こうして君に出会った
次の日から、味方は誰もいなくなった。
ギルドに行っても、メリッサさんはよそよそしくて。
俺も、もうメリッサさんに頼ることはしたくなかった。
俺のせいで、あんなに怒られたんだから。
パーティを組むことは諦めた。
一人で頑張るしかない、そう思った。
少し投げやりになったたのかもしれない。
モンスター退治に、街の外に出てみたんだ。
故郷の村や、その近辺はモンスターが少ない地域みたいで、今まで実際にモンスターを見たことはなかった。
それでも、ベラさんの家にあったモンスター図鑑を借りて、何度も読んでたから、ラビットボールくらいは知ってた。
ブレン・ブルー周辺の、街の壁のすぐ近くの草原。
すぐにラビットボールが現れた。
ピヨンピヨンって跳んでくる、ウサギ耳の生えたボール。見るからに弱そう。
慎重に近づいて、剣を振り下ろす。
斬った、と思ったのに、剣は地面を叩いていた。
落ち着け。落ち着け。
自分に言い聞かせて、もう一度、剣を振るう。
今度こそ、間違いなく剣が当たった。
……当たってなかった。
呆然と、地に触れている切っ先を見ていたら、ラビットボールがぶつかってきた。
避けようとしたけど、体がうまく動かなかった。
胸にラビットボールがぶつかってきた。
幸い、鎧で覆われている部分。
だけど、思った以上に衝撃があって。
尻餅をついていた。
体当たりの反動で、数メートル離れたラビットボールが、ピョンピョンと戻ってくる。
すぐに起き上がる。
フラッとした。
膝をついていた。
あれ、俺、一撃しか受けてないのに。
もう一発受けたら、まずいんじゃないか。
死んでしまうんじゃないか。
不思議と、それまで、自分が死ぬことを想像したことはなかった。
俺は勇者のはずで。
冒険者になって、たくさんのモンスターを倒していくはずで。
だけど、それは確定した未来じゃなくて。
ただ、そういう未来になるかもしれないって、だけのことで。
声をあげていた。
大きな声をあげて、夢中で、飛びかかってくるラビットボールを払っていた。
わめきながら、立ち上がって。
必死で逃げた。
門の内側に入るまで、俺は、パニックになってた。
気が付いたら、門の側に座り込んで、門番のおじさんに水を飲ませてもらっていた。
この日は、もう、なにもできなかった。
体力以上に、気力が無くなっていた。
ただただ、死の恐怖に怯えて。
それに負けた自分に失望して。
一人で泣いた。
次の日も、俺は何もしなかった。
ねぐらにしている橋の下で、流れていく水面を、ぼんやりと眺めていた。
勇者なんて、妄想なんじゃないか。
最弱のラビットボールに、ビビって逃げちゃうような、情けない奴なんだぞ。
勇気なんて、欠片もないじゃないか。
こんなもの、って、買ったばかりの剣を、川の中に投げ捨てそうになった。
全部やめて、もう故郷に戻ろうか。
ベラさんと結婚して、村長のあとを継いで。
そんな未来でいいじゃないか。
何もしない時間は、ひどくゆっくり過ぎていった。
自分を責め続けて、自分を笑って。
橋の影は、少しずつ場所を変えていった。
日が暮れた。
空腹だったけど、パンを買いに行く気力もなかった。
いつの間にか、眠っていた。
目を覚ましたのは、昇り始めた太陽の光を浴びたせいだった。
朝日は、街を赤く染めていた。
水面は、キラキラと輝いていて、泣きそうになるくらいに美しかった。
立ち上がった。
川の水で顔を洗って、水面に映る自分を睨んだ。
戦おう。もう一度、戦うんだ。
鎧を着て、剣を腰につける。
そうしたら、勇気がでてきた。
鎧の重さが、剣の重さが、心を軽くしたんだ。
パン屋へ行って、少し高いパンを買った。
