08話 初心者の遊び方と、恋愛相談②
『オレが前に出て、リサが後ろから攻撃する』
『二人で倒すための役割』
『お互いに出来ることをやるのがパーティー』
『そうなんだ』
『二人で倒すんだ』
自分は役割の説明をしたつもりだった。
タンクは敵を集める。
DPSは攻撃する。
ヒーラーは回復する。
でも、リサが受け取ったのは違う。
「二人で倒す」
その言葉が、妙に頭に残った。
自分の役目ばかり見ていて、いつの間にか「みんなで倒す」という当たり前を、考えなくなっていたのはいつからだろう。
初心者を連れてレベル上げするなら、自分で全部倒した方が早い。
今まではそうやって、効率のいい方ばかり選んできた。
でも最近は違う。
リサに覚えてもらうために、わざわざテンポを落としている。
自分が全部倒したら、「二人で倒した」にはならないからだ。
効率は落ちる。
なのに、今は一緒に倒した方が、自分も楽しいと思っている。
(……なんでだ)
◇ ◇ ◇
マサキは、画面の前で固まっていた。
『彼女います?』
チャット欄に、その文字が残っている。
(こいつどうした……)
一昨日まで、狩り場の話と装備の話と、立ち回りの話くらいだった。
それが昨日、急に高校生かどうかを聞いてきて、少し学生っぽい話をして、今日は彼女。
距離の詰め方がおかしい。
いや、ゲーム内だからなのか。
チャットだから聞きやすいのか。
利害もなければ、共通の知り合いもいない。
匿名だからこそ、恥ずかしい本音など、赤の他人の方が話しやすいというのがあるんだろう。
(彼女はいない)
事実だ。
クラスでも目立たない。
家に帰ったらゲーム。
そんな人間に彼女がいる方がおかしい。
マサキは短く打つ。
『いない』
妙に間がある気がした。
(……なんだよ)
次のチャットが来た。
『好きな子は?』
「……は?」
声が出た。
(なにこれ、尋問か?)
マサキはキーボードに指を置いたまま止まる。
好きな子。
そんなものはいない。
女の子とまともに喋ったこともないのに。
異性と自然に話せるやつがおかしい。
オレにはそんなことできない。
女の子と普通に話せるなら、もう少し違う高校生活だったはずだ。
マサキは短く打つ。
『いない』
送信してから、やはり少しだけ間がある。
『気になる子は?』
マサキは眉間を押さえた。
(だから、なんなんだ)
距離の詰め方が急すぎる。
普段なら、こういう踏み込み方をされたら一歩引く。
でも。
(……なんか、いいんだよな)
その感覚が、自分でもよく分からなかった。
戦闘中にする、どうでもいい世間話。
それだけ打ち解けたということなのかもしれない。
内容はさておき、今はそのやり取りが少し楽しい。
相手のキャラクターは、戦闘モーションで小さく杖を揺らしている。
中身が本当に女の子かどうかは分からない。
<気になる子は?>
顔の知ってる相手で、会話らしい会話をした女の子なんて、ほとんどいない。
目が合えば挨拶をしてくれる如月さんくらいだ。
でも、あの子は誰にでもそうする。
向こうからすれば、クラスメイトの一人でしかない。
『いない』
送ったあと、すぐに返事。
『そっか』
マサキは椅子の背にもたれた。
リサのキャラクターが、小さく跳ねる。
それで話が終わった。
なのに、キーボードから指を離せなかった。
『リサは?』
気づけば、そう打っていた。
打った手を、マサキはしばらく見つめていた。
(……いや、会話を続けようとしただけだ)
別に、相手の恋愛事情なんて興味ない。
ゲームのフレンドだ。
なのに、返事を待っている。
程なく、チャット欄が動いた。
『ちょっと気になる人できました』
『でも、あんまり話したことなくて』
その一文を、もう一度読み返す。
(話したことないのに気になるって、やっぱ見た目か……)
画面を見たまま、考え込む。
別に、リサが誰を好きでも関係ない。
ゲームのフレンド。
顔も知らない。
声も知らない。
現実でどこの誰かも分からない。
それなのに、その<気になる人>という文字だけが、やけに引っかかった。
話したことがないのに気になる。
たぶん、顔がいいとか、雰囲気がいいとか、そういう理由なのだろう。
学校にいる、目立つ男子。
人前で自然に話せるやつ。
クラスの中心にいるようなやつ。
勝手に、そんな相手を想像してしまう。
(……なんでモヤついてんだ)
意味が分からない。
この子は、ゲーム内でたまたま助けた初心者だ。
ログインを待たれた。
チャットが来る。
装備を考えた。
狩り場を調べた。
それだけなのに。
気になる人がいる、と言われて手が止まっている。
マサキは画面を見つめる。
『もっと話しかけてもいいと思います?』
話しかける。
その相手は、リサの気になる人。
知らない誰か。
その誰かに、リサが近づく。
嫌というほどではない。
ただ、胸の奥がざわついた。
リサが別の誰かと親しくなる想像が、なぜか頭から離れなかった。
ただ、チャットの文字だけで。
自分は、この相手を少し気に入ってしまっている。
居場所を奪われそうな焦りと、言語化できないモヤモヤ。
その事実に気づきかけて、マサキはすぐ目を逸らした。
話したこともない相手を好きになるなんて、ろくなことにならない。
放っておけないだけ。
危なっかしいから見ているだけ。
そういう相手が現実で変な男に引っかかったら、面倒だから気になるだけ。
(だからなんで気になる)
マサキはゆっくり打つ。
『急に詰めすぎると驚くから、少しずつがいい』
一呼吸置いて、続きを打つ。
『あまり話したことないなら、挨拶とか』
送ったあと、画面の前で小さくため息をついた。
挨拶くらいなら、それ以上にはならない。
毎朝交わしていても、それだけだ。
距離なんて、簡単には縮まらない。
少なくとも、オレと如月さんがそうだ。
リサから、すぐ返事が来る。
『なるほど、じゃあ少しずつにします』
その文字を見て、マサキはなぜかほっとした。
ほっとした自分に、我ながら呆れた。
少しして、リサのキャラクターが嬉しそうに跳ねた。
(挨拶だけなら、何も変わらない)
ここまで読んでくださってありがとうございます。
少しでも気に入ってもらえたら、ブックマークや評価で応援してもらえると嬉しいです。
今後の励みになります(・v・)♥




