泊まっちゃう?
あの後、私たちは空いていたテーブル(絡んできた冒険者がついていたテーブルっぽい)について、夕食を食べた。
しばらくしたら、絡んできた連中が目を覚まして、戦士なんかは、ものすごい勢いで怒声をあげて突進してきたけど、ベテランの戦士みたいな人が凄んで止めてくれた。
絡んできた連中は、すごすごとギルドから出ていき、私たちはゆっくりと食事を取ることができた。
そこで、これからのことを話し合った。
別に将来設計的な感じのやつじゃないよ。
もっと直近の未来。差し迫る問題。
つまり、泊るところ、どうしようってやつ。
「今まで橋の下で寝てたんだ。お金、無くなっちゃって」とルース。
ラビットボールと戦っちゃあ、ボロボロになり、戦っちゃあ、ボロボロになり、を繰り返してたら、お金が無くなってしまったらしい。
「安全な依頼もあるよ。ドブさらいとか、荷物運び(街中)とか」
「モンスターと戦って強くなりたいんだ。そうしないと……」
なにか事情がありそうですな。
でも、今は聞かないよ。
「とにかく、もう外で寝ちゃダメ。宿で寝よう。ルースが襲われたら困るもの」
「俺を襲っても、取るお金ないけどね」
「貞操を取られちゃうわよ」
ルースが、なにそれ、と首をかしげる。
初心だ。この子、すごく初心だ。
ルースの童貞は私がもらう予定なので、それまでちゃんと守ってもらわないと困るのです。
とはいえ、私もそんなに金はない。
路銀の残り二万エネル。
これにルースの全財産と、ラビットボールを倒して手に入れた7500エネルを足しても、3万エネルに届かない。
受付嬢メリッサに安宿を聞いたら、一泊2000エネルの超格安の宿を教えてくれた。
これなら二人で4000エネル。
毎日、ラビットボール退治をすれば、当面はなんとかなりそうだ。
そんなわけで、私たちは夜のブレン・ブルーをてくてく歩いた。
格安宿だけあって、建ってるのは街の外れも外れ。
門から遠く、大通りからも離れている。
途中、ステータスの話になった。
「ルースはなんで戦士にしたの? 【強さ】、あんまり高くないでしょう」
たぶん、【強さ】3とかじゃないかな。
どう考えても、私の【かしこさ】より、ルースの強さの方が低い気がする。
「うん、【強さ】1。でも、ほかもそんな感じだから」
えっ、かしこさも1なの?
嘘でしょう?
現状能力値と変動値は基本能力値に比例するみたいだから、ステータス、すごい悲惨なことになってるよね、絶対。
「【レベル】を上げたら、成長していくタイプなのかもね」
「うん、強くはなるはずなんだ」
確信しているみたい。自分に言い聞かせてるのかもしれないけど。
教えられた宿についた。
レンガむき出しの古い古い縦長の建物。
これ、何百年前から建ってんだ、っていうレベル。
はめ殺しの窓は、開かなそうだし。
中はさぞかし、空気が淀んでいることでしょう。
まあいいや。屋根があるだけマシだよね。
入ってすぐ受付があった。
本が積み上げられた受付机に、おばあさんがついている。
寝てるんじゃないかしら、と思ったが、近づいたら、くわっ、と目を開いた。
ひひひっ、と怪しく笑った後、いらっしゃい、と挨拶。
「素泊まり一部屋2000エネルだよ。食事は一食300エネルから。壁が薄いから、あんまり激しくするんじゃないよ」
いひひひっ、とまた笑う。
「じゃあ、二部屋でお願いします。食事は無しで」
「もったいないから、一部屋にしときな」
「いえ、間違いがあるといけないし。私たち、冒険者のパーティで、まだ、付き合ってるとかそういうのじゃ……」
ねえ、とルースを振り返る。
いえね、ルースとそういう関係になるのは、私としましてはやぶかさではありませんよ。
というか、いずれなるつもりだよ。
でも、さすがに、会って、すぐって、わけにはいかんでしょう。
恋愛の階段をひとつひとつ上っていきたいのよ。
「そ、そうだよ。俺たちは、ただの冒険者のパーティで……。そういう感じじゃ……」
めっちゃくちゃ顔赤くなってますよ、旦那。
ねえ、これ、脈あるよね。
意識し始めてる感じだよね。
私のどっかが、ルースの心にヒットしてる感じだよね。
もう、いっそ、いっちゃう?
一部屋でいっちゃう?
恋愛の階段すっ飛ばして、やっちゃう?
「ひひひっ、無理しないで一部屋にしときなよ。若い男女が宿でやることは一つだろう? カマトトぶってないで、獣のようにまぐわえばいいじゃないか」
「いい加減にしてください」とルースがキレた。
「フラワはそんな子じゃありません」
う、うん。
そうだよね。
私、身持ちの固い娘さんだよね。
「なんだい、最近の若いのは、面倒くさいねえ」
おばあさんは壁にかかった鍵を二つ取ると、机に置いた。
「ほい、前払いね。合わせて4000エネル。食事はどうする?」
「食事はいいです。ねっ、ルース」
冒険者ギルドで安く食べられるからね。そっちの方が得だ。
金を払い、鍵をもらって、部屋へ向かう。
その途中、男女のアレな声が、いろんな部屋から漏れてきて、すごく気まずくなった。
鍵番号と同じ番号が書かれたドアの前で足を止める。
「ここね。ルースは隣。それじゃあ、また明日ね」
何事もなかったかのように言った。
いや、めちゃくちゃ意識してるよ。
「うん、また明日」
ルースは赤い顔で言うと、隣の部屋に入っていった。
部屋は、ベッドだけでいっぱいだった。
なんか、臭いが酸っぱい。
とりあえず、シャワー浴びてくるか。一応、あるらしいから。
お湯は出ないみたいだけど。
シャワー室は、すごかった。
カビで緑色だった。
床にはいろんな毛が溜まってた。
まあ、パンダヒルの女はこの程度じゃあ、怯みません。
冷水を浴びて、部屋に戻ろうとしたら、裸の男とすれ違った。キャーとか言った方がいいのかな。乙女的に。
そのすぐ後に、ナイフを逆手に構えた裸の女とすれ違った。
えっ、なに、事件の臭いがするんだけど。
殺人事件の数分前みたいな感じなんだけど。
一応、受付のおばあさんに報告した。
「ああ、よくあることさね。気にしなさんな。いひひひ」
よくあることなら、いいか、ほっといて。
痴情のもつれに首突っ込むのもあれだし。
部屋に戻り、ベッドに潜る。
考えてみたら、今日、ブレン・ブルーについたばかりなのに、いろいろやっちゃったよ。
目を閉じると、ルースの笑顔が浮かんできた。
好きだよ、好きだよ、大好きだよ、と想いながら、いつの間にか寝た。




