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男と女の深い話

 ガルレムト王国へ入った一行は、湖の街クロノスへと道を進めた。

 すでに聖都ルシディアナを立ってから、二週間。旅は順調だった。


 ルースは引き続き、ベルカーラに稽古をつけてもらった。

 ロイドと復縁して、少し表情が和らぎ、口数も多くなったベルカーラだったが、稽古は相変わらず厳しかった。


 フラワもロイドからスキルを習っている。

完全回復フルリカバリーの効果も消え、中級治癒ミドルヒールを常時発動しているフラワは、次々と【EXP】を得ており(回復系スキルは治療すると【EXP】が入る)、すでにレベルは32になっていた。


腐敗呪ロットカースを治療したら、ジョブチェンジをしよう。上級治癒師ハイヒーラー戦闘治癒師バトルヒーラー格闘治癒師モンクがあるから、好きなのを選ぶといいよ」とロイド。


 スキルによって、適したジョブがあり、習得できる条件や難度がまるで違うのだ。

 フラワは治癒師ヒーラーなので、中級治癒ミドルヒールを習得するのに手こずったが、上級治癒師ハイヒーラーだったら、もう少し簡単に習得できたとのこと。


「ロイドさんって、上級治癒師ハイヒーラーの割には、戦士系とかスカウト系のスキル多いですよね」


「一番最初のジョブはスカウトだったんだよ。スカウトの上級ジョブのレンジャーまでいったんだがね。そこからまた治癒師ヒーラーになって。まあ、これは、偽装のためだけどね」


 伯父である教皇ガリオンのために、各国を飛び回り情報を集め、勇者の探索をしていたのだ。


「なにそれ、かっこいい。レンジャーのスキルとか、そそられますね。いいスキル、くださいよ」


 ちなみに、フラワがすでに習得した周辺感知ペリフェラルパーセプションは、スカウトのスキルである。ロイドは、ルースの身を守るため、フラワにこれを教えた。


「時間があればね」


 勇者の護衛としてフラワ以上の存在はないだろう。並外れたステータス。深い信頼関係。彼女が強くなれば、それだけ勇者の保護を厚くすることができる。


 一体、フラワは何者なのか。ロイドには、未だに不可解である。博識な教皇ガリオンも、彼女のような突出したステータスの例は知らなかった。

 一行が会いに向かっている聖女ですら、フラワと比べてステータスが二桁は低いのだ。


「力を発現した際の勇者には及ばんだろうが。魔王の眷属に匹敵する能力。神から恩恵おんけいを受けているのは確かだな」


 教皇ガリオンは、今回の勇者の特徴のひとつかもしれない、と言っていた。

 引き続き、フラワ・パンダヒルにも注意を払えとも。



 ガルレムト南方の都市アルケナスに到着した一行は、そこに三日間逗留した。

 馬車と旅装を変えるためである。


「念には念を入れておこうと思ってね。敵方もこちらを探っているだろうし」とロイド。


 ベルカーラとは、端々で目配せをしあって、意思疎通を図っている。

 ロイドとベルカーラが忙しくしている間、フラワとルースは、ゆっくりと街の観光をした。


 手をつないで二人で通りを歩く。

 ルースは相変わらず人目を引いた。特に女性たちの視線を。


「ルース、すごい見られてる。やっぱりかっこいいもんね」


 フラワの言葉にルースが、よくわからない、と首をひねる。自分の容姿がいかに女性を惹きつけるか、まったく自覚がないのだ。


「俺なんか見ても、しょうがないと思うけど」


「イケメンは目の保養になるの。私なんて、ルースの顔、一日中だって見てられるんだから」


「俺だって、フラワの顔、一日中でも見てたいよ」


 フフフフフッ、アハハハハッ、と、やはりバカップルっぽさをかもしだす二人だった。


 宿の部屋割りは、ルースとロイド、フラワとベルカーラで、それぞれ一部屋ずつである。

 この街からは、富豪の子息の旅というものから、冒険者パーティという形にすることになった。


 クロノスまでは山道が多く、馬車では時間がかかる。徒歩の方が融通が利くのである。


 アルケナス二日目の夜。

 夕食後に、ルースはフラワと宿のラウンジでしばらく話した。部屋の前でキスをして別れる。


 そのキスが、最近やりだした舌を入れ合うキスであったので、ルースはなんだか下半身がうずき、ソワソワとしたまま部屋に入った。


 ルースは性に対して知識がない。芽生えた性欲をうまく受け止めることができなかった。

 

 部屋に入ると、ロイドが机で書き物をしていた。


「どうしたんだい? 困った顔をして」

 ロイドが言った。

 

