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マンガはおもしろいのです

 湖の都市クロノスへは、山をいくつも越えていく必要があった。一行は、馬を二頭連れて、細い山道を移動した。

 別に主要道路もあるのだが、そちらは大きく迂回するため、時間が倍以上かかる。


 馬は、ルースとフラワを乗せるためのものである。フラワはともかく、ルースの体力は、他の三人に比べ大きく劣る。

 だが、ルースだけ乗馬させると、彼の誇りが傷つくだろうと考え、二頭の馬を連れていくことにしたのだ。


 だが、結局、ルースもフラワも、馬に乗ることはなかった。ルースは、ハイペースで歩を進める三人に、弱音も吐かずについていった。


「これも鍛錬ですから」とルースは、騎乗を進められるたびに断った。


 性に対する講義を受けて以来、ロイドとルースは、かなり打ち解けた。それまでは、ロイドはルースに、勇者だから、という遠慮があったし、ルースはロイドに、大人の男に対する引け目を感じていたのだ。


「恋人の前で弱音を吐きたくない気持ちはわかるが、無理はするなよ、ルース君」


「はいっ」


 一方、フラワとベルカーラも、壁のようなものが無くなった。フラワは、実家にあったマンガについての話を熱く語り、ベルカーラはそれに興味津々であった。


「つまり、普段強気なあいつが、主人公の前で弱気になった瞬間に、キュンとくるわけですよ」


「なるほど。分かる気がする」


「あと、他の女の子が誘惑しても、まったくなんにも興味がないところとか、彼にとって特別な私、みたいな」


「うん、それはいいね」


 このように四人の旅路は、和やかなものとなった。



 ルースの手がそっと胸に触れたので、フラワは、おおっ、きたっ、と思った。

 互いの舌を絡めるようなキスの最中である。

 

