イケメンは保護してなんぼだろ
ラビットボールの死骸を持って冒険者ギルドに戻った。
あっ、別に手に一杯ぶら下げてきたわけじゃないよ。
便利な便利な収納袋がありますから。
おじいちゃんが、冒険者だったから、いっぱい持ってたんだよね。
ひとつ、餞別代りにくれました。おかげで、大変助かってます。買うと高いの。
冒険者ギルドは昼間に比べて、混んでた。
どのテーブルも満席。
酔っぱらった冒険者もチラホラ。
私たちが店内に入ると、シーンと静まり返った。視線がルースに集中。
こらこら、これは私が唾をつけたイケメンだぞ。そんなに見てもやらんぞ。
「ラビットボール、いっぱいやっつけてきました。買い取ってください」
例の受付嬢に言った。
受付のお姉さんは、私とルースに視線をいったりきたりさせたあと、用紙をカウンターに置いた。
成果報告書と書いてある。
これに記入すればいいのね。
【パーティ名】
あれ、決めてないぞ、そんなの。
とりあえず、フラワ&ルースと書く。
【果たしたクエスト】
ラビットボール退治。
【成果】
ラビットボール20体。
【買い取り申請】
ラビットボール20体。
これでいいのか。
どうかな?
といった感じでルースを振り返る。
私の肩越しに用紙を見ていたルースが、笑顔で頷く。
もう、いちいちドキドキさせるんだからあ。背後の君の気配に、脇汗いっぱいかいちゃったぞ。
「では、買い取らせていただく、モンスターを裏の解体所に提出ください」
「面倒くさいです。私たち、すっごく疲れてるんですよ。お姉さん、持ってってくださいよ。暇なんだから」
「フラワさんは元気いっぱいに見えますけど」
「私、疲れを顔に出さない健気な女の子なんです。あと、血とかダメなんですよ。解体所になんか入ったら、失神しちゃいます」
「血の臭いをプンプンさせておいて、なにを言ってるんですか」
しょうがない、ちょっと行ってくるか。
「ルースはここで待ってて」
「俺も行くよ」
「ダメよ。フラフラなんだから」
ここに戻ってくるまでも、何度か倒れかけたの、ルース。
そんな彼に私は肩を貸した。
密着。
イケメンと密着しちゃいました。
これ、もう、ほとんどエッチしちゃったようなもんじゃね。
「席が空いたら、とっておいてね」
言って、奥の通路へ小走り。
たぶん、こっちでしょ。ほかには厨房のドアしかないし。
トイレのドアとか、関係者意外立ち入り禁止のドアとか、『ジョブチェンジの間』のドアとか、応接室のドアとか、並ぶ通路をまっすぐ進む。
行き止まりにドアがある。
それを開けると、ほら、裏口に出た。
空き地を挟んで、どでん、と大きな建物が建ってる。あれが解体所かな。
解体所の重い金属の引き戸を、ガラガラガラと開ける。
強烈な臭いが鼻に突き刺さった。
血やら、体液やら、糞便やら、肉の腐敗臭やら、なんやかやの交ざった臭いでしょう。
実家でも、よく嗅いだ臭いだ。
田舎なめんな。
黒いゴムのエプロンに、ゴム長靴、ゴム手袋をした人たちが、忙しそうに動き回ってる。
たくさんの作業台。
吊り下げられたモンスターの死骸。
丸い眼鏡をかけたおじいちゃん(髪の毛フサフサ)が、私を見て、ニッカリ笑った。
「嬢ちゃん、あんただろ、ルーシフォス・バックネットとパーティ組んだ治癒師って」
「フラワ・パンダヒルです。今日から、お世話になります。ところで、どうしてルースとパーティ組んだの私だって、わかったんですかぁ?」
「なんか神経太そうな顔してるからなあ」
「そんな、私、超繊細なんですよ。毎日、ドキドキ、ビクビクしながら生きてるんですからね」
「超繊細なやつが、そんなもの欲しそうな顔で、こん中を見回しゃあしないだろ」
言ってから、ガハハハと笑った。
「おもしれえ嬢ちゃんだな。いいぞ。ルーシフォス・バックネットの件じゃあ、頭にきてたんだ。俺たちは、嬢ちゃんたちの味方だぜ」
