心臓のありか
●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売
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フォレストに命乞いをした結果、かくれんぼは続行となった。あのまま即発見、即終了となってしまえば、本末転倒だ。今度は見つからないようにしなくては……と屋敷の外周を歩いていると、どさ、と物音が響いた。
「いったーい! 転んじゃった!」
続けて聞こえてきた声に、反射的に駆けだす。道の先には門番のトーマスが──こちらに笑みを浮かべ立っていた。どこからどう見ても転んだ様子はない。
「ミスティア、みーつけた」
トーマスの微笑みに絶句する。
私は、絶望的にかくれんぼの才能が無い。
「御嬢様がかくれんぼで勝てるわけないよねぇ」
あははは、とトーマスは笑う。あれから私は、トーマスに促され、彼の部屋に向かった。幸い道中誰にも会うことなくここまで来ることが出来たけど、フォレストに続き今度はトーマスに命乞いをしなくてはならない。どう切り出せばいいかと、彼から視線を逸らし部屋を見る。
どこもかしこも、臓器のぬいぐるみが並んでいる。彼は「心がどこにあるか分からないから」と言って、臓器のぬいぐるみを作っている。脳でものを考えるから、心は脳にあるのか、心臓がどきどきするから、心は心臓にあるのか。苦悩の果てのことで、猟奇的な嗜好があるわけでもないらしい。
「あれ、何か数、変わってませんか? 小腸とか」
「うん! もっと上手くできると思って、どう? ミスティアの中身と取り替えっこできちゃいそうだよ!」
「確かにすごくよく出来てますね……」
トーマスは門番として働いているけど、仕立て屋として働ける腕を持っている。今私の着ている服も、クローゼットにある服も、彼が製作したものに占められている。季節や私の身長に合わせてくれるから、どんな時もぴったりで快適だ。
「あの、かくれんぼを続けたいのですが……」
私はぬいぐるみを眺めた後、おそるおそる切り出す。
「見つからなかったことにしてほしいってこと?」
「はい……」
「いいよ、別に。御嬢様捕まえたら何か、御嬢様独占できる権利とかかかってるならまだしも、今回そう言うの無いし、御嬢様が外出たいとか言い出さないなら何でもいい」
「すみません……」
とはいえ、私が外に出ないからといって皆も外に出ない、というのは完全に巻き込み事故になってしまっているし、私はインドア派だけど皆がみんなそうじゃないと思う。健康に良くない気が……。
「トーマスは外に出たいとか、思わないんですか」
「思わない。まぁ、思ってたときもあるけどね、外が素晴らしく自由で、楽しいと思ってたときは」
「今は違うんですか」
「実際外の感じ見てみて、そうでもないなって思った。知らなかったからこそ、よく見えるってことあるよねぇ、空想というか……服もさ、窓越しに人形が着ているものは良く見えても、実際自分が着てみたらそうでもなかった、なんてことない?」
問いかけられて、戸惑いを覚える。私の服は、今はもうすべてトーマスが作ってくれたものだ。着てみてそうでもなかったなと思ったことは無い。
「……トーマスの服はすべて好きなので、そういう落差を感じたことはありません」
「ありがとう」
トーマスは先ほどの砕けた調子ではなく、改まった様子で微笑む。
「でも、そんなんだから、御嬢様はかくれんぼで負け続けるんだよ」
「負け続ける? ま、まだフォレストにしか見つかってなく……」
「はは、開始早々見つかってるじゃん」
彼はそう言いながら、黒い本をこちらに差し出した。
「すぐに何かに手を差し出せる、何かあったと考えて走れる人は、かくれんんぼには向いてない。前にもあったでしょう、忘れちゃったの?」
彼の持つ黒い本には、『伝統的な縫製技術について』と記されている。
「好きなだけ逃げ続けなよ。僕を自由にしてくれたのは、まぎれもなく、ミスティアなんだから」
●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売
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