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相変わらず腐っていますが

 ルシディア教。

 大陸で広く信仰されている宗教で、ルシディアを主神として祭る、宗教である。


 最高神であり、光と闇を司る神ルシディアには、6神の眷属がいる。

 炎と力を司る神、マルス。

 大地と心を司る神、エレダーレ。

 風と音を司る神、ヘルメルス。

 時を司る神、アルラアルナ。

 空と雷を司る神、ライディエル。

 そして、水と治癒を司る神、ロベリアンネ。


 各神には、それぞれ神殿があり、それをまとめる位置づけとして、ルシディア大神殿がある。

 要するに、それぞれの神殿は、ルシディア教の役所のようなもので、それぞれに違った役割が割り当てられている。


 例えば、ロベリアンネ神殿ならば、怪我人や病人の治療。

 マルス神殿なら消防組織というように。


 ルシディア大神殿があるのは、ルシディア教皇国の聖都ルシディアナ。


 白石がふんだんに使われた建物が、整然と並ぶ街並みは、まさに聖都の名に相応しい美しさ。巡礼に訪れた者たちは、ただただ、その神聖さに、感涙にむせぶ。


 その聖都に、今、一台の馬車が入った。

 二頭仕立てで、箱型。豪華絢爛とまではいかないものの、装飾も十分されている。


 御者席に座るのは、三十前後の青年。

 つばの広い帽子に、旅用のマント。マントの下には、ルシディア教共通の青い神官着を着てる。


 さすがは聖都である。

 青年ロイド・コルネリアスが着ている神官着が、高位の神官が着るものだと判別がつく。

 通行人の多くが、頭を下げて、馬車を見送った。


 馬車の中では、十代半ばの少年と少女が、仲良く並んで座っている。


 少年は、光をつむいだような金色の髪。瞳は良く晴れた空の色。絶世のといえるほどの美貌の少年である。

 襟元と袖口に刺繍の入ったシャツに、黒いズボン。シャツの上には革のベスト。


 少女の方は、ルシディア教皇国とその周辺諸国の女性たちとは、少し違った容姿である。


 この辺りでは見られない、薄いオレンジ色の肌。黒い瞳と黒絹の髪。彫りは深くないが、顔のパーツは整っており、まず美人といえるだろう。


 こちらは、白いスモッグ。木地も仕立ても良く、前述の御者の着ている高位の神官着と比べても遜色がないほどだ。


 少年の名はルーシフォス・バックネット。

 魔王を倒せる唯一の存在、勇者である。


 少女の名はフラワ・パンダヒル。

 勇者ルーシフォスの恋人である。


「やっとついたね。ルシディアナ。長かったなあ」

 フラワが言った。


「そうだね。まあ、俺は、馬車に乗ってるだけだったけどね」

 言ってから、ルースはフラワを心配そうな顔で見た。

「大丈夫かい? 調子、悪くない?」


「悪いっていえば、悪いけど。まあ、ずっと悪いからね。今夜あたり、ロイドさんに上級治癒ハイヒールかけてもらわないとかな」


 魔王の眷属ベルゼベルズの腐敗呪ロットカースを受けたフラワは、定期的にロイドから上級治癒ハイヒールを受けている。

 常に、接触治癒タッチヒールをかけているが、それでは限界があるのだ。


「もう少しの辛抱だよ」


「うん。ごめんね、腐臭とか死臭とか、きつかったでしょう?」


「大丈夫だよ。慣れたから。それより、フラワの側にいたいから」


 ルースはフラワの手を握った。

 ぐにゃっ、とした柔らかすぎる感触。冷たくて体温はまるで感じない。


「もう、どれだけ惚れさせたら気が済むのよ。あっ、心の声が漏れた」


 ぺろっ、というよりも、でろ~ん、と舌を出す。ポトっ、とその舌先が膝の上に落ちた。


「フラワ、舌が落ちたよ。はい」


 ルースは舌先を拾って、フラワに渡した。


「ごめんね。腐ってて、ごめんね」


「いや、大丈夫。フラワは腐ってても可愛いよ」


 世界を救う宿命の勇者と、呪いを受けた少女なのに、なぜかバカップルぽさが漂う二人であった。



「ここがルシディア大神殿。さすがに、大きいねえ」

 フラワが、白石で造られた神殿を見上げて、言った。


 数十メートルはあろう幅広の階段が、三十段ほど。神殿はその先に建っている。

 大きい。ブレン・ブルーのロベリアンネ神殿が丸々三つは収まりそうな大きさだ。

 