あっ、おもしれえ女、認定されましたよ。
おじいちゃんにだけど。
「ルースの件、こっちでも話題なんですね」
「そりゃ、そうよ。冒険者ギルドの情報は、全部、集まってくるからな」
「なんで、ロベリアンネ神殿は、変な差別をするですか?」
「なんでも大神官の女が絡んでるって話だぜ」
「その人がイケメンにひどい目にあったとかですかね」
「さあなあ。事情はわかんねえが、いきなり、ロベリアンネ神殿が『初めての治癒師』を差し替えてきてなあ。以来、顔のいい兄ちゃんやら、名前が似てるやつは、ギルドからつまはじきよ。冒険者の癖に、陰険なことしやがって」
収納袋からラビットボールを取り出す。
おじいちゃんに、血抜きの手並みを褒められた。
「ラビットボール20体。確かに」
さっき書いた成果報告書にサインをくれた。
ジャックさんというらしい。
これからお世話になります。
◇
ギルドのホールに戻ると、ルースが胸倉をつかまれていた。
「なんだって? もう一度、言ってみろよ」
ルースの胸倉をつかんだ戦士風のいかつい兄ちゃんが、笑って言った。
「取り消せって言ったんだ。フラワさんを侮辱した言葉を取り消せ」
ルースが真っ赤な顔で怒鳴った。
「どれを取り消せばいいの。頭の軽いガキ? 田舎者丸出しのイモ女? 牛ともやっちゃうようなビッチ?」
戦士の仲間っぽい青い神官衣の女がニヤニヤしながら言った。
「どれも、そのまんまじゃねえか」
戦士が言って、それに神官女と魔法使い男が笑った。
ほかの客たちも笑う。
「やめろよ」
ルースが戦士の手を払った。
「おお、痛え、痛え。メリッサさん、見てたよな。俺、殴られちゃったよ。殴り返しても、いいよな」
例の受付嬢のお姉さんが目を伏せる。
「綺麗な面をデコボコにしてやるぜ」
戦士が拳を振り上げる。
走った。
メイスを大きく振りかぶって、戦士の頭に向けて、全力で振り下ろした。
はい、殺すつもりでやりました。
べこん、と音が響いて、戦士が白目をむいて、倒れた。
『初めての治癒師』にも書いてあったもんね。不心得者を成敗するためのメイスだって。
そのまま魔法使いに突進。メイスで顔をぶん殴る。鼻血をまき散らして、横倒しになる。
その顔を思いっきり蹴飛ばす。
「誰が、ビッチだ、オラっ」
神官女の顔面にパンチです。
倒れた彼女に馬乗りになり、めちゃくちゃ殴ります。
パンダヒルの女はケンカ慣れしてるんだよ。なめるな。
神官女が気を失っても、まだ殴り続けてたら、受付嬢のメリッサに止められちゃいました。
てへっ。やりすぎちゃった。
「すいません。なんだかよくわからないけど、仲間が絡まれてたんで、興奮してしまいました。これって、なんかペナルティあります?」
真っ赤に汚れた拳を、ピクピクしている神官女の服で拭きとりながら言った。
「い、いえ、一方的に相手を害していたというわけでもないので。ただ、できれば彼らの傷を治してあげてください」
後始末はちゃんとしとけってことね。
了解、了解。
全員に接触治癒をかけていく。
戦士を治していたところで、なんかファンファーレみたいな音楽が頭の中で鳴った。
勝手にステータス・ウィンドウが開いて、大きくレベルアップの文字。
おお、レベル2になったよ。
【かしこさ】以外の基本能力値が20ずつアップ。
【攻撃力】、【防御力】などの現状能力値がそれぞれ50くらい上がった。
そしてHP、SPが100ずつ上がった。
思ったより、ぐんぐん上がるね。人のステータス見たことないからわからないけど、こんなものなのか。
おや、なんか新しいスキルが増えてるぞ。しかも二つ。
対人格闘、先制攻撃。
治癒師ぽくないスキルを手に入れてしまった。
「……ごめん、フラワさん」
ルースが言った。
あっ、ルースのことすっかり忘れてた。
めちゃくちゃ、打ちひしがれてるよ。
ていうか、ドン引きされた?