ほんの少しだけどね。
少し高いパンは、値段以上に美味しかった。
今日の夕方、もう一度、このパンを食べよう。
意気揚々と、門の前まで歩いた。
だけど、門をくぐろうとすると、足が止まった。
自分に向かって跳んでくる、ラビットボール。
ピョンピョン。ピョンピョン。
体が、ブルブルと震えて、足がすくんで。
そんなことをしていたら、昨日の門番さんに心配された。
引き返した。
今日は諦めて、明日にしよう。
パン屋の近くを通った時、あのパンの味が口の中に広がった。
夕方に、もう一度、食べよう。
自分に約束したご褒美が、このまま橋の下に戻ることを止めた。
だけど、また門で足が止まったら。
今度は、もう勇気が湧いてこないかもしれない。
パンの味が蘇ってこないかもしれない。
なによりも、自分に、また失望するのが怖かった。
次は、もっともっと自分を嫌いになることがわかってた。
今日頑張らないと、動けなくなることがわかってた。
街の中で、戦うことはできないか。
街の中に、モンスターはいないか。
人食いネズミ。
図鑑で見た、大きなネズミの姿が、頭に浮かんだ。
強さは、ラビットボールやスライムより上。だけど、最弱のモンスターの部類だ。
生息地は、街の下水道なんか。
人食いネズミを倒せたら、ラビットボールなんか、怖がらなくても済むはず。
だって、人食いネズミはラビットボールより強いモンスターなんだから。
街の人に訪ねて、下水道への入り口を聞いて。
俺は走って、そこへ行った。
自分が臆病風に吹かれないように。
階段を下って、ずいぶん短くなったロウソクに火を付けて、鋼鉄の扉を開ける。
吐きそうな臭気。
目も開けていられないような臭いだった。
だけど、そんな刺激が、逆によかった。
恐怖を麻痺させてくれたんだ。
三メートルくらいのドロドロとした川。
それを挟む狭い道。
ロウソクの小さな灯りが、闇を少しだけ払う。
煙を手で払うみたいに、ほんの少しだけ。
ガリガリと音がして、ぼんやりとした視界に、茶色いものが飛び込んできた。
人食いネズミだ。
でっぷり太った猫くらいの大きさのネズミ。
そいつは、走ってきて、足の間を潜り抜けていった。
よろけながらも、振り返る。
その時、茶色い塊が飛びかかってきた。
その衝撃で、押し倒される。
必死で、体に乗った人食いネズミを、どかそうとするけど、すばしっこく動き回って逃げまわる。
脇腹に痛みが走った。
激痛。裂かれる痛みと、突き刺さる痛み。
声を上げながら、噛みついている、人食いネズミを殴る。剣の柄で殴る。
夢中で暴れた。全力で暴れた。
いつの間にか、人食いネズミはいなくなってた。
脇腹が痛くて、たまらなかった。
いつの間にか、足も頭も怪我をしていた。
たぶん、暴れていた時に、自分で傷つけたんだと思う。
それでも、あの時に比べれば、マシだった。
ラビットボールから逃げ出した、あの時よりも。
死にそうに痛かったけど。
歩くことも難しかったけど。
俺は、もう一度、戦ったんだ。
モンスターを追い払ったんだ。
小さな、本当に小さな誇りの欠片が、胸にあった。
次は、ラビットボールを倒そう。
人食いネズミより弱いはずだ。
人食いネズミを追い払えたんだから、きっと倒せる。
足を引きずって、とても時間をかけて、地上へ戻った。
まずは怪我を治して。
ギルドに行けば、誰かが治してくれるはず。
治癒師から嫌われていることなんて、考えなかった。
下水道の入り口から、冒険者ギルドまで、どうやってたどり着いたのか、あんまり覚えていない。
意識は朦朧としていて。
何度も気を失いかけて。
それでも、ギルドのドアの前になんとかついて。
体ごとぶつかって、ドアを開けた。
