116話 見た目はとても可愛いのに…。
暫くソファーに体を沈めていたが、良い加減夕飯を作らないといけない時間になってきたので…渋々ソファーから体を起こした。
冷蔵庫の中身を確認して、レシピを組み立てていく。豚肉は…豚コマ肉があるから、それを良い感じにまとめて、下味を付けて、衣を付けて、そして揚げれば良いか。…夕飯を冷やしおでんのつもりで食材を買っていたから、豚カツ用の豚肉とかそもそも冷蔵庫に入ってないし。
豚コマ肉のパックを片手に、そっと日辻さんの顔を窺うと…まぁ、コレはコレでって顔をしていた。
ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、日辻さんを満足させる量の豚コマは流石に買っていなかったので、カツ以外の汁物やサラダを沢山作らないといけないと思い至り、想像だけで私はげんなりした。はは…冷やしおでんの具材って、汁物やサラダの材料になるんだなぁ…アハハ。
普段なら苦ではないのだが、如何せん先程のダメージがまだ残っているので…少し、しんどい。
「そう言えば…日辻さんって、あの時どうやったんですか?」
「めう?」
とは言え、約束は約束だからと、何とか気持ちを奮い立たせ…日辻さんの要望に答えた頃には私もお腹が空いた。うん、頑張ったもの私。
そんなこんなでモグモグとご飯を食べていた時に、ふと…日辻さんをぶん投げた時に感じた違和感を思い出したのだ。
普段なら、空気をたっぷり含んだとてもフカフカな毛をしているのに…あの時に関しては、そのエアリー感は全くなかった。
あの時…いつものフワモフの毛だったら、あのナイフ男は気絶せずに日辻さんの毛に包まれていたのだろうか。……うん、あのナイフ男は気絶していて良かった。もし起きてたら、絶対私が話の相手をしなきゃいけない場面だもの。
「お嬢さん、お嬢さん。羊さんがなんのこっちゃって顔をしとるで?」
「へ…あっ、すみません!!」
ああっ、普段影の精霊やアルベロ先生やルナさんとの会話のノリで、主語がない質問をしてしまった!!日辻さんがトキョンとしてるっ!!
「めぇ……あ、もしかして、捕縛した時のヤツ?」
「…そうです、それです。」
わぁ、日辻さんったら勘が鋭いなぁ…と言うか、私が疑問に感じると言ったらそれしか思い当たらなかっただけかもしれないけど。それでも、あの短時間で良く思い至ったな。
「めーう…感覚だから、詳しくは言えないけど、こう…毛の密度を何となくグワッと上げたら、ああなる。意外と固い。」
わぁ、ザックリ。そして、意外と固いって…確かに持った感触から、それなりの勢いで当たったら…うん、かなり痛そうとは思ったけど。
「そ、そうなんですか。もしかして、アレは日辻さんの奥の手とかなんですか?」
「めぅめ。アレは弾力性がないから、対人限定。」
う、ううん…話題を変えたくて聞いたから、別に奥の手でもそうでなくても関係なかったんだけど…日辻さんの反応が思いの外クールで、話題を変える隙が…マスコット的小動物に対して、こうしてアタフタ振り回されてる私って…。
「うきゅ、日辻さん。ルーちゃは今日、一緒じゃないの?どうか、したの?」
「め?…めぇ、ご主人は、今日は…趣味の日?みたいな。明日には出てくる。」
ああ…毎回私が困ると、小春が助け船を出してくれる。…何と言うか、小春に頼る前に私で話のオチくらい考えておけば、こんな事にならなかったんだよな。…見切り発車、良くない。
そして、そう言えば小春にはルナさんが籠ってるのは伝えてなかったな。
「そうなの?良かったの…最近、あまり元気じゃないみたいだったから…。」
「アレは完璧にご主人の自業自得だから。」
ぐふっ!?ほのぼの会話の中の、それもルナさんに対する言葉なのに…何故だか私にもダメージが入る。どうして……あ、『自業自得』って所か。成る程。
「ルナさんに差し入れとか持って行ったら、喜びますかねぇ?」
「めぅ、オススメしない。ああなったご主人は、気が済むまで周りが見えない。邪魔する人にも、容赦しない。」
ど、どんな状態なんだ。って、私ルナさんがちゃんとモノを作ってる所って見た事ないかも。
いやでも、そう言うモノかもな。真剣に何か一つの事に取り組んでいる時って、最後は自分との戦いな訳だし…だから端から見ていたら興味深くて面白い訳だけど、普通は外部の人が面白半分で見に行く場所ではないよね。
それに…と、友達だからって、その人の全てを把握するとかは、ちょっと違うし。付かず離れずが、私達的にはちょうど良いよ、うん。




