戦い
シュペルシュペラスを倒した後、ルースはいつも通り、眠りに落ちた。
フラワが彼を抱き上げる。
シュペルシュペラスが暴れたおかげで、建物はボロボロになっていた。今にも崩れ出しそうだ。
幸い中にいた者たちは少なかったようで、ロイドが無事に逃がしてくれていた。
ルースを背負ったフラワとベルカーラも、外へと出る。
ロイドが、くたりと木の幹に上体を預ける聖女アーナの側に、しゃがみ込んでいた。
その周囲に人が集まっている。
嫌な予感がしたフラワは、走って聖女の元へといった。
「ロイドさん、聖女様は……」
「大丈夫だ」とは言ったもの、ロイドも聖女アーナが長くないこと知っていた。
やはりフラワに、魂手入をしたのが、効いたのだろう。
聖女の息は絶え絶えで、もはやその目は何も見ていないようだった。
聖女アーナが空へと手を伸ばした。
なにかを訴えかけるように口を動かす。
ロイドが顔を上げた。周囲を見回す。
フラワだけが、その理由に気づいた。
「ベル、モンスターだ。囲まれている」
ベルカーラが驚いてロイドを見る。
「でも、ここは湖の上……」
「水上にいきなり現れたんだよ。四体。でかいやつだ。私が対応する。フラワ君とベルは……」
ロイドの言葉は最後まで続かなかった。
神殿の屋根の上からモンスターの一部が見えたのだ。
広げた赤い翼。長い首。トカゲのような頭部。
ドラゴンだ。
以前、クラウディオで戦った魔王の眷属に比べれば、小ぶりだが、それでも全長は十メートル近くあるだろう。
「私、ルースと一緒に行きます。きっと狙いは私たちです」
言うと、フラワは返事も聞かずに、動いた。
ルースを背負ったまま大きく、高く跳んだ。神殿の屋根に飛び乗る。
ドラゴンがフラワを睨む。
口を開き、炎を吐いた。
フラワは心手を束ね、前面に盾を作った。炎がフラワを裂けて広がる。
フラワはそのまま神殿の上を走ると、赤ドラゴンに向かって突撃した。
「【SP】2000万舐めんな」
片手をドラゴンに向けてかざす。
白い光がほとばしり、柱となってドラゴンを撃ち抜いた。
光槍。
旅の間にロイドから教わったスキルのひとつだ。
光系のスキルは、治癒師のフラワと相性が良く、比較的に簡単に覚えられた。
威力は現状能力値のスキル力に依存する。
常時発動している周辺感知は、地上へと落ちていく赤ドラゴンの他に、三方向から三体のドラゴンが迫ってきていることも、感知している。
やはり、狙いはフラワの背負うルースのようで、地上の聖女アーナを無視して、フラワの方へ向かってくる。
フラワは、神殿の屋根から助走をつけて跳んだ。石造りの屋根が崩れるほどの強さで踏切った。
湖の上空を大きく跳んで、そのまま湖畔に着地する。
ロイドが一体を倒したのか、ドラゴンは二体になっていた。低空飛行し、湖の水面をかするように飛んでくる。
「ルース、ちょっと降りててね」
眠ったままのルースを砂の上に寝かせる。
フラワは安らかな恋人の寝顔から、接近するドラゴンに視線を移した。
青、それに緑。
大きさも姿形も赤ドラゴンと同じようだ。長い首に尻尾。全身の鱗。
フラワは、両手を前にかざした。手の平が輝き、二本の光の柱を打ち出す。
緑ドラゴンは光槍に体を撃ち抜かれ死んだが、青ドラゴンはかろうじて避けた。
そのままフラワに接近する。
フラワは跳んだ。
矢のように飛んで青ドラゴンに接近すると、その横っ面を拳で殴った。
青ドラゴンの頭部が破裂。
フラワは、落下するその巨体を蹴って、湖畔に戻った。
ルースをまた背負う。
そんなフラワを観察する者があった。
一人は魔王。はるか上空から戦うフラワと、ルースを観察していた。
もうひとつは、魔王の眷属ドロンカロス。
その姿は不可視。湖の上を歩きながら、フラワを観察し続ける。
ドラゴンは、ドロンカロスが隷属のスキルにより従え、異次元収納に閉じ込めておいたものだ。
ドロンカロスは、魔王より、モンスターの手駒を揃えるように命じられていた。異次元収納には、10万を越すモンスターを閉じ込めてある。
どれも、そこそこに強力なモンスターだ。
それを一斉に解き放った。
クロノスの街に蓋をするように、黒い円が空に広がった。
そこから魔物の大群が、落ちてくる。
広範囲感知で、落ちてくるモンスターの数を把握したロイドは、即座に決断した。
「ベル、たぶん、ここであれをやることになると思う」
ロイドの言葉に、ベルカーラは微笑んだ。
「わかった。一緒に死のう」
「すまない」
沈痛な顔のロイド。
ベルカーラは首を振った。
「言ったでしょう。別の誰かと生きるより、あなたと死にたいって」
ロイドは聖女アーナに目を移した。
その周囲にいる神官たち。
彼らを見捨てていくことになる。
それでも、優先するべきは勇者だ。
ロイドはベルカーラの手を取ると、転移のスキルを使った。
閃光とともに二人の姿は消えた。
◇
ルースを背負い、湖に浮かぶ神殿と空から次々と落ちてくるモンスターを見ていたフラワは、すぐ側に気配を感じた。
強い光とともに、ロイドとベルカーラが姿を現す。
「フラワ君。逃げるぞ。私たちは監視されている」
「でも、聖女様は?」
「守る余裕はない」
モンスターの大群だけなら、一塊となって戦い続ければ聖女を守ることは可能かもしれない。
だが、問題は、敵がモンスターを発生させたこと。その相手の狙いは勇者であることだ。
聖女もクロノスの街も見捨ててでも、勇者は逃がさなくてはならない。
「分かった。どっちに行くの?」
「別行動だ。意味はわかるね」
フラワは唇を噛んだ。
ロイドに、窮地に陥った際の作戦の指示を受けてある。
旅の途上。四人で話し合った。
もし、魔王に追い詰められ、窮地に陥ったら。
ロイドとベルカーラが犠牲になり、ルースとフラワを逃がす。
無事に逃げたら二人は身を隠す。
「いいかい。魔王が世の中に姿を見せるまでは、隠れ続けるんだ。どれほど、犠牲を出しても」
魔王にとって、勇者は自分を倒しうる唯一の存在。情報を集め、攻略法を探すだろう。
ロイドは、もし自分たちが追い詰められるとしたら、それはもはや、自分たちの行動が敵側に筒抜けになっている状況だろうと言った。
教皇を始め、誰も信用できない状況であると。
「隠れ、潜み、魔王に接近し、確実に倒す。それしかない」