下水でとっくに鼻は効かなくなってて。
いつもギルドの中に漂う美味しそうな匂いなんか、わからなかった。
夢中で助けを求めたと思う。
そのまま、倒れた。
ギルドの床は温かいな、なんて思った。
体が痛いな。
そういえば、俺、みんなから嫌われてたよな。
馬鹿だな。ここにきても、治してくれる人なんているわけないじゃないか。
メリッサさんだって、あれだけ叱られたんだ、助けを出せるはずがない。
トントントンと足音が聞こえた。
台所で母さんが野菜を切るみたいな、軽快で、楽し気な音。
温かい手が、体に触れた。
その手が、本当に温かくて、心地よくて。
意識が溶けるみたいになくなった。
ふっと良い匂いがした。
夏の森の中みたいな匂い。
緑がいっぱいの、生命力に満ち溢れた匂い。
焼け付くように痛かった脇腹は、まったく痛くなくて。
冷えた体が、芯から温まっていて。
誰かが助けてくれた。
とても優しい人が。
この匂いは、その人の匂いなんだろうな。
どんな人なんだろう。
目を開けると、真っ黒い目があった。
月のない夜空みたいに、キラキラと星が瞬いていて。
すごく綺麗な瞳だった。
なぜだか、両方のほっぺたを、両手でつまんでいて。
柔らかそうなほっぺたが、伸びていた。
その手を離す。ほっぺたがちょっと赤くなってた。
一瞬、引きつった顔が、ふっと緩んで。
笑顔になる。
心臓が、ドクンと大きく鳴った。
なんだろう、まるで心に朝日が上ったように。
体の中が熱くなった。
どうしたんだろう、俺。
大怪我した後だからかな。
「顔、どうかした?」
そんな言葉がでた。少し声が、かすれた。
「えっ、どうして?」
彼女が少し首を傾ける。
黒い髪が、さらっ、と真新しい白い服の上を滑った。
「なんか、頬をつまんでたから」
とにかく、何かを話したかった。
彼女の声は、とても心地よくて。もっともっと聞きたかった。
ひくひくっと、彼女の頬が引きつった。
あれ、まずいこと言ったかな。
体を起こした。本当に、どこも痛くない。
それどころか、体が軽かった。
「君が治療してくれたのかい?」
「ええ、そうよ」
すごく誇らしそうな顔。
お礼を言うと、照れ臭くなったのか、顔を真っ赤にして、うつむいた。
可愛いな、この子。
女の子がいそいそと立ち上がる。
あっ、行ってちゃう。
焦って立ち上がった。
もっと、この子と話したかった。
仲良くなりたかった。
だけど、立ち上がると頭が少しスッキリして、ここがギルドだと思いだした。
周囲から向けられる冷たい視線。
そうか。
ダメだ。俺は、嫌われ者だから。
彼女に名乗ったのは、沸き上がってくる期待が、これ以上大きくなる前に、決着をつけたかったから。
大丈夫。君がくれた力のおかげで、もう少しだけ、前に進めそうだ。
彼女は俺の名前を聞いても、顔をしかめるようなことはしなかった。
治癒師なのに。
もしかしたら、まだ、なり立てで、あの本を読んでないのかもしれない。
「私は、フラワ・パンダヒル。フラワでいいわ」
なにか気取ったような声で言うと、片目をギュっとつぶって、パチッと開く。
開いた目がギョロっと睨んでくる。
な、なんだ、なんだそれ。
深刻な気持ちが、緊張感が、台無し。
我慢できず、吹き出しちゃった。
フラワは、ぷうっ、て感じで頬を膨らませた。
その顔が、また、すごく可愛い。
謝って、よろしくって手を出したら、その手をモミモミされた。
くすぐったくて、さっきの笑いの発作が込み上げてくる。
「よろしくね、ルース」
すごく明るい声。ヒマワリがいっぱい咲いたような声。
いろなんな声を持ってる子だな、と思った。
「とりあえず、顔洗ってきたら? 血がついてるよ」