 困惑したようなルースの様子が気になったのだ。勇者の些細な変化も見逃すわけにはいかない。


 ルースはベッドに腰かけると両手で顔をおおった。


 ルースが返事をしないので、ロイドは書き物に戻った。


 しばらくして、ルースが口を開いた。

「ええと……。なんていえばいいのか。つまり、キスのことで。ロイドさんはキス、得意ですか?」


 意表をつかれたロイドは、思わずペンを大きく滑らせてしまった。

 ペンを置いて、振り返る。


「キス? 得意かどうかは知らないが、それなりに経験はある方だと思うよ」


「つまり、口の中をかきまわすような、あれなんですけど」


「ああ、うん、君たちの仲が順調そうで良かったよ」

 ほかに答えようもないなよな、とロイドは思った。


「なんだか、変な気分になってしまって。こう、血が熱くなるというか。アレがなにか筋肉質になるというか。朝起きた時みたいに」


「うん、極めて正常な反応だね」


「そういうものなんですか?」


「そういうものだよ」


「でも、なんというか、フラワに、ええと、いろいろと嫌なことをしてしまいそうで」


「ああ、触りたくなるとか、裸を見たくなるとか、そういうことかい?」


 ロイドの言ったことが、あまりにもその通りだったので、ルースの声は大きくなった。

「そうです。それなんです」


「男はそうなるよ。女のことは知らないが、たぶん、そうなるんじゃないかな」


「えっ、フラワも、そうなんですか?」


「まあ、そうだろうね。キスを嫌がってるわけじゃないんだろう?」


 ルースは、大きくうなずいた。

「好きみたいです」


「うん。それなら、フラワ君も君の体に触れたり、裸を見たりしたくなっていると思うよ」


「どうすればいいんです?」


「したいようにすればいいんだよ。ただ、ゆっくりとだね。お互いにしたいことが同じであることを確認し、了承しあい、納得して、進めるんだ」

 説明しながら、ロイドはこの状況に、妙なおかしさを感じた。


 人間のただひとつの希望たる勇者に、性教育をしている。


「ええと、裸になって、触るっていうことですか?」


「そうだよ。お互いに触れ合ったりしながら、まあ、情熱のようなものを高め合うわけだな。その時、君の性器は非常に、その、猛々(たけだけ)しくなっていることだろう。だが、それは相手も同じだ。うん、順調にいっていれば、同じようなことになっていなくてはならない」


「でも、女の子に、アレはないじゃいですか」

 ルースは勢い込んで言った。


「問題はそこだよ。ルース君。私たち男は、女性にアレがないと思い込んでいるんだ。だが、ないわけじゃない。形が違うだけなんだ。女性は、男とは逆の形をしている、そう思いなさい。我々の性器がでっぱっているのに対し、女性の性器はへこんでいるんだ。我々が山。女性は谷、あるいは穴だ」


「谷? あるいは穴?」


「あるいは、我々は剣。女性は鞘でもいい。重要なのは、男の性器は、女の性器に、きっちり収まるということなんだ。まあ、基本的にはね」


 ええっ、とルースは思わず大きな声をあげた。衝撃だった。そんなことがあるのだろうか。


「ところで、君。女性がどのようにして子供を産むのか考えたことはあるかい?」


「大人になって結婚すれば、と聞きましたけど」


「間違ってはいないがね。つまり、結婚するほど仲の良い男女は、子供を作るための行為、これをセックスというわけだが、これをするんだ。つまり、そいつが……」

 

「その、合体的な行為ということなんですか?」


「いいぞ、その通りだ」


「だんだん分かってきましたよ、俺」


「よし、じゃあ、もう少し具体的に説明しようか。こういうことは、きちんと知っておいた方がいい。失敗すると、気まずくなるからね」


「し、失敗するんですか? 合体するときに? どうして?」

 動揺するルース。


「そうだな。いろいろと要因があるんだが……。剣と鞘の例えで考えてみれば、最初から綺麗に、スムーズに剣を収められるもんじゃないだろう? どんなことでも、スムーズに問題なく進めるためには、経験が必要なものなのさ」


