表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
引退するはずだったオンラインゲームで、オレは初心者とこの世界をもう一度好きになる  作者: 空色いろはに


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/15

08話 初心者の遊び方と、恋愛相談②

『オレが前に出て、リサが後ろから攻撃する』


『二人で倒すための役割』


『お互いに出来ることをやるのがパーティー』


『そうなんだ』


『二人で倒すんだ』


 自分は役割の説明をしたつもりだった。


 タンクは敵を集める。

 DPSは攻撃する。

 ヒーラーは回復する。


 でも、リサが受け取ったのは違う。


「二人で倒す」


 その言葉が、妙に頭に残った。


 自分の役目ばかり見ていて、いつの間にか「みんなで倒す」という当たり前を、考えなくなっていたのはいつからだろう。


 初心者を連れてレベル上げするなら、自分で全部倒した方が早い。

 今まではそうやって、効率のいい方ばかり選んできた。


 でも最近は違う。

 リサに覚えてもらうために、わざわざテンポを落としている。


 自分が全部倒したら、「二人で倒した」にはならないからだ。


 効率は落ちる。

 なのに、今は一緒に倒した方が、自分も楽しいと思っている。


(……なんでだ)


 ◇   ◇   ◇


 マサキは、画面の前で固まっていた。


『彼女います?』


 チャット欄に、その文字が残っている。


(こいつどうした……)


 一昨日まで、狩り場の話と装備の話と、立ち回りの話くらいだった。

 それが昨日、急に高校生かどうかを聞いてきて、少し学生っぽい話をして、今日は彼女。


 距離の詰め方がおかしい。


 いや、ゲーム内だからなのか。

 チャットだから聞きやすいのか。

 利害もなければ、共通の知り合いもいない。


 匿名だからこそ、恥ずかしい本音など、赤の他人の方が話しやすいというのがあるんだろう。


(彼女はいない)


 事実だ。


 クラスでも目立たない。

 家に帰ったらゲーム。

 そんな人間に彼女がいる方がおかしい。


 マサキは短く打つ。


『いない』


 妙に間がある気がした。


(……なんだよ)


 次のチャットが来た。


『好きな子は?』


「……は?」


 声が出た。


(なにこれ、尋問か?)


 マサキはキーボードに指を置いたまま止まる。


 好きな子。

 そんなものはいない。


 女の子とまともに喋ったこともないのに。

 異性と自然に話せるやつがおかしい。

 オレにはそんなことできない。

 女の子と普通に話せるなら、もう少し違う高校生活だったはずだ。


 マサキは短く打つ。


『いない』


 送信してから、やはり少しだけ間がある。


『気になる子は?』


 マサキは眉間を押さえた。


(だから、なんなんだ)


 距離の詰め方が急すぎる。


 普段なら、こういう踏み込み方をされたら一歩引く。


 でも。


(……なんか、いいんだよな)


 その感覚が、自分でもよく分からなかった。


 戦闘中にする、どうでもいい世間話。

 それだけ打ち解けたということなのかもしれない。


 内容はさておき、今はそのやり取りが少し楽しい。


 相手のキャラクターは、戦闘モーションで小さく杖を揺らしている。

 中身が本当に女の子かどうかは分からない。


<気になる子は?>


 顔の知ってる相手で、会話らしい会話をした女の子なんて、ほとんどいない。

 目が合えば挨拶をしてくれる如月さんくらいだ。

 でも、あの子は誰にでもそうする。

 向こうからすれば、クラスメイトの一人でしかない。


『いない』


 送ったあと、すぐに返事。


『そっか』


 マサキは椅子の背にもたれた。

 リサのキャラクターが、小さく跳ねる。


 それで話が終わった。

 なのに、キーボードから指を離せなかった。


『リサは?』


 気づけば、そう打っていた。

 打った手を、マサキはしばらく見つめていた。


(……いや、会話を続けようとしただけだ)


 別に、相手の恋愛事情なんて興味ない。

 ゲームのフレンドだ。


 なのに、返事を待っている。


 程なく、チャット欄が動いた。


『ちょっと気になる人できました』


『でも、あんまり話したことなくて』


 その一文を、もう一度読み返す。


(話したことないのに気になるって、やっぱ見た目か……)


 画面を見たまま、考え込む。


 別に、リサが誰を好きでも関係ない。

 ゲームのフレンド。

 顔も知らない。

 声も知らない。

 現実でどこの誰かも分からない。


 それなのに、その<気になる人>という文字だけが、やけに引っかかった。


 話したことがないのに気になる。

 たぶん、顔がいいとか、雰囲気がいいとか、そういう理由なのだろう。


 学校にいる、目立つ男子。

 人前で自然に話せるやつ。

 クラスの中心にいるようなやつ。


 勝手に、そんな相手を想像してしまう。


(……なんでモヤついてんだ)


 意味が分からない。


 この子は、ゲーム内でたまたま助けた初心者だ。

 ログインを待たれた。

 チャットが来る。

 装備を考えた。

 狩り場を調べた。

 それだけなのに。


 気になる人がいる、と言われて手が止まっている。

 マサキは画面を見つめる。


『もっと話しかけてもいいと思います?』


 話しかける。

 その相手は、リサの気になる人。


 知らない誰か。

 その誰かに、リサが近づく。


 嫌というほどではない。

 ただ、胸の奥がざわついた。

 リサが別の誰かと親しくなる想像が、なぜか頭から離れなかった。


 ただ、チャットの文字だけで。

 自分は、この相手を少し気に入ってしまっている。

 居場所を奪われそうな焦りと、言語化できないモヤモヤ。

 その事実に気づきかけて、マサキはすぐ目を逸らした。


 話したこともない相手を好きになるなんて、ろくなことにならない。

 放っておけないだけ。

 危なっかしいから見ているだけ。

 そういう相手が現実で変な男に引っかかったら、面倒だから気になるだけ。


(だからなんで気になる)


 マサキはゆっくり打つ。


『急に詰めすぎると驚くから、少しずつがいい』


 一呼吸置いて、続きを打つ。


『あまり話したことないなら、挨拶とか』


 送ったあと、画面の前で小さくため息をついた。


 挨拶くらいなら、それ以上にはならない。

 毎朝交わしていても、それだけだ。

 距離なんて、簡単には縮まらない。

 少なくとも、オレと如月さんがそうだ。


 リサから、すぐ返事が来る。


『なるほど、じゃあ少しずつにします』


 その文字を見て、マサキはなぜかほっとした。

 ほっとした自分に、我ながら呆れた。


 少しして、リサのキャラクターが嬉しそうに跳ねた。


(挨拶だけなら、何も変わらない)

ここまで読んでくださってありがとうございます。

少しでも気に入ってもらえたら、ブックマークや評価で応援してもらえると嬉しいです。

今後の励みになります(・v・)♥

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on counter_img.php?id=41111809&main=1
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