07話 初心者の遊び方と、恋愛相談①
ログインすると、いつもの取引所前だった。
効率を求めていた頃の癖で、ログアウトする場所はここに決まっている。
そんなことを考える必要は、もうあまりないはずなのに。
そこへ、リサがワープで飛んできた。
『こんばんわ!』
『こんばんは』
打ちながら、画面の中のリサを見て、指を止めた。
見た目が変わっている。
頭の大きなリボンはそのままに、服装だけががらりと変わっていた。
杖は初期装備のまま。
その分、コーデに使った装備はどれも安いものばかりだ。
高い服を揃えたわけじゃない。
手が届く範囲で組み合わせて、それでもちゃんと<自分の見た目>を作っていた。
(武器より先にコーデか)
野良パーティーなら、先に見られるのはまず装備の性能だ。
プレイヤースキルなんて、一緒に戦ってみないと分からない。
だから、まず装備を整える。
自分もずっとそうしてきた。
強く見られたかったわけじゃない。
そういうものを求められる場所だったから、それに合わせていただけだ。
でも、リサは違う。
武器より先に、好きな服を着たかった。
(やりたいって言ってたもんな)
リサは<周りに求められる装備>じゃなく、<自分が着たい服>を選んだ。
そういう遊び方も、このゲームだった。
『コーデ変えたんだな』
リサの頭の上に「!」マークが出る。
『ごめんなさい』
自分の頭の上に「?」マークを出す。
『装備まだ1着しかないのに、我慢できなくて』
『お金使っちゃって』
『武器まだだったのに』
(なんで謝る……)
ゲームを楽しむために使った金だ。
悪いことじゃない。
そういえば、ハウジングもやりたいって言ってたな。
『今日はハウジングとか、そっちしたかったら、それでもいい』
『まだ家ないの。お金つかっちゃったから』
残念そうな一言だった。
文字だけなのに、それが分かる。
このゲームは、何をするにもゴールドが必要だ。
最初のうちは、とにかくお金が足りない。
お金……渡すか。
いや。
貸すだけでも。
それくらい自分には何でもない。
引退するつもりだった。
エンドコンテンツへ行かないなら、使う予定もほとんどない。
銀行に眠らせておくくらいなら…。
リサなら、きっとすごく喜ぶ。
……
(いや、ダメだろ)
そういうのは、一番やっちゃいけない。
金策は、正直、あんま面白くない。
オレだって別に好きじゃない。
でも、欲しい装備のために少しずつ貯めて、やっと買えるから嬉しい。
その過程まで飛ばしてしまったら、このゲームの楽しさを一つ奪うことになる。
上級者がやるべきことは、お金を渡すことじゃない。
『モンスターを倒すだけじゃお金にならない』
『オフラインのゲームと違って、お金を稼ぐ方法は戦闘と別にある』
『そうなんだー』
『金策にもいろいろあって、家があれば作物を育てて売る人もいる』
本当なら、「これが時給○万で1番効率がいい」と言えば簡単だ。
でも、効率を知らない初心者はきっと、楽しめないと続かない。
大事なのは<正解を与える>ことじゃなく、<モチベを維持>させることだ。
『武器や防具を作る生産とか、鉱石や植物を集める採集とか』
『ふんふん』
『レベル上げも兼ねるなら、フィールドでレアドロップ狙いとか』
『あと1日1回しか出来ないけど討伐依頼、これは毎日やった方がいい』
『やります』
『カジノもある。コイン景品を売って稼ぐ人もいる』
『やりたい!』
『最初のコインはゴールドで買うから』
『あ』
自分で言っていて、改めて気づく。
お金を稼ぐ方法なんて、本当にいくらでもある。
運営が用意した稼ぎ方だけじゃない。
プレイヤー同士が情報を持ち寄って、その時だけの旬の金策を見つけることもある。
「今めちゃくちゃ儲かるぞ!」
「乗り込め!」
ああいう、みんながやり始めて相場が下がるまでの<お祭り騒ぎになる瞬間>は、嫌いじゃない。
<プレイヤーが遊び方を作っていく>のも、このゲームの楽しみ方だった。
『相場見て安い時に買って、高い時に売る転売もある』
『ここにも転売ヤー!?』
(オレもそう思う)
ゲームの世界なのに、いるんだよな。
現実と変わらない理不尽さも存在する。
『経験値も入るし、お金にもなるから』
『まずは討伐依頼』
『やる!』
マサキは職業を守護騎士に切り替えた。
高額な討伐依頼は、そのぶん敵も強い。
常に回復役にまわるより、リサへ攻撃が向かないよう自分が前へ出た方がいいかも知れない。
討伐の依頼主のNPCは、町の入口の近くにいる。
だが、あそこは人が集まりすぎて、そのNPCが埋もれ見えないほどだ。
慣れていればそれが目印みたいなものだが、始めたばかりの初心者には見つけられなかったのだろう。
『町の入口に依頼主が立ってるから、そこで』
マサキが先に歩き出す。
『一緒にやってくれるの?』
チャットだけなのに、少し弾んでいるように見えた。
『1人だとまだちょっと危ない』
『過保護』
『いや本当に危ない』
『心配性』
(違う)
心配してるんじゃない。
今のレベルじゃ危ないってだけだ。
(いや、それを過保護で心配性っていうのか……?)
討伐の受注の効果音が鳴って、地図に赤い印がひとつ増える。
『オレが敵を集めるから、リサは範囲攻撃で』
『はい』
『敵のHPが減るとヘイトがリサにも向くから』
『敵が先に攻撃するのを待って』
『攻撃されたあとは次の攻撃まで少し時間がある』
『その隙に、なるべく早く範囲攻撃』
(これで伝わるか?)
『ヘイト?』
(あ……)
専門用語だった。
長く遊んでいると、それが当たり前になってしまう。
攻略サイトにも、パーティーチャットにも、当然のように転がっている言葉。
リサには、聞いたことがない単語なのだろう。
(どう説明すれば伝わる……)
『敵は一番ムカつく相手を狙う』
『だから先にオレが嫌われとく』
『え!Mくん悪くないのに』
『いやいや』
『そういう仕事だから』
『そんなんダメじゃない?』
『嫌われるっていうか、敵の攻撃を引き受ける役で』
『装備も攻撃を受ける用にしてるし』
『そのための強いスキルもある』
『だからってMくんだけ嫌われるのは違うよ』
思わず苦笑する。
ゲームの話なのに、本気でこっちを心配しているらしい。
(嫌われるって言葉通りに受け取りすぎだろ)
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