凶暴な女、とか思われた?
やべえな。
「なんか恥ずかしいところ見られちゃったね。えへへへ」
笑って誤魔化す。
「俺、我慢できなくて……」
「あっ、そのセリフ、いい」
なんかエロいよ。鼻血が出そうだよ。
「えっ? ええと……」
「ありがとう、ルース。私の名誉を守ってくれたんだよね」
ルースは無言で、まだ倒れている三人を見た。それから、周囲で静まり返っている冒険者たちを見る。
「……やっぱり、パーティを組むのはやめよう」
「ええ……、私ならなんにも気にしてないよ。むしろ、レベルアップしてラッキーとか思ってるよ」
「嫌なんだよ」
ルースがうつまいたまま言った。
「俺のことはなんて言われてもいいけど。フラワさんのことまで悪く言われるのは嫌なんだ。俺といると、またこんなことが起こるかもしれない」
あっ、私すごく、想われてる。
胸がキュンキュンするんだけど。
ルースは私を萌え殺す気なの?
「俺、今日、すごく楽しかった。冒険者になって、こんなこと初めてで。すごく、楽しかったんだ」
ルースは最後に顔を上げると、私に笑いかけた。
「ありがとう、フラワさん」
ルースが玄関扉へ走る。
だが、遅い。
【かしこさ】以外はハイスペックのこの、フラワ・パンダヒルをなめるな。
私は玄関扉の前でルースを捕獲……いや、背中から抱きしめた。
「平気だって言ってんじゃん。パンダヒルの女は罵詈雑言には慣れてるの。陰口なんて日常茶飯事なの。私は、ルースと組むって決めたの。それでいいじゃん」
周囲から迫害された二人の絆は、どんどん深くなる的な。
障害があればあるほど、燃え上がる愛、みたいな。
「ねえ、ルース。つまんない差別するような連中を気にしなくていいんだよ。そんなやつら三流なんだから、すぐに私たち追い抜いちゃうよ。神殿の言いなりになってる治癒師なんて。治癒師の言いなりになってるような、冒険者なんて、くっだらないんだから」
店内に気まずそうな気配が漂う。
そうだよ、お前らのことだよ、バーカ。
ルースが、体に回した私の手をほどく。
振り返った。
泣いていた。
「本当に、俺でいいの?」
「うん、ルースがいい」
あれ、なんかプロポーズっぽくね。
もう、結婚しちゃう感じ?
出会って一日で結婚しちゃいました、みたいな。
ルースは袖で涙を拭うと、手を出した。
「俺、強くなるよ。絶対、強くなって、フラワさんに後悔させない」
私はその手を握った。
「さん、は、いらないよ。呼び捨てで、ねっ」
パチパチと拍手が聞こえた。一人、二人、拍手の数が増えていく。
振り返ると、テーブルについていた冒険者の何人かが手を叩いている。そんな仲間を治癒師たちが睨んだり、困った顔で見たりしている。
「ほら、くっだらなくない、人たちだっているよ」
呆気にとられたようなルースの顔に、笑みが広がっていく。まるで太陽が地平から顔を出す、暁のように。
私はそんなルースの顔から目が離せなかった。




