111話 顔が広い主従だな。
結局小春のご機嫌が直ったのはとっぷり日が暮れた後で、そんなに長話しないと踏んで学園に無断でアルベロ先生の部屋に来ていた私は冷や汗を禁じ得なかった。…ま、まぁ、とっぷりと言っても日は跨いでないし、警備係であるアルベロ先生が何も気にしていなかったから…ギリギリ大丈夫だったと思うしかない。この際変な噂立っても良いから、何も問題がありませんようにっ!!
「はぁ…あれ?」
お昼までは事務仕事をして、午後からの受け付けの仕事が一段落した時に昨日の事を思い出してしまい、不安や気まずさとかで重めの溜め息を吐いていると…何とも見覚えのあるシルエットがこちらに飛んできた。あの手乗りサイズ、モコモコしたシルエット、そして飛んでくると言えば…。
「めぅ…め?」
「日辻さんじゃないですか。ルナさんはどうしたんですか?」
日辻さんも私に気が付いたのか、こっちに寄ってきてくれた。あ〜、最近はたまに受け付けに入ってるけど、基本私の仕事は外回りメインだからね。驚くのも無理はない。
それにしても、学園外でルナさんと別行動してる日辻さんを見るのは初めてだな。別行動しているルナさんには会った事あったけど…日辻さんはなんと言うか、食べ物が得れそうな所に居るイメージだった。
「めぇ…ご主人がレポート明けのテンションで鍛冶場に入ったから、今は散歩。」
あ〜…あっ、はい。何かわかった。ルナさん、朝イチにギルドに報告書を出しに来た時はまだ元気そうだったんだけどなぁ…そう言えば、あの骸骨やゾンビ辺りを片付けてる時に面倒なレポートを抱えてるとか何とか言ってた気が。…あの時に言っていた由榎さんのスパルタ指導を、ルナさんは受けたのだろうか。
「そう言えば、日辻さんって柚季さん…えっと、何か妙に嫌な感じがしていた執事さんとお知り合いだったんですね。」
「めう。アレは良いクッキーだった…だからこそ、残念。」
ふと、そう言えば柚季さんと日辻さんって知り合いだったなぁと思い出した。別に、だからどうしたって話なんだけど…。
「最近になって、あの体質が改善されたそうですよ。良ければ会いに行ってあげてください。」
「め〜、気が向いたら…はっ、これはパウンドケーキの気配!?」
日辻さんがいきなりハッとした表情をしたので、身構えたら…日辻さんの口から出てきた言葉に、ズルッと転けかけた。パウンドケーキって…日辻さんらしいけど。
「あ、モコモコさんだ〜。今日も一緒にお茶してく?」
「め。」
後ろから事務部の先輩さんが、日辻さんに向かって声を掛けた。…モコモコさんって、日辻さんの事…だよな?いや確かにモコモコしているけど。もっと色々モコモコした存在あるでしょう。いつかのコワタハナクマ…だっけ?歩くテディベアみたいな二匹とか、小春だってモコモコと言ったらモコモコですよ?…いや、でも…確かに日辻さん以上に『モコモコ』と言う形容詞が似合う存在はない…か。
「日辻さん、ギルドの事務部のお姉様方のお茶会にまで参加してるんですか。」
「めう。量は少ないけど質は良い。」
「事務職が食べるオヤツに量を求めないでください…。」
はぁ…ルナさんはルナさんで顔が広いけど、日辻さんは日辻さんで独自のコミュニティーを築いているんだなぁ。似た者同士だとは常々思っていたけど。
それにしても、パウンドケーキか…私の分があるか分からないけど、日辻さんの期待値が高いと、こっちまでワクワクしてくる。
「めぇ…でも、ここのオヤツの時間まで時間がある。…はっ、あの執事さんの所に行けばワンチャン…!!」
「さ、早速行ってくれる気になって良かったです。」
柚季さん、この時間にキッチンに居るんだろうか?まぁ、柚季さんは人が良いし、モフモフの戯れに飢えてるし、日辻さんならちょっとした隙間から部屋の中に侵入出来るし…柚季さん、日辻さんが懐いた衝撃で可笑しなテンションにならないと良いなぁ。
「め、ご主人は多分明日の朝まで出てこないから、夕飯ご馳走になって良い?」
「別に構いませんよ。小春も喜ぶでしょうし。」
と言うか、ルナさんが明日には出てくる事に少し驚き。…あ、そうか。学校があるからか。