言ってフラワがハンカチを出した。
ピンク色の可愛いハンカチ。
こう、女の子って感じの。
だけど、そんなの受け取れるわけない。
下水道で、人食いネズミと戦って、泥だらけだし。きっとすごく臭うし。
それに、俺なんかが使ったら、後で後悔するんだ、君は。
「君は、俺のこと嫌わないんだね。治癒師なのに」
フラワが、ほえっ、と大きな目を丸くする。
本当に表情が豊かだね。
「ひょっとして、ジョブチェンジしたばかりとか?」
「うん、ついさっき、ジョブチェンジしたところ」
「そうか。じゃあ、まだ読んでないのかな……」
本当に、今さっきジョブチェンジしたばかりなのかも。
もう少しだけでも、俺のこと、嫌わないで欲しいな。そう思った。
◇
トイレで鏡を見ると、あまりにも汚らしくて、ビックリした。
血がベッタリ、汚れ放題の顔。
こんな顔でフラワさんと話してたかと思うと、頭に、か~、と血が上った。
だから、フラワさん、チラチラと俺の顔を見てたのか。
しっかりと洗って汚れを落とす。
よし、綺麗になった。
鏡の中の見慣れた顔が、満足そうな顔をして、それから、すぐに暗い顔になった。
なにやってんだろ。
戻ったら、フラワさんも、俺の話聞いてるかもしれないのに。
彼女は、治癒師なんだ。真っ先に、『初めての治癒師』を読むに決まってる。
いや、受付嬢のアンナさんが忠告してるかもしれない。
メリッサさんだって、あれだけ俺のことで叱られたんだから、立場的に忠告しないとまずいだろうし。
フラワさんの明るい笑顔が、敵意に満ちた顔に変わって。
あんたなんて、治さなければよかった、なんて怒鳴られるかもしれない。
フロアに戻ると、フラワさんが、メリッサさんと話しているのが見えた。
ああ、やっぱり。
そんな風に失望したのは、たった三歩の間だけ。
フラワさんが、はにかみ笑いを向けてきた。
メリッサさんと目が合った。
彼女の眼差しが一瞬だけ、柔らかくなった。ほんの一瞬だけ。
俺のこと話さなかったみたいだ。
ありがとう、メリッサさん。
でも、やっぱり、自分で話そう。
これ以上、フラワさんの笑顔を見てたら、立ち直れなくなるから。
「綺麗になったかな」
「うん、もうまぶしくて目が開けられないくらい、美しいです」
頬を両手で挟んでフラワさん。
芝居がかかったその仕草が、面白くて、可愛くて、つい笑っちゃった。
「やっぱり、面白いね、フラワさん」
「あ、ちょっとその表情と角度を維持して。心の目に焼き付けておくから」
えっ、なにそれ?
よくわからないまま、身動きを止める。
「あっ、ちょっとズレた。まあいいや。ねえ、座ろうよ。なにか食べない?」
言おう。
もう、これ以上はダメだ。
フラワさんに迷惑がかかるかもしれない。
彼女だって、これからパーティを組まないといけないし。
先輩の治癒師と、仲良くしないといけないんだから。
テーブル席から、治癒師の人たちが睨んでいる。彼らの敵意を、フラワさんに向けちゃダメだ。
「俺とあんまり仲良くしない方がいいよ。その、君は治癒師だから、特に」
ありがとう、フラワさん。
短い時間だったけど、君と話してて、心がとっても明るくなったんだ。元気になったんだ。
「あっ、それってこれのこと? これ気にしてるの?」
フラワさんは『初めての治癒師』を手に持っていた。パラパラめくって、例のページを開いて見せる。
えっ、読んだの?
知ってたの、俺のこと。
じゃあ、なんで?
疑問が頭を駆け巡る。
フラワさんは満面の笑顔。
「大丈夫。大丈夫。私、人にやめろって言われたら、むしろやりたくなっちゃうタイプだから。触るな危険、とか書いてあったら、取り合えず触ってみるタイプだから」
気にしない?
