表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/58

男だからとか女だからとか関係ないんだよぉ

『ブルンガル』という店に来た。

 フラワが行ってみたいっていってたから、きっと欲しい物が置いてある場所なんだろうな。

 看板には、魔法道具店と書いてある。

 魔法道具ってことは、魔法がかかっている道具なんだろうな。


 魔法のことはよく知らない。

 なんか、魔法の文字や魔法の図形で、スキルみたいな不思議なことを起こす、とかなんとか。【SP】がいらなくて、誰にでも使えるのがいいところ、とかなんとか。


 魔法道具は、魔法がかけられた道具のこと。

 

 魔法道具は身近にもありふれてて。

 例えば、蛇口なんかは魔法道具だよね。

 コックをひねっただけで水が出るんだから。


 あとは、普通のロウソクの何倍も長持ちする魔法のロウソクとか。火を使わないで明るい光を出す、光石とかね。


 ここ、『ブルンガル』に売っているのも、そういう魔法の道具なんだろう。


 玄関ドアを開けようとした、フラワが、ホエエって声をあげた。

 フラワ、驚いたときに、そういう声出すんだ。


「すごいよ、ルース。ドアが勝手に開いたよ」

 目をキラキラさせて言った。


 いや、それ、たぶん、中から人が開けたんじゃないかな?


 やっぱり人が出てきた。

 フラワの顔が真っ赤になった。


 可愛いな。フラワって、本当に。


 店内には、アクセサリーがたくさん売っていた。ネックレスやベルト、指輪とかね。

 そして、値段が、ものすごかった。

 うわっ、て思わず言っちゃったもん。


 桁が多いよ。とても手が届かない。


 でも、フラワが欲しがってる物、買ってあげたいな。

 いくらくらいだろう。


 フラワは、トップに花弁の飾りがついたネックレスと、飾り気のない銀の指輪、赤い宝石のついた腕輪の三つで、迷っているみたいだ。

 どれもステータスが上がる代物。

 

 どれがいいと思う、って聞かれたから、ネックレスって答えた。

 フラワの着ている白いスモッグは、袖口とか襟ぐいとかに、丁寧な刺繍がされてるけど、飾り気がない。

 ネックレスは革ひもだけど、トップの花弁は作りが凝ってるし、可愛らしい。きっとフラワに似合うと思う。


「いや、私じゃなくて、ルースがつけるんだよ」

 

「お、俺が……。でも、これどれも女性向けの物だよ」


「そうだけど。ルースがつけなきゃダメなの。【HP】8じゃあ、危なすぎるもん」


 えっ、じゃあ、ひょっとして、フラワが欲しい物って、俺のステータスを上げるためのものだってこと。

 そのために、あんな怪しい宿でも気にしないって笑ったり、食事代を減らすために食前に干しスライムを食べたりしてたの?


 なんだよ、それ。

 なんで、こんないい子なんだよ。

 俺なんて、足ばっかり引っ張ってるのに。


「決めた。腕輪にしよう。一度、ギルドに行って、ラビットボールをお金に変えてくるね」


 あ、いろいろショックを受けている間に、フラワが、決めちゃった。

 でも、ちょっと、待って、その腕輪、小さすぎない?


 指摘すると、フラワが、しまった、って顔をした。ものすごく顔に出るんだよ、フラワって。


「ネックレスにしようか。ちょっとつけてみようよ」


 えっ、でも、それ可愛すぎるよ。俺がつけるの、おかしいよ。


 ひるむ俺をよそに、フラワが店員さんを呼んだ。

 試着していいか聞く。

 