 その夜、ルースは遅くまで、ロイドからセックスについての講義を受けた。



 ルースがロイドから、男として極めて重要な講義を受けていた頃、フラワとベルカーラもまた、長い話をしていた。


 部屋に戻ったフラワがシャワーを浴びに行く支度をしていると、ベルカーラから声をかけてきた。


「ルースとは、その、……したの?」


 振り返ると、ベルカーラが緑色の瞳を光らせて、真剣な顔をしていた。


 フラワは、凛々しい聖騎士の顔に見とれた。それから、首を横に振る。


「まだですよ。私の気持ちはいつでもいいんですけど。腐敗呪ロットカースがあるし。まだ無理かなって」


「そう。確かにそうね」

 それから、つぶやく。

「下手なことして、立たなくなったら困るし」


 フラワはそれを聞き逃さなかった。

「私、男の人のおちんちんが、どういう風になるのか、いまいちわかってないんですよ」


「私もそうだった。ロイドと初めてした時も、なんだかわからなかった。ちゃんと理解したのは、三度目の時」


「やっぱりロイドさんが恋人だったんですね」


 ベルカーラがうなずいた。頬が赤い。

「私が、ただ一人、愛した人」


 それから、ベルカーラはとつとつと語った。母親同士の仲が良く、幼い頃から兄のように慕っていたこと。

 成長するに従って、それが恋心に変わっていったこと。

 勇気を振り絞って、ロイドに愛を告げたこと。


 フラワは、ドキドキとしながら、ベルカーラの恋の話を聞いていた。口下手なベルカーラが、どもったり、口ごもったりしながら話すので、余計に話に感情移入できた。


 各国を飛び回り、中々、ルシディアナに戻ってこないロイド。彼の帰りを、いつも待ち続けていたこと。

 離れている時間が、再会した二人を強く情熱的に結びつけたこと。


 だが、それも終わりを告げる。2年前に、ロイドが別れを告げたのだ。


「どうしてですか。ベルカーラさんが、けなげに待っていたのに。浮気ですか。他の女ができたんですか。あの野郎」

 フラワがいきどおった。すっかり、ベルカーラに感情移入している。


「ロイドはそんな人じゃない。だけど、彼がそう望むなら、と私は受け入れた」


 父に勧められるまま、別の男性と婚約をしたこと。だが、後悔したこと。

 結局、相手方がベルカーラの気持ちを察し、婚約を破棄してくれたこと。


 ロイドが、ルシディアナに帰ってくると知り、もう一度、全力でぶつかってみようと思ったこと。


「それでビキニアーマーですか」


「男のアレは、時々、男を支配するの。男は頭だけじゃなく、アレでものを考えることもあるのよ」


 それに、フラワは、マジでっ、と大声をあげた。


 男のあの、ちんまりしたブラブラとした微妙な形状をしたアレは(フラワの頭に、同級生のバロール・キットが立小便をする様が思い浮かんだ)、自律思考ができるというのか。

 それどころか、脳みその代わりもするなんて。そんなスーパー器官だったとは。


「男って、すごいんですね」


「アレが第二形態を取っている時は、そっちで考えているわ」


「第二形態? えっ、変形するんですか? ひょっとして、手足が生えたり、いや、顔が浮かび上がったりするんですか?」

 フラワが青ざめた。グロテスクな想像に恐怖したのだ。

 おちんちん、怖えぇ。


「巨大化する。そうね、普段がナイフだとしたら、大剣グレートソードくらいになる。攻撃力が段違い」


「ま、マジっすか」


「私たちの中に、突撃してくる。あらゆる妨害を突破して」


「あの、それってつまり、いわゆる、あれの話ですよね。男女の営み的な?」


「そう、セックスの話」


「ですよね。大剣グレートソードが入ってくるわけですよね。ていうか、入るんですか? 入るものなんですか?」


「痛い。とても痛い」


「痛いんだ……。なんか、段々、したくなくなってきたんですけど。なんか、気持ちいいものだってイメージあったんですけど」


「最初の頃は痛い。だけど、幸せな気持ちもある。愛する人と結ばれたのだから」

 ベルカーラが、うっとりとした顔をする。それからまた真剣な顔になる。

「穴を間違えないようにしなさい。最初はきちんと誘導してあげるといい」


「えっ、間違えるって? えっ。そんなことあるんですか?」


「ある。アレで考えているときの男は、かなり馬鹿だから。部屋も暗いしね」


「うわっ、ないわ。間違えるとか、ないわ」


「ぶん殴りたくなるから」


「ですよねぇ」


「でも、なじらない方がいい。アレはかなりナイーブ。気持ちが折れやすい」


大剣グレートソードなのにぃ」


「一度、ロイドが、体も洗わず、屋外で、強引にしようとしてきたことがあった。頭にきて、不満をぶちまけたら、しばらく、第二形態になれなくなった」


「ええっ、ロイドさん、そんなことしたんですか。優しそうなのに」


「半年ぶりの再会だったから。娼館とかに行ってない証拠だと思って、あとから優しい気持ちになった」


「いろいろ、大変なんですね」


「ルースと一緒に、少しずつ学んでいくといいよ」


「はい。頑張ります。もっと、いろいろ聞かせてください。ベルカーラさん」


 二人は、夜遅くまで男とセックスについて、語り合うのであった。

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