だけど、あんなにはっきり書かれてたのに。
あんなに当てははまってたのに。
今だって、フロアの空気がピリピリしてるのに。
「で、でも、君がひどい目に……」
「別に平気だってば。ロベリアンネ神殿に行かなければいいんだし。もともと、行く気なかったし」
すごく軽い調子。心底、どうでもいいって考えてるみたいな。
君、本に載ってたね、すごい要注意人物なんだってね。でも、私、興味ないなあ。
って、そんな感じ。
戸惑っていたら、フラワさんが俺の手をとった。
ほっそりして、小さくて、温かい手。
だけど、引っ張る力は強くて。
こっちにこい、ってグイグイ引っ張られる。
気が付いたら、フラワさんと対面に座ってた。
「ルースはいつ冒険者登録したの? 最近でしょう?」
「一週間前。村から出てきたんだ」
「偶然だね。私も村から出てきたんだよ。村ってダサいよね。やっぱ街がいいよね」
故郷の村が頭に浮かんだ。
小さな村だったけど、みんな仲が良くて。
助け合ってた。
今思えば、最高の居場所だった。
「いや、もう村に帰りたいよ。俺……」
つい、そんな言葉が出た。
「ダメだよ、ルース。せっかく、あんな村から出てきたんじゃない。頑張って、街で暮らしていこうよ。あんな、狭くて、せせこましくて、ギスギスした村に戻って、惨めに一生を終えるっていうの?」
いや、別にギスギスした村じゃなかったんだけど。
ベラさんには振り回されたし、困ったけど、でも優しかったし。
「そんなに酷い村じゃないよ。山の中だけど、みんな優しくて仲良くて」
見送ってくれた両親の顔。
心配そうで、でも俺が一生懸命進んでいくことを、信じてくれていた顔。
そうだ。弱気になって、どうする。
ここまで来たんじゃないか。
人食いネズミだって追い払えた。
ゆっくりだけど、前進してるんだ。
目を開けると、フラワさんが料理を注文していた。
大盛りでお願いしますよ、大盛りですよ、と、ウェイトレスさんに念を押していた。
俺の視線に気づいて、首をちょっとかしげて微笑む。
「ありがとう、フラワさん。俺、もう少し頑張ってみるよ」
すっ、とフラワさんの目が細くなった。
笑みが消えて、剣で斬りつけるような鋭い目。
ドキっとした。
俺、なにか、気に障ること言ったかな。
「具体的に、どう頑張るの?」
「えっ、なんとか冒険者として、やっていけるように……」
「ルースはパーティ組まないの?」
「ほら、俺、治癒師から嫌われてるから、誰も組んでくれなくて」
なんだか、自分に言い訳しているみたいな気がした。
いや、俺、自分に言い訳してたのかな。
嫌われてるから、誰も組んでくれないから、しょうがないって。
「ああ、そうだった。忘れてたよ。ごめんね、心の傷口をえぐっちゃったよね。もう、私の馬鹿」
自分で自分の頭を叩くフラワさん。
叩くときに、舌先が唇から、ちょっとのぞいていて、目が変な方を向いていて。
なんというか、とても独特の顔で。
なんか、笑いの衝動が込み上げてきた。
それを必死で抑え込んでいたら、フラワさんが、前のめりになって、俺の手を両手で握った。
顔が近い。
たくさんの星が輝いてるような目。
意志の強そうなキリっとした眉毛。
形の良い鼻
ほんのりと、薄く赤みのある肌。
健康的な桃色の唇。
本当に、綺麗だった。
さっき、変な顔したのが嘘みたいだ。
心臓が、ドキドキと激しく暴れる。
彼女に握られた手が、熱い。
「私とパーティ組まない?」
えっ、この子、なんて言った?
なにを言った?
俺は、ルーシフォス・バックネットで。
治癒師から嫌われていて。
そのことをちゃんと話したのに。
俺と、パーティを……。
「パーティ組もうよ」
「でも、俺、本当に、君の足を引っ張るから」
声がかすれた。
心があふれだしそうだ。
「大丈夫。私、めちゃくちゃ足速いから。どんなに足を引っ張られても、平気だよ」
フラワさんは、そう言って、本当に、本当に、素敵な笑顔を浮かべたんだ。