「はい、ルース、つけてみて」


 そんな可愛い顔で渡されると、嫌とはいえないよ。

 店員さんの顔が、あなたがつけるんですか? みたいな感じになってるけど。


 ええと、どうやってつけるんだ。

 ネックレスなんて、つけたことがないもんなあ。


 フラワが背中に回って、ネックレスを結んでくれた。手が首に触れるたびに、心が跳ねた。


 あっ、なんだろう。体が軽くなったような感じがする。そう、元気になったような。

 すごく体調が良い朝みたいな。


「大丈夫そうだね。これくださ~い」



 宿を変えることにした。

 いくらなんでも、あの宿はないよ。

 フラワに申し訳なさすぎる。

 朝、よく声をかけてくれるベテラン戦士の人に聞いたら、お勧めの宿を教えてくれたんだ。


『ブルンガル』での買い物を終えてから、さっそく行ってみる。

 冒険者ギルドの近くにある『優しい宿』って店。


 連泊すれば二部屋で、一泊一万エネル。

 昨日までの宿に比べたら、ちょっと高くなるけど、それでも格安なんだ。


 受付のおかみさんが、二人部屋を提案してくれた。

 ベッドが二つあって、一人部屋を二つとるより3000エネルも安くなる。

 でも、フラワが同じ部屋で寝てたら、俺、絶対寝れない。

 きっとフラワのことばっかり考えて。


 偶然、体が触れたときに、フラワのことをすごく意識しちゃうんだ。胸の膨らみとか、ほんのり赤みのかかったクリーム色の肌とか。

 そういう自分に嫌悪感があって。

 フラワのことを、そんな風に見ちゃいけないって思うんだけど。


 ベッドに横になって、目を閉じると、どうしても変なことばかり考えちゃうんだ。


 もしかしたら、ひょっとしたら、ベラさんみたいなことしちゃうかもしれないし。


 二人部屋を断って、一人部屋を二つお願いすると、フラワの唇がとんがった。


「私は、同じ部屋でも良かったんだけどな」

 ボソっとフラワが言った。


 えっ、ちょっと、なにそれ。


 いや、違う。違うぞ。

 フラワはただ、俺が、変なこと考えちゃうような奴だって、知らないだけなんだ。


「ダメだよ。俺だって男なんだからさ。その、フラワに変なことしちゃうかもしれないし」

 フラワの顔が見れなかった。




◇◇◇




 次の日。

 昼前にレベルが上がった。

 よし、また一つ強くなった。ちょっとずつでも、強くなってるんだ、俺。


 相変わらず、フラワがラビットボールを、すごい勢いで倒してたけど。

 もう、辺り一面、血の海。

 