 ルースが唇を離して、聞く。

「いい?」


 フラワは、うなずいた。

 やっぱり、男はオッパイに深い興味を持つ生き物なんだなあ、と思った。


 再び口づけ。優しく互いの舌を愛撫しあう。

 ルースの手がフラワの胸を優しく揉む。

 サワサワと撫でるように。

 フラワはくすぐったくてたまらなかった。


 ちらり、と視線を下にやると、ルースのズボンの股のところが膨らんでいた。

 おおっ、第二形態。


 ルースの手が胸以外のところも、撫でるように触れてくる。尻とか脇腹とか。

 フラワは、ものすごくくすぐったかった。

 だが、ここで吹き出すと、ルースのアレが、二度と第二形態になれなくなってしまうかもしれない。

 我慢、我慢。


 やがて、キスを終えた。

 最後はいつも抱き合う。

 フラワは、ギュっとルースが強く抱きしめてくれる感触が好きだった。


腐敗呪ロットカースが治ったら……」

 ルースは言った。

 その後がうまく言えない。


「うん、治ったら、最後までしようね」

 フラワは、ルースの気持ちを汲み取って言った。



 ことを終えた後、ベルカーラは両膝を抱えて、着衣を整えるロイドを見ていた。


 山道。満点の星空を背景に、愛しい男を眺める。

 ロイドがそれに気づいて顔を向けた。


「服を着ないと風邪ひくよ」


 ベルカーラは無言で笑みを浮かべた。

 ロイドの仕草のひとつひとつが愛おしい。


 今頃、ルースとフラワも愛を確かめあっているのかしら、と思った。


 ロイドもフラワも、周辺感知ペリフェラルパーセプションのスキルを使える。

 野宿の夜は、互いが認識できる位置で、なおかつ、それぞれ恋人同士で二人きりになれる距離をとるようにしていた。


「君たちの絆が、なによりも重要になるかもしれない」などと、ロイドはそれらしく理由をつけたが、とどのつまり、ベルカーラと二人きりになりたかっただけである。


 もっとも、魔王を倒すことができる勇者の情緒を安定させることは、最重要であることは確かなので、間違ってもいない。


「ルースに色々、話したでしょう」

 ベルカーラは言った。


「まあ、プライベートなことを色々と。男女のことについて、少しでも情報が欲しい年頃なんだよ」

 ロイドが隣に座って言った。


「二人ともいい子。幸せになって欲しい」


「ああ。そうだね。あの子たちが、魔王なんかに関わり合わず、平穏に、安楽に、暮らせていたら良かったんだが」


「平穏で、安楽でも、幸福だとは限らないわよ。厳しくて、不安でも、幸福なこともある。私みたいにね」


 ロイドはベルカーラの肩を抱いた。

 口づけをかわす。




◇◇◇




 下り坂。片側には小川が流れている。

 道幅には余裕があり、傾斜もゆるやかである。

 さて、と先を歩いていたロイドが足を止めた。


「この辺りでいいだろう。ベルカーラ、二人を頼んだよ」

 振り返って言った。


「一人で大丈夫ですか? 私も付き合ってもいいですよ。レベルアップしたいし」

 フラワが言った。


「いや、大丈夫。むしろ、万一の時に備えていてくれると助かる。後顧の憂いがなければ、私も気が楽だからね」

 言うと、ロイドは姿を消した。


 高速移動ハイスピードムーブのスキルを使用したのだ。


「ロイドさん一人で大丈夫かな」

 ルースが心配そうな顔をする。


「大丈夫。ロイドは強いから」


 ベルカーラは言うと、収納袋から桶を出した。

 馬の飼料を用意するつもりである。


 オークの群れが一行を包囲しようと動いていることに気づいたのは、一時間ほど前のことである。

 ロイドの広範囲感知ワイドレンジパーセプションが、200体近くのオークを感知したのである。


けなくはないが、倒しておいた方が楽だな。休憩時に、片付けておくよ」

 ロイドは、仲間たちにオークの集団に狙われていることを話すと、そう結んだ。


 オークの群れと聞き、ルースが反射的にフラワを見てしまったのは、彼女がモンスターを引き寄せることを知っているからである。

 だが、すぐに、腐敗呪ロットカースのせいで、それも無効化されていることを思いだした。

 むしろ、今のフラワはモンスターにも、動物にも、気配がわからないらしい。


 ルースは、ベルカーラに稽古をつけてもらった成果を試したくもあったが、自重した。

 200体のオークと渡り合えるほど、力をつけているとは、とても思えない。ロイドの足を引っ張るだけである。



 木々の間を高速で駆ける。


 見えた。

 下草を割るように、豚頭に毛むくじゃらの大男が十体、歩いている。

 手に持っているのは、木を削って作った槍やこん棒。


 ロイドは高速移動ハイスピードムーブで加速したまま、大きく跳ぶと、大木の枝に乗った。


 その姿が、すっと消える。

 不可視インビジブルのスキルである。

 さらに潜伏ヒドゥンのスキルも併用、これで気配や臭いも消える。


 ロイドは、枝から枝へと身軽に飛び移ると、オークたちの頭上へと移動した。


 そこから光針ライトニードルのスキルで、光の針を指の間に作りだす。


 不可視インビジブルのスキルの良い点は、自分の体のみならず、装備品やスキルで生み出した物も、不可視になる点である。

 

 ロイドは、次々と不可視の光針ライトニードルを出しては、それらをオークに投げた。

 命中確定ロックオンのスキルも使っているので、すべて頭頂部の急所を貫通する。


 オークたちは、音もなく、次々と必殺の一撃を喰らって倒れていった。


 瞬く間に、三体に減ったオーク。そのうち一体が、遠吠えをしようと大口を開く。

 

 ロイドは枝から飛び降りると、不可視の斬撃で三体を瞬殺した。


 ロイドの優れている点は、五つ以上のスキルを同時使用できるところだろう。

 大抵は、多くて三つというところ。これには、ステータスよりも、訓練と適正が必要である。


 オークの小隊の全滅を確認すると、ロイドは、すぐに、次の小隊の元へと高速移動ハイスピードムーブで、向かった。


 広範囲感知ワイドレンジパーセプションで位置は丸わかりである。

 周辺感知ペリフェラルパーセプションに比べれば、詳細はわからないが、その分、感知できる範囲が広い。


 発見。

 数は20体。

 ロイドは合わせた両手をすっと広げた。両手の平の軌跡に光針ライトニードルが何十本と現れる。もちろん、不可視の針である。

 それが一斉に、オークに襲い掛かった。


 同時にロイドは、別方向から群れに飛び込んだ。

 見えない光針に撃ち抜かれ、混乱するオーク。その間を縫うよう走り抜ける。

 オークたちが血しぶきをあげて倒れた。


「さて、あと170体程度か」

 つぶやき、次の集団に向けて移動する。



 一時間ほどでロイドは戻ってきた。

 羽織っていたマントには、血しぶきひとつついていない。


「片付いたよ」


「お疲れ様」

 ベルカーラが微笑んで迎えた。


 ルースは本当に200体ものオークを倒したのか、信じられない様子で。

 フラワは、マンガで読んだファンタジー世界のスカウト的存在、ニンジャを思い浮かべて。

 それぞれ、ねぎらった。


 三人は、ロイドがオークと戦っている間に、昼食の準備をしていた。

 ベルカーラは料理が得意で、フラワは彼女に教わりながらも、キャッキャウフフと料理を作った。


 ルースは、そんな女たちを微笑ましい気持ちで眺めながら、細々と雑用をした。


 四人で昼食を取る。スープと鶏肉をキノコと焼いたもの。


 フラワは、ロイドにオークとの戦闘について聞いた。

 ロイドが戦いの詳細を話す。


「いい。とってもいい。ニンジャって感じ。不可視インビジブル覚えたいなあ」

 フラワが興奮して言った。


「ニンジャ? なんだい、それ?」


「初めて聞く単語だな」


 ルースとロイドが首をひねる。


「ええっ、マンガですよ。マンガ。バトルマンガによく出てくるんですよ、ニンジャ」


「未だに、君の言っているマンガというものがよくわからないんだ、私は」

 ロイドが苦笑いをする。


「フラワの実家にはたくさんあるのよね」

 ベルカーラが言った。

「読んでみたいわね」

 

「お祖母ちゃんが、コレクションしてるんですよ。すごく詳しいんですよ」


「ひょっとして、東方の方かな?」

 ロイドは言った。


 フラワの容姿は東方人のそれである。 


「その変、よく分かんないんですけど。でも、私、お祖母ちゃん似らしいですよ」


「会ってみたいね。その方に」


「私も久しぶりに会いたいなあ。お祖母ちゃんの話、面白いんですよ。あとファンタジーな世界に、めちゃくちゃ詳しいんです。

テレビとか、ジドウシャとか」


 そこから、フラワはマンガのファンタジー世界について、延々と語るのであった。

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