 正面に台形の建物が建ち、その両脇に細長い建物が建っている。その間には渡り廊下がある。

  

「悪いが、中を見て回っている時間はないんだ。すでに教皇様に話はいっているからね。すぐに謁見いただけるだろう」

 ロイドが言った。


「まあ、私、腐ってるんで、ウロウロしてたら浄化とかされそうだし。いいですけど」


「すぐにでもフラワを治してもらいたいです」


 ロイドは、ただでさえ細い目を、いっそう細めた。ルースとフラワは、手をつないでいる。

 クルネド王国の王都クラウディオで、ドラゴンを退治して以来、二人の仲は良好。

 ロイドにしてみれば、結構なことである。


 すでにロイドの属する対魔王組織『光の矢』には、勇者を確保したことを報告してある。さらにベルゼベルズとアナンテアという、魔王の眷属を撃破したことも。


 クルネド王国で密かに謁見した同国の王ヘイラスは、一刻も早く勇者の存在をおおやけにするべきだ、と主張した。


「勇者殿には、魔王を釣り上げるための餌となっていただくべきだ。我が国のように、余計な被害を出さぬためにな」


 アナンテアが暴れたのは、王子が勇者であるという噂のせいだ、とヘイラスは言い張った。


 実際、その可能性は大きいだろう、とロイドは思った。

 ただ、確かに勇者は魅力的な餌になるかもしれないが、人間側にしてみれば最大の武器である。

 これを失えば、人間の負けは確定。そんな最重要の存在を、下手なことで消耗させるべきではない。


 ルシディア教皇ガリオン・ルシードならば、すでに勇者への処遇を考えているだろう。

 ロイドの肩の荷も降りるというものである。


 階段を上ると、神殿の入り口に、青い神官着の上から白銀の鎧をつけた者たちと、高位の神官が待っていた。


「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」

 高位の神官が、ルースに深く頭を下げると、言った。


 先に立って、神殿内へと入っていく。

 そのすぐ後ろに、ロイド、ルースとフラワと続く。鎧をつけた者たちは、フラワとルースを囲うように両脇について歩いた。


「ルース、なんかかっこいいよ。騎士様っぽいよ、この人たち。あの人なんか、女聖騎士って感じで、超素敵だよ」


「なんか皆さん俺より、勇者っぽいよね」


「もう、ルースが一番かっこいいに決まってるでしょう。私の勇者様なんだからあ」


「ありがとう。フラワも一番、可愛いよ」


 ロイドの常に笑っているような顔が、やや引きつった。二人の会話が微笑ましさを通り越して、馬鹿っぽい。

 大丈夫か、こいつら、と思われてないだろうか。


 チラリと、わずかに振り向いて、聖騎士の一人に目をやる。

 茶色い髪をポニーテイルにした、凛々しい女騎士。

 彼女ベルカーラは、ロイドの元恋人だった。


「あっ、ロイドさんが、女聖騎士さんを見た。狙ってるんじゃない。ねえ、狙ってるんじゃない」

 フラワが言った。


「綺麗な人だよね」


「ブウ、ブウ、他の女に綺麗とか言うな、ブウ」


「フラワ、そんなに頬を膨らませたら、黄色い汁が出ちゃうよ。それに、もちろんフラワが一番、綺麗だよ」


「ルース大好き。超好き。もう好きすぎて、溶けちゃうよ」


「フラワ、鼻が取れそうだから、そんなに鼻の穴広げないで」


「そんなことより、ルースも好きって言って」


「もちろん、俺もフラワが大好きだよ」


 ブフフフ、とフラワの笑い声。

 アハハハ、とルースの笑い声。


 ロイドは片手で顔を押さえた。

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