 本当にフラワのステータスは、どうなってるんだろう。

 ラビットボールを倒す動きとか、全然、見えないんだけど。


 一度、ステータスについて聞いたら、笑ってごまかされた。

 きっと、俺が惨めにならないように、気を使ってるんだと思う。

 優しい子なんだよ、フラワは。


「今日はいっぱい狩ったぞ。いっぱい働いたぞ」

 帰り道、フラワがホクホク顔で言った。


「すごい量倒してたよね」


「ふふふっ、600体狩りました。18万エネルの稼ぎです」


 600体……。

 いっぱい倒してるなあ、とは思ったけど。

 多いなあ。


「あっ、こっちから行けるみたいだよ」

 フラワが路地に入っていく。

 その路地を抜けたら、冒険者ギルドのある通りに出るのかな。


 二メートルくらいの幅の路地。

 頻繁に人が通っているらしくて、蜘蛛の巣が張っているとか、ゴミが散乱しているとかはなさそう。


 薄暗い路地の出口の方に、人影が見えた。

 あれっ、と思う間もなく、声がした。


「おっ、来た来た。待ってたぜ、ガキども」

 聞き覚えのある声。


 あっ、あの時の戦士だ。

 一昨日の夜に、フラワの悪口を言ってた、あいつ。

 両側には、仲間の治癒師ヒーラーと魔法使いもいる。


 まずい、そう思った時には、遅かった。


 魔法使いの杖が光って、俺たちの後ろに緑色の光の半透明の壁ができた。


「へっ、これで逃げられねえぜ」

 戦士がボキボキと指を鳴らす。

「たっぷり、お礼をしてやるからよ」


 フラワが、俺をかばうみたいに前に出た。

 考える前に、体が彼女の前に出る。


「彼女は見逃してもらえませんか」


 フラワは守るんだ。絶対に守る。

 例え、あいつらの靴を舐めることになったって、フラワには指一本触れさせない。

 絶対に。


「見逃すわけないじゃん。楽しみにしてろよ。殺してくれってお願いするくらい、ボロボロにしてやるからさ」

 治癒師ヒーラーが言った。

 目に憎悪がこもってる。


 なんとか、時間を稼ぐんだ。

 その間に、フラワを逃がして……。


「フラワ、俺が注意を引くから、その隙に逃げるんだ」

 小声で、ささやくように言った。


 俺だって、死ぬ気でやれば、ほんの少しくらい時間を作れるはずだ。

 フラワなら、その間に逃げられるかもしれない。


「体の骨をさ。全部、砕いてやるんだ。それで治すの。何度も、何度もね」

 治癒師ヒーラー女。


 ゾッとするほどの憎悪。

 この女は、フラワを壊すつもりだ。

 絶対に、フラワを逃がさないとダメだ。


 剣を抜いた。

 戦士も剣を抜く。


 当たり前だ。俺が先に抜いたんだから。

 斬り殺されたって文句は言えない。


 それでも。

 フラワの太陽みたいな笑顔が。

 夏の虫の大合唱みたいな笑い声が。

 月のない夜空みたいな瞳の輝きが。 

 なくなるよりは、ずっといいんだ。


「いいかい? なんとか、魔法板マジックボードをよじ登って逃げるんだ」

 もう一度、小声で念を押す。


 大声をあげた。

 自分を少しでも大きく見せるために。

 少しでも敵をひるませるために。


 戦士に向かって突進して、剣を大きく横に振った。

 後ろに下がって、軽くかわされる。


 俺は勇者なんだろう?

 だったら、こいつらをちょっとだけ足止めするくらい、できたっていいだろ?

 好きな子を守るくらい、できたっていいじゃないか。


 叫びながら、何度も剣を大振りした。


 ガキっと振り下ろした剣が、はじかれる。強い力で、後ろに押される。


「ケント、遠慮しないで斬っちゃって。ちゃんと私が治すからさ。万一、殺しちゃっても、そいつなら大丈夫よ。ルーシフォス・バックネットだもん」

 治癒師ヒーラー女が言った。


 そうだよ。俺は、ルーシフォス・バックネットだよ。

 治癒師ヒーラーに嫌われてて。

 ラビットボールさえ、自力で倒せないほど弱くて。


 だけど、そんな俺を。

 そんな俺に、言ってくれたんだ。

 ルースがいい、って言ってくれたんだ。

 フラワは言ってくれたんだ。


 戦士が剣を振るう。


 下がるな。

 斬られたって下がるな。

 しがみついて、押さえこめ。


 ガッ、とすぐ近くで、硬いものを叩いたような音がした。

 目の前に、黒いものが広がっていた。


 一瞬遅れて、それがフラワの髪の毛だと気が付いた。

 舞い上がる髪の毛の間から、フラワの頭に剣が載っているのが見えた。


「か弱い女の子の頭に剣を振り下ろすとか、最低ですね」

 フラワが言った。


 頭の上に載った剣を、素手でつかんで、折る。


 ひるんだ戦士にフラワが指で、なんかした。戦士が吹っ飛んだ。


 治癒師ヒーラー女が叫んで、片手を前に突き出した。

 フラワの黒髪と服の裾が、ふわ~と後ろに広がった。


 フラワが髪の毛を直す。


 治癒師ヒーラー女が、魔法使いに怒鳴る。

 今度は魔法使いが魔法を使った。

 緑色の矢がたくさん飛んでくる。


 なにかが、ぶつかってきた。

 フラワだ。フラワに押し倒されていた。

 

 すぐにフラワは、俺の上からどいて。

 魔法使いに、見えないほどの猛スピードで近づくと、吹っ飛ばした。


 治癒師ヒーラー女が逃げた。

 それをフラワが捕まえる。

 悲鳴をあげる治癒師ヒーラー女を、フラワが怒鳴りつける。


 治癒師ヒーラー女が、泣きながら謝った。

  

「今回だけですよ。次は私も自分を抑える自信ありませんからね」

 ニッコリ笑って、フラワが言った。



 あの後、受付嬢のメリッサさんに、三人に絡まれて、攻撃されたことを報告した。


「こういうことは、早く、きちんと報告しておかないと、面倒なことになるかもしれないもんね」とフラワ。


 絡まれたことなんて、なんにも気にしてないみたいだった。

 いや、そうでもないのかな。

 時々、チラッと視線を送ってくる。

 俺の反応をうかがっているみたいに。


 もちろん、フラワがあんなに強いなんて、ビックリしたけどさ。

 あの冒険者たち、まったく相手にならなかったもんな。

 ていうか、剣を頭で受けとめてたし。

 本当、すごいよ。


 フラワが強すぎることは、別にいいんだ。

 むしろ、安心かな。

 女の子だし。

 可愛いし。

 なにかあった時に、身を守れるんだから。


 だけど、できれば、俺が守りたいんだ。

 フラワが俺より強くても。

 俺が、守りたいんだ。


 夕食時に、そのことを話したら、フラワが泣きそうな顔で笑った。


「ルースは弱くなんかないよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