そして二人は……
「よし、ルース、いつでもいいよ」
パンパンとベッドを叩いて言った。
かけているシーツの下はまっ裸です。ついさっき、えいやって脱ぎ捨てからね。
大きなベッドに、壁の可愛らしいランプ。カーテンはベルベッド地のちょっと豪華な感じのやつ。
ここは寝室。私たち夫婦にとっての愛の巣。つい半日前まで、伯母ズを隔離していた離れを私たち夫婦に提供してもらい、今日からここに住むことになったのだ。幸い、長女夫婦が一時住んでいたこともあって、大きなベッドも完備されてあった。
「あれ、えっ、フラワ? あれ?」
ルースがドアの前で呆然としている。
無理もないかな。
ルースがパンダヒル家に来て、まだ丸一日経っていない。
その間に、プロポーズして、私、復活。
ついでだから、とそのまま結婚式になってしまった。
◇
「せっかくだから、このまま結婚式にしましょうよ。サクラ、グラスのウェディングドレス、あるかしら」
などとお祖母ちゃんが言って。
「あるある。いつでもトゥリを送り出せるように準備万端よ。ルース君のは、どうしようか? ミックのじゃあ、大きいわね」
「まあ、ジャックとミック君の服で、なんかどうか、できるでしょう。ウメ、モモは昼食の準備。あなたとミック君はここにテーブルと椅子を運んできて」
当事者の私とルースが、プロポーズやら復活やらの余韻に浸っている間に、お祖母ちゃんとママが、テキパキと指示を出して、準備を進めてしまった。
あれっ、と私が気づいたときには、純白のウェディングドレスの着付けをさせられていた。
「ねえ、なんで私、これ着てるの?」
「なんでって、これから結婚式をするからでしょう?」
着付けしてくれるママが、今更、なに言ってるのみたいな感じで返した。
「はあ? これから? いや、無理でしょう。準備どうすんの?」
「大丈夫よ。こんなこともあろうかと、備えはしてあるから。姉さんたちや、娘たちが、男を連れてきたら、逃げられる前に式をあげようって、母さんと密かに訓練してたのよ」
なんだよ、結婚式の訓練って。
「相手がいろいろ気づいたり、覚めたりする前に、結婚式を挙げる。それがパンダヒル家の結婚よ。大丈夫、一時間で式まで持っていってみせるわ」
いや、一時間て。
さすがに、無理でしょう。
そう思うじゃん。
マジで、整えたからね、式の準備。
長女グラスが着たウェディングドレスを身に着け、五千年樹のところに戻ってみると、そこには。
大きなテーブルをつなげて、白いクロスがかけられて。どっから出したんだか、高価そうな燭台に皿にカトラリー。
ルースはお祖母ちゃんが支度してくれたらしく、黒い上着にズボン。シャツにベスト。ネクタイ。上着が少し大きめだけど、ほかはそれほど変じゃない。
いや、ポカンとしているルースが可愛いな。
「はい、ケーキ持ってきたよ」
伯母のモモちゃんがクリームたっぷり、フルールいっぱいの大きなケーキを持ってきた。
いや、いや。なんでだよ。
どうして、そんなケーキがすぐ出てくるのよ。
「半年前に、モモが、今回はいけるって、自信たっぷりにいってたから、みんなで備えてたんだよね。これ、そんときに作って収納袋に入れておいたケーキだわ」
ウメちゃんが教えてくれた。
そう言うウメちゃんは、ローストチキンとミートパイの載った大皿を持ってきていた。
それらも、やっぱり仕込みをして収納袋に入れてあったらしい。
すげえよ、うちの家族。
おまけに、馬に乗ったお祖父ちゃんが長女グラスを小脇に、その夫レックを後ろに乗せて、戻ってきた。
えっ、どこの山賊ですか。
「いい、ペースね。あとは私たちの支度を整えるわよ。まだ諦める時間じゃないわ。40秒で支度しな」
お祖母ちゃんが言って、その言葉にみんなが一斉に母屋に走っていった。
あとに残された、私とルース。
「まさか、いきなり結婚式するなんて」
ルースがつぶやいて、それから今、気づいたみたいに、ウェディングドレスを着た私を見る。
顔が赤くなった。
「その、綺麗だよ、フラワ。すごく」
「ルースもかっこいいよ。なんか、ごめんね。うちの家族、なんかいろいろアレな感じで」
「これから結婚するだよね」
「ええと……嫌?」
ルースは、即座に首を横に振った。
「フラワがこうして、元気で。フラワと話せて。笑ってくれて。本当に幸せなんだ。もう、離れたくない」
やべ、顔が緩む。変な笑いが出てきそうだ。
「ビックリしたけど。でも、今、結婚できるなら、そうしたい。本当だよ」
ああ、もう、我慢できん。
ふらふらっ、吸い寄せられるみたいに、近づいて。
ルースが私を抱きしめる。
そのまま、キスした。
今度は私からね。
◇
その後、見事に結婚式の準備が整い。
私たちは結婚した。
つまり、今は結婚初夜。
ついに、その時がきたのですよ。
セックスというやつをいたすときがな。
「ほら、ルース。女に恥かかせないで」
ベッドの上で、全力でおいでおいでをする。
「ごめん、なんか、まだ、ぼ~、としてて」
「お酒、飲まされてたもんね。まだ酔ってる?」
「いや、それは大丈夫だと思うけど」
「いける? セックス、できそう?」
「ま、まあ、たぶんね」
ルースが視線を落とした。みるみる顔が赤くなっていく。
うう、初い奴。
「よし、やろう」
「……うん、まあ、とにかく、そっちに行くよ」
う~ん、なんかムードがでないぞ。
難しいな。
ルースがベッドの側に立った。
ものすごい所在なさげだ。
「さあ、服を脱ぎたまえ」
「えっ、うん、そうだね」
ルースがシャツのボタンを外していく。おお、なんかエロい。興奮するぞ。
心臓が、バクバクいってる。
シャツが、ふぁさり、と床に落ちた。
そのまま下着を脱いで。ズボンも脱いで。
ルースが生まれたままの姿になっていく。
ダメだ。凝視できん。
「脱いだら、来てね」
言って、シーツに潜る。
みんなさあ。
どうやってるのかな。
ひとつひとつの段取りが、もうサッパリだよ。わけわからんよ。
ていうか、ちゃんとできるのかな。
ベルカーラさんからいろいろ教わったけど、なんかイメージがつかなかったというか。
とにかく、最初は痛いらしいから、我慢しないとね。
ベッドが揺れた。ルースが乗ったんだ。
いよいよか。いよいよなんだな。
すげえ、緊張するよ。
「フラワ、いいよ」
そっとシーツの上からルースの手が触れてくる。
私はシーツから顔を出すと、ルースに抱き着いた。
肌と肌が触れ合って、なんだか、それだけで、興奮のあまり鼻血がでそうだった。
◇
「ご、ごめんね」
「大丈夫。こっちこそ、ごめん」
ベッドで隣り合って横になって、天井を見ながら謝る私たち。
つまり、結果は、かんばしくなかったわけでして。
いや、頑張ったんだよ。でも、すっごい痛くてさ。
悲鳴に、ルースがギョッとなってさ。
それで、男の人のアレって、ナイーブだってベルカーラさん言ってたけど、本当にそれで。
つまり、へこたれてしまったわけで。
「次は頑張るからね」
決意をこめて言うと、ルースが手を握ってきた。
「焦ることないさ」
優しく言った。
なんか、胸がいっぱいになって、ルースの胸に顔を寄せる。
厚い胸板。じんわりと汗をかいてて、唇を当てると、少し震えた。




