110話 先生の心境は分からない。
漂白影の精霊がやっとノーマル影の精霊になったのを見届けてから、後片付けを騎士団や後から来た方に任せて、最初から参加していた私達は一旦家に戻って仮眠を取ってから、各自出勤や登校をした。
…さて、アルベロ先生の事だからもう報告書を書いて影の精霊に提出させているだろうし、騎士団の方や冒険者の先輩達の好意で先に帰らせてもらった恩を仕事で返さなければ。
いつにも増してバリバリ事務仕事をしていると、アルベロ先生が提出した報告書が目に入った。…そう言えば、私もそろそろ報告書を書かないとな…昼休みにでもまとめるか。
「さて…と、アルベロ先生が言葉を濁した訳を見ようではないですか。」
いかにもアルベロ先生らしい癖のない文字を目で追っていくと、良くある狂人がやらかした類いの話だったのだが…読み進めれば読み進める程に読むスピードが落ちていった。
一応最後まで読んでから、この感情はアルベロ先生に直接言わないといけないと思った。
「っし、今日もお仕事頑張りますか。」
「夜風さん、今日は何だかやる気だね〜。」と総合部の部長であるロアイトさんに言われて、曖昧に笑って誤魔化した。…アルベロ先生には誤魔化すなとか言ったのになぁ。はぁ…。
「こう言う禁術って、どこから漏れるんですか?」
一回仕事から帰って、服を着替えて小春をモフモフモギューとしてから、転移魔法でアルベロ先生の部屋に直接向かった。…いや、小春を連れていくのはどうかと思ったけど、今は取り敢えず癒しが欲しくて…。
「お〜、お疲れ〜。後、知らん。」
わおバッサリ。…まぁ、それが出来たら誰も苦労しないか…。
「はぁ、お疲れ様です。アルベロ先生の報告書、見ました。」
アルベロ先生は、やはりあの時元凶を叩きに動いていた。面倒事はさっさと終わらせたいアルベロ先生らしい働きと言える。
そして…そこで見たモノと言うのが、崖下に設置した陣に向かって生け贄の子供――下は三歳、上が十八歳くらいが、生け贄が飛び降ると言うモノだった。ただ、幸か不幸かアルベロ先生が来た時にはそれほど酷い状態にはなっていなかったらしい。…厳密には、酷い状態になっていたらしいが。
「つか、良くそんな状態でここまで分かりますね。」
「あ?陣に書かれた内容読めば一発だろうが。」
あーはいはい、相変わらず凄いですねアルベロ先生。
報告書には、その子供達が飛び降りた崖と言うのが致命傷を負うが直ぐに意識が途切れて死なないと言う高さと書かれていた。血、肉、骨、魂と一緒に負の感情を呼び水として、更には飛び降りていなかった生け贄を喰らった上で、あの古の戦士達を呼び出したらしい。
…因みに、その飛び降り前の生け贄を喰らった段階で術者である件の狂人も取り込まれている。
「どうして飛び降りていなかった生け贄や、術者も取り込まれたと?」
「影の精霊に調べさせた。」
そこで影の精霊が出てくるか…まぁ、その辺を真面目に調べると骨が折れるからな。
まぁ、何より…確かに、これはちょっとあの場では言えないな。アルベロ先生でも空気読んだのが分かる気がする。
「お前さぁ…あの時は言わなかったが、俺普段そんなに空気読んでねぇの?」
「読んでるか読んでないかと聞かれたら読んでない方ですよ。」
それだけ自分の意思がしっかりあるって事でもあるんだけど…アルベロ先生は感情が読めない上で実力がアレだから、何だか現実味がないって言うか…。
「え〜、俺こんなに分かりやすいのに。」
「どの辺が?」
アルベロ先生が真顔でそう言うので、私も思わず真顔で返してしまった。…いやうん、本当どの辺が分かりやすいか教えてほしい。
「むぅ…琴姉ばっかり先生さんとお話しズルいの!!私も先生さんとお話しするの〜!!」
そう言って、小春が私の膝からピョンと飛び降りてアルベロ先生に駆け寄った。…むくれた小春は可愛かったけどちょっと私は傷付いたぞっ!!




