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かみさまっ子!!  作者: Tone
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第5話

さおり様視点になります。

「いなくなっちゃやだ──か……」


 暗く、窓からの月明かりしかない静かな部屋でひとりごちる。


 この部屋は飲み会のリタイア組み用の部屋。要するに酔いつぶれてぐっすりと眠っている者しかいない。

 だから聞こえてくるのはドンチャン騒ぎの喧騒ではなく、きれいな虫の音色。


 虫の音に耳を傾けながらも、私は自分の膝に目を向ける。


 そこにいるのは、私の膝を枕代わりにしてぐっすりと眠っている絵美。目元を少しだけ腫らしてるけど。


 まさか、あの量のお酒でっていうか、チュウハイを一、二本しか飲んでなかった気がするが、それだけであんなに怒ったり、泣いたりするとは思わなかった。絵美にはお酒は飲ませられないかなとも思う。


 そっと、絵美の頭を撫でる。撫でてやると「っん」と言って、体を私の方に寄せてくる。


 ほんとにかわいいなぁ、もう。


「さーちゃん」と呼ばれたのは、いつ振りだろう。いや、いつから「さーちゃん」と言わなくなったかはわかっている。


「さーちゃん」から「さおり様」に変わったきっかけ。一つの事故。二つの死に一つの再生。私の自己満足な選択でこの子を苦しませてしまった。


 でも、その選択事態に後悔はない。それが絵美を苦しませたとしても。


 もし、また同じようなことが起きたなら、起きてしまったなら、私は同じことを繰り返すだろう。


 なぜなら、絵美は私の大切な巫女であり、なによりも私の大事な娘であるから。


 もう二度と事故で娘を失うなんてことは味わいたくない。


 家族を失うことは辛い。それは神様であろうと変わらない。あのときに絵美まで失っていたら、私はとてもじゃないが耐えられない。


 だからこそ、今、絵美の寝顔が見ることができるのに安堵する。


「さー、ちゃ。い、な……く」


 絵美の寝言に自然と頬が弛んでしまう。寝言からしてあまり夢身が良くないのかもしれないが、「さーちゃん」と呼ばれることが嬉しい。


「心配しなくても、ここにいるわよ」


 起こさないようにそっとつぶやいて、絵美の手を包み込むようにやさしく握ると、絵美の寝顔が安心した表情になる。


 その表情にますます頬が弛んでしまう。


 ほのかな月の光にささやく虫の音、そして絵美の寝顔。またとない幸せな一時に酔いしれる。これにお酒が加われば、もう文句のつけどころがない。


 だが、無粋にもがらりと部屋の扉が開いた。


 入ってきた人物に目をやり、ため息を吐いた。そこにいたのは壮年の男。幸せな一時を壊された苛立ちを込めながら言葉を発した。


「あら、こんなところに来てもいいのかしら? 女たらしで種馬の主催者さん? それとも、私を口説きにでも来たの?」


「誰が口説くか。それに種馬なんて呼ぶな」


「百何十人って子供を腰振ってつくったお猿さんをなんて呼べばいいのかしら?」


「それは人が作った神話の中の話だ。って、知ってて言ってるだろ。──もういい、どうにでも呼べ」


「じゃあ、盛り猿さん、何の用?」


「お前、本当に酷いな。いじめか、いじめなのか。これだから女は怖いんだよ」


「冗談はこれまでにして、ほんとに何しに来た? 大国主」


 声の調子を落として、冷たく突き刺さるように言った。しかし、大国主は何事もないように平然と受け答える。


「少し飲みすぎたから、酔い覚ましに来ただけだ。主催がいなくても気づきはせんさ」


 言いながら、私の隣に腰を落とした。酔い覚ましと言っているくせに、ちゃんとお酒を持っている。


「ほれ、飲むだろ」


 押し付けがましいが、欲しいとは思っていたので差し出してくるお猪口を受け取り、口をつける。


 大国主も一人で注いで飲んでいる。内心で舌打ちする。こいつさえいなければ良いのに。


「くくっ、そんな俺がここにいてはダメか?」


「ダメね。全てが台無し」


 大国主は私の言葉を聞きながら小さく笑い続ける。


「相変わらず冷たいな。さっきの飲み場みたいにはせんのか? とてもおもしろかったんだがな」


「何でお前に対してそんなことしなきゃいけない」


「その子が大事か?」


「大事よ。お前なんかに比べ物にならないほどにね。この子が想ってくれたから、一度消えた私がここにいることができているのよ」


 大国主が顔をしかめたのがわかった。


「消えただと?」


「えぇ、でもこの子のおかげで、私はまたこの世に生き返ることが出来た」


 そう言って、私は表情を緩めてしまった。大国主がそれを見て、また笑い始める。


「まったく、あんなに神らしい神だったお前が、よくそこまで変わったものだな。その顔、母親のそれと同じだぞ」


「うるさい。それに昔のことを掘り返すな」


「いつまで続けるつもりだ」


 笑っていた大国主の声がまじめになり聞いてきた。続ける? 一体何を? 何をこの男は聞いている?


「人が神になれないように、神もまた人にはなれん。神からしたら、それはとんだ茶番でしかない」


 大国主の言葉がしんと静まる部屋に長く留まり続けたような気がした。


 だけど、私はその言葉を鼻で笑う。確かに大国主の言う通り茶番でしかない。私がしていることは、子供がプロ野球選手になるために努力しているのではない。某怪獣と戦う宇宙から来た巨人になるために努力しているのと同じなのだから。しかも、大の大人がそれをやっているんだから、笑われて同然だ。


 しかし、私がどうしようが私の勝手だ。少なくとも大国主に言われる筋合いはない。


 それに──


「たとえ、なることができなくても、真似ることならできる。人が神を真似るように、神も人を真似ることができる」


「だが、それは所詮──」


「偽者だと言うのか? 偽っているとでも? それを含めて私だ。人になることはできないが、限りなく人に近い神にはなれる。神の生き方に私の幸せはなかった。だけど、人の生き方には、人生には私の求める幸せがあった」


「どうして、そこまで人に惚れこむかね」


「神は人により生まれたもの。人と共に生き、人と共に死ぬ。それが神。人が神に合わせるのではなく、神が人に歩み寄るものよ」


「だが、人が望む神はそれではない。人が望む神は人を超えたものだ。お前がやっていることは、それの真逆だ。それは人に対して裏切りでしかない。人に惚れこむのはいい。俺も人は好きだ。だが、それは神としての責任を放り投げていい理由ではない。たとえ、信じられることが少なくなった今の世でもだ。神が人に対する責任を放り投げて人が望むことに答えないのなら、神は人を脅かす危険な存在でしかない」


 大国主の言葉に私は黙り込んでしまった。大国主の言うことは最もなことだからだ。私がどんなに頑張ろうと神であるのだから、神としての責任から逃れられるわけがない。私がなりたい神と人の望む神が一致しない。私は人に望まれて生まれたのだから。


 もし、人の望みに答えないのなら、私は人から必要とされずに神としての意味をなくして消えてしまうだろう。とはいえ、今の世でも、参拝客の願いや神社の行事でそうそう人の望みに全く答えないことはないのだが。


 ようやく大国主の意図がわかった。そこまでされるほど私は馬鹿じゃないんだがな。


 お猪口のお酒を飲み切って、ふぅっと息を吐いて大国主に言おうとしたその時──


「私が望んでいます!!」


 突然、絵美が起き上がって言うのだった。


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