力値は装備品によって変わるからあれだが、戦士だったら【攻撃力】が300、【HP】600くらいだろう。治癒師だったら、【SP】300くらいだな」
うん?
レベル20の戦士で【攻撃力】300?
私は、レベル5の治癒師だけど、【攻撃力】950あるよ。しかも、初期装備のメイスだけだよ。装備してるの。
「まあ、ステータスの上昇幅は人それぞれ。数値はあくまで目安よ。あんまり気にすんな。それより、戦闘の立ち回りの方が重要だぜ」
まあ、いいや。
ステータスが高い分には、全然、問題ないし。
それより、ルースの低ステータスだよ、問題は。
「弱い仲間を強くする方法ってありますか?」
ジャックさんに、ざっくばらんに聞いてみる。
「そりゃあ、装備よ。武器や防具もそうだけど、魔法道具のアクセサリーなんかでステータスを上げると、やりやすいぜ」
「へえ、そんな便利なものがあるんですかあ」
これは、ぜひぜひ利用せねば。
ルースがもう少し強くなれば、ラビットボールよりも強いモンスターと戦える。
レベル上げも効率が良くなるはず。
「まあ、高いけどな」
「えっ、高いんですか?」
「ピンからキリだが。例えば【敏捷性】を10上げる指輪なんかが、だいたい10万エネルくらいだなあ」
高いよお。
今日の稼ぎ全部使っても足りないじゃん。
◇◇◇
宿は昨日と同じ宿にすることにした。
受付のおばあさんが、今日こそ、二部屋じゃなく一部屋にしろと、しつこく言ってきた。
それもありかなあ、とちょっと揺らいだ。
下心じゃないよ。
節約の精神だよ。
とにかく、お金はルースのステータスアップのために使っていくことにしたのだ。
頑張ってルースを強くするのだ。
宿の廊下でムチを持った女性と裸の男にすれ違った。
「やっぱりこの宿はよくないよ。明日は別の宿にしよう」
ルースが部屋の前で言った。
「ダメだよ。お金は大事なんだから、節約節約」
いろいろアレなところはあるけど、一泊2000エネルは超安い。安いは正義。
「でも、なにかあってからじゃ遅いし」
「あっ、確かに」
童貞を失ってからじゃあ、遅いね。
そんなことになったら、悔やんでも悔やみきれないよ。
「フラワは女の子なんだから、もっと危機感もたいないと」
あれ、私を心配してたのか。
なんか、自分が襲われるってイメージ、あんまりないんだよなあ。
「聞いてる?」
ルースが真剣な顔で言った。
うう、ドキドキする。
なによ、急にキリっとして。
イケメンめ。
「う、うん、聞いてるよ。そうだね、この宿は今日限りにしようか。隣から変な声するもんね」
ルースが顔を赤くする。
おやすみを言って、部屋に入る。
シャワーを浴びに行ったら、女物の下着をつけたおっさんとすれ違った。
なんてフリーダムな宿なんだろう。
ベッドに横になったけど、昨日と違ってなかなか寝付けなかった。
ルースが言った、女の子なんだから、ってセリフが何度も頭の中でリフレインする。
ついでに、そのあとに見せた真剣な顔も。
うう、ルース、もう寝たかなあ。
ベッドでゴロゴロ転がったり、枕に顔を押し付けたり(かび臭い)、しながら寝れない時間を持て余した